本書はNHKのETV番組「問われる戦時性暴力」(2001年1月30日放送)の制作担当者として、はからずも番組改ざんの実行者になった著者が贖罪の気持ちに駆られてまとめた書物である。事件にかかわった役職員が今も沈黙を続ける中でNHKの隠ぺい体質を告発した著者の良心に賛辞を贈りたい。
特に、「自分に火の粉が降りかかると、自分は弱い存在だから、自分はサラリーマンだからと逃げる」NHK職員の自己保身体質を執拗に追及する著者に強い共感を覚えた。
ただ、その一方で著者は、番組改ざんの渦中で板挟みの立場に置かれた伊藤律子番組制作局長を随所でいたわっている。しかし、伊藤氏は放送の直前に海老沢会長(当時)が自分を呼び出して元「従軍慰安婦」らの証言を削除するよう指示したことを著者に漏らしながら、それを公にしないまま世を去った。
また伊藤氏は問題の番組の放送日前に著者を呼び出し、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が出版した図書を取り出して同会に属した中川昭一氏が番組にクレームをつけて来たと語ったが、裁判でこの発言が問題になると、あれは放送の後だったと言い換えた。
そうまでして伊藤氏は何を守ろうとしたのだろうか?
著者はまた自分の直接の上司で番組改ざんに手を染めた吉岡民夫教養番組部長を責める気はない、自分も同じ弱虫だからという。しかし、こうまで上司をかばい続けてよいのだろうか?
吉岡氏は安倍晋三氏に呼びつけられたのではなくNHKから出向いたことにしようという口裏合わせがあったことを同僚に明かしたが、この件が裁判で問題になるとあっさりと前言を翻した。
番組製作者の内部的自由は不可欠だ。しかし、こうした自己保身体質を引きずったままでは「仏(制度)造って魂入らず」にならないか?
評者:醍醐 聡 東大名誉教授
特に、「自分に火の粉が降りかかると、自分は弱い存在だから、自分はサラリーマンだからと逃げる」NHK職員の自己保身体質を執拗に追及する著者に強い共感を覚えた。
ただ、その一方で著者は、番組改ざんの渦中で板挟みの立場に置かれた伊藤律子番組制作局長を随所でいたわっている。しかし、伊藤氏は放送の直前に海老沢会長(当時)が自分を呼び出して元「従軍慰安婦」らの証言を削除するよう指示したことを著者に漏らしながら、それを公にしないまま世を去った。
また伊藤氏は問題の番組の放送日前に著者を呼び出し、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が出版した図書を取り出して同会に属した中川昭一氏が番組にクレームをつけて来たと語ったが、裁判でこの発言が問題になると、あれは放送の後だったと言い換えた。
そうまでして伊藤氏は何を守ろうとしたのだろうか?
著者はまた自分の直接の上司で番組改ざんに手を染めた吉岡民夫教養番組部長を責める気はない、自分も同じ弱虫だからという。しかし、こうまで上司をかばい続けてよいのだろうか?
吉岡氏は安倍晋三氏に呼びつけられたのではなくNHKから出向いたことにしようという口裏合わせがあったことを同僚に明かしたが、この件が裁判で問題になるとあっさりと前言を翻した。
番組製作者の内部的自由は不可欠だ。しかし、こうした自己保身体質を引きずったままでは「仏(制度)造って魂入らず」にならないか?
評者:醍醐 聡 東大名誉教授