警視庁麹町署に入る日本振興銀行前会長の木村剛容疑者=東京都千代田区で2010年7月14日午後3時18分、内藤絵美撮影 「債務者の気持ちが分かる金融が必要」と中小企業救済を目指して日本振興銀行の設立を宣言して7年。小泉政権時代に金融庁顧問も務めた同行前会長、木村剛容疑者(48)が銀行法違反(検査忌避)容疑で警視庁に逮捕された。自他ともに認める「金融のプロ」がすべてを支配していた「木村銀行」。逮捕容疑は、かつて自らも作成に携わった金融検査マニュアルに基づいた検査への妨害だった。【酒井祥宏、川崎桂吾、袴田貴行】
木村前会長は98年に35歳で日銀を退職後、金融監督庁(現・金融庁)の金融検査マニュアルの検討委員を99年まで務めた。その後、金融と企業財務の総合コンサルティング会社を設立すると、不良債権問題の論客として、頭角を現した。日銀時代からの著作や共著はビジネス分野の月別ベストセラートップ10の常連で、経営不振企業を実名で列挙した「大手30社リスト」の作成者とされ、一躍注目を集めた。
大きな転機は竹中平蔵金融担当相(当時)に抜てきされ金融庁顧問に就任した02年だった。任務は大手銀行が抱える不良債権の抜本処理を目指す「金融再生プログラム」の策定だった。その発言力は大きく、木村前会長が不良債権処理のプロジェクトチームのメンバーに起用されたとの情報が流れると、銀行株を中心に株価がバブル経済崩壊後の最安値を更新するほどだった。
「債務者の気持ちが分かる金融が必要。中小企業に必要な資金を供給する」。03年8月に日本振興銀行の設立を発表し、05年には社長に就任した。同年6月に会長になるとブログで「12年には1兆円の金融グループになる」と豪語したが、09年3月には商工ローン大手「SFCG」(破産手続き中)から買い取った債権の二重譲渡問題が発覚。今年3月期決算の純損益が51億円の赤字となり、引責辞任に追い込まれた。
金融庁顧問に就任前、毎日新聞の取材に「(不良債権問題は)個別銀行に任せておいては片づかない。金融当局が強権を振るう形で一斉査定するなどのプロセスが必要」と述べていた木村前会長。強く主張した金融検査に自らつまずいた形となった。
ある捜査幹部は「振興銀行は木村前会長の個人商店。木村銀行だった。検査忌避は木村前会長の了解なしにはあり得ない」とみる。経済ジャーナリストの須田慎一郎さんは「素人でもやらないような検査忌避をしたとするならば、金融のプロという自負と金融庁顧問をしたおごりがあったのでは」と指摘する。
◇日本振興銀行と検査妨害を巡る経過◇
04年4月 木村剛容疑者が東京青年会議所有志と開業
05年1月 社外取締役の木村容疑者が社長就任
6月 木村容疑者が社長を退任し会長に就任
08年4月 3月期決算で初の経常黒字と発表
09年2月 SFCG破綻(はたん)
3月 SFCGから買い取った債権の二重譲渡問題が発覚
6月 金融庁の立ち入り検査開始
10年3月 立ち入り検査終了
5月 木村容疑者が赤字決算の責任を取り退任
〃 金融庁が4カ月の一部業務停止命令
6月 金融庁が検査妨害で刑事告発。警視庁が家宅捜索
7月 警視庁が木村容疑者らを検査妨害容疑で逮捕
【毎日新聞】
木村前会長は98年に35歳で日銀を退職後、金融監督庁(現・金融庁)の金融検査マニュアルの検討委員を99年まで務めた。その後、金融と企業財務の総合コンサルティング会社を設立すると、不良債権問題の論客として、頭角を現した。日銀時代からの著作や共著はビジネス分野の月別ベストセラートップ10の常連で、経営不振企業を実名で列挙した「大手30社リスト」の作成者とされ、一躍注目を集めた。
大きな転機は竹中平蔵金融担当相(当時)に抜てきされ金融庁顧問に就任した02年だった。任務は大手銀行が抱える不良債権の抜本処理を目指す「金融再生プログラム」の策定だった。その発言力は大きく、木村前会長が不良債権処理のプロジェクトチームのメンバーに起用されたとの情報が流れると、銀行株を中心に株価がバブル経済崩壊後の最安値を更新するほどだった。
「債務者の気持ちが分かる金融が必要。中小企業に必要な資金を供給する」。03年8月に日本振興銀行の設立を発表し、05年には社長に就任した。同年6月に会長になるとブログで「12年には1兆円の金融グループになる」と豪語したが、09年3月には商工ローン大手「SFCG」(破産手続き中)から買い取った債権の二重譲渡問題が発覚。今年3月期決算の純損益が51億円の赤字となり、引責辞任に追い込まれた。
金融庁顧問に就任前、毎日新聞の取材に「(不良債権問題は)個別銀行に任せておいては片づかない。金融当局が強権を振るう形で一斉査定するなどのプロセスが必要」と述べていた木村前会長。強く主張した金融検査に自らつまずいた形となった。
ある捜査幹部は「振興銀行は木村前会長の個人商店。木村銀行だった。検査忌避は木村前会長の了解なしにはあり得ない」とみる。経済ジャーナリストの須田慎一郎さんは「素人でもやらないような検査忌避をしたとするならば、金融のプロという自負と金融庁顧問をしたおごりがあったのでは」と指摘する。
◇日本振興銀行と検査妨害を巡る経過◇
04年4月 木村剛容疑者が東京青年会議所有志と開業
05年1月 社外取締役の木村容疑者が社長就任
6月 木村容疑者が社長を退任し会長に就任
08年4月 3月期決算で初の経常黒字と発表
09年2月 SFCG破綻(はたん)
3月 SFCGから買い取った債権の二重譲渡問題が発覚
6月 金融庁の立ち入り検査開始
10年3月 立ち入り検査終了
5月 木村容疑者が赤字決算の責任を取り退任
〃 金融庁が4カ月の一部業務停止命令
6月 金融庁が検査妨害で刑事告発。警視庁が家宅捜索
7月 警視庁が木村容疑者らを検査妨害容疑で逮捕
【毎日新聞】