茨城県利根町布川(ふかわ)で67年、大工の男性(当時62歳)が殺害された「布川事件」の再審第2回公判で、水戸地裁土浦支部(神田大助裁判長)は30日、遺留品のDNA鑑定を実施しないことを決めた。検察側は有罪立証の要を失った形で、無期懲役が確定し仮釈放中の桜井昌司さん(63)と杉山卓男さん(63)は早ければ年内にも、発生44年目で事件について無罪となる見通しが強まった。
神田裁判長は法廷で鑑定に関し「実施の前提条件を欠いている」と述べ検察側申請を却下した。検察側は「必要性がある」と異議を申し立てたが、神田裁判長はその場で退けた。
検察側は5月、犯人の皮膚片が付着しているとして、被害者の首にまかれていた下着など4点のDNA鑑定を請求。弁護側は、取り調べの際につばが付いたりして2人のDNAが誤混入した可能性を理由に反対していた。
鑑定については専門家も「DNA鑑定がない時代に、複数の捜査員が素手で触り汚染されている可能性が高い」(押田茂実・日本大医学部教授)と疑問視。犯人特定に結び付く実効性に乏しいことなどから、地裁支部は「前提を欠く」と判断したとみられる。
2人は閉廷後に地裁支部近くで会見。桜井さんは「当然の判断」と地裁支部を評価する一方で「鑑定(請求)は検察の悪あがきとしか思えない」と批判。杉山さんは「大きな山を越えられた。無罪に近づいたと思う」と喜んだ。水戸地検の新倉英樹次席検事は「公判中なので証拠に関するコメントは差し控える」と話した。
2人は強盗殺人罪などに問われ78年に無期懲役刑が確定。有罪の根拠は捜査段階の自白や目撃証言だったが、第2次再審請求で「信用できない」と否定され再審が決まった。このため検察側は新たな有罪の根拠としてDNA鑑定を求めていた。
9月10日の第3回公判では「2人以外の人物を目撃した」と証言した近所の女性の証人尋問がある。公判は12月まで日程が決まっている。【原田啓之、吉村周平、大久保陽一
[毎日新聞]