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 『過労死の労災申請』改訂増補(自由国民社)の紹介(1)

 ◆ はじめに

 寒い晴れ渡った日の朝、私の弟は亡くなりました。
 マンションのベランダから身を投げたのです。1999年12月34歳でした。私は弟の死の知らせを勤務先で知りました。パニック状態になり、最寄りの駅まで歩くことができず、タクシーを拾いました。明るくて、仕事熱心な弟がどうして自ら命を絶たなければならなかったのか。葬儀の席上で弟の上司たち数人に事情を聞きましたが、皆、一様に顔をこわばらせてうつむくだけ。そして、その後も「仕事とは一切関係ない」と繰り返すだけでした。私は弟から「毎日夜遅くまで働いている」と聞いていたので、「仕事の影響ではないのか」「労災ではないのか」という考えが頭のなかを駅け巡っていました。


 しかし、過労死の労災申請をするためには、遺された家族が、仕事が原因の死であることを証明しなくてはなりません。弟は一人暮らしだったので、仕事の内容も、働いていた時間なども具体的にはわかりませんでした。労働実態を教えてもらうために、弟の会社の同僚や友人たちに何度も電話をしたり、会いに行ったりしました。私は働きながら、調査を一人で行わなければならず、それは大変な作業でした。休暇も聴き取りのために全部使いました。


 やっと労災申請にこぎつけましたが、証言の裏付作業が必要となったため、会社を退職し、弟のマンションに残っていた書類やコンピュータ内のデータすべてに目を通しました。残業は、月80~100時間を超えていたと推定できました。

 労災は認定されたものの、認定まで2年8ヶ月も待たされました。その間、知人を通じて、過労死・過労自殺の遺族やその支援者たちの話を聞く機会に恵まれました。私は、このとき初めて、自分がひとりぼっちではないことを知りました。遺族や支援者の皆さんからは、労災保険の仕組み、関係情報の集め方、厚生労働省の「認定基準」などについて教えてもらいました。また、労働基準監督署への情報が不足していたこともわかり、聴き取りをし直して、追加資料を労基署に提出しました。このことが、弟の労災認定の上で大きな力となったのです。

 本書は、過労死・過労自殺の遺族や支援者の体験を集めて編んだ本です。いわば「遺族と支援者の知恵と経験の集大成」です。私のように労災申請のしかたがわからなくて、ひとりぼっちで困っている遺族をなくすために、この本をつくることを思い立ちました。本書では、労災申請の手続きを中心に、知っておくべき最低限のことや、自分ひとりでも申請の準備ができるように提出すべき書類の見本やひな型などを掲載しました。また、遺族のメンタル面にも配慮し、精神的につらいときの過ごし方などさまざまな体験談を盛り込んでいます。さらに、第7章には遺族の経験を活かした過労死の予防策も提示しています。

 今、労働者を取り巻く環境は悪化の一途をたどっています。会社が導入に熱心な「成果主義」や「裁量労働制」は、働く者を一層、長時間労働、過密労働に追い込みました。こうしたなかで、働き過ぎによって亡くなる人は相当数にのぼると推定されています。しかし、働き過ぎが原因で家族を失っても、労災申請の方法がわからないため、泣き寝人りしている人たちは少なくありません。また、今のままでは自分の夫、妻、息子、娘など家族が過労死するのではないかと心配をしている人も後を絶ちません。そういった人たちのために、そして、過労死のない社会の実現のために、この本が少しでもお役に立てれば幸いです。

 2007年11月

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