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 ■ 生徒を愛する教師が自覚すべきこと

 こんにちは、私は高校を中退した一フリーターです。今回はフリーターとしての自分の話をさせてもらいますね。タイトルはもじってギャグでつけました。フリーターとして元生徒としての立場で、話をさせていただきます。

 ■ 労基法って何ですか?
 私は居酒屋でアルバイトをしています。
 働いているのは全国チェーンの店ですが、あまり売り上げがよくないので、とても忙しい日以外は、誰かしらがシフトの時間になってもタイムカードを押すことも許されず、お客さんが入るまで無給で待機をしています。
 今の私は待機に協力なんてしていませんが、1年前は違いました。
 待機することに対して、何となく嫌だなあと思っていて、親にもおかしいと言われながら、それでも私は待っていました。待っている間に勉強だってできるし、とも考えていたからです。
 一日2時聞、酷いときは3時間。7時から12時までのシフトなら、給料が出るのは9時か10時からで、待機時間がーヶ月20時間を超えることもありました。
 月々の給料が7万円くらいなので、だいたい3分の1相当盗まれているということになりますでしょうか。
 今の職場に勤めはじめて2年。半年で10万以上も損していることを知って漸く、おかしいのだと気づきました。
 それから生まれて初めて、調べものの途中で知った労働基準監督署に訪ねていきました。


 労基署の職員は、待機を強制したという何らかの証拠がなければ、具体的には、命令を無視し働いたとして、出勤した時間分を給料から差し引かれたりなどしない限りは、店側から協力していただいただけと言われるまでだし、労基署としても動けないと言いました。「無賃で待機なんてしなければいいだろう」ということでした。
 労基署はまったく、何の役にも立ちませんでした。

 今年の3月に入って、店長に待機は強制であるのかどうか尋ねました。
 店長は強制ではなく、お願いしているだけと答えたので、今後私はシフトの時間通りタイムカードを押す、待機はしないと宣言しました。
 それに対し、明らかに気分を害した様子で「何、その言い方」と言ってきたのを覚えています。
 4月には仕事を干され気味になりました。
 なぜ出勤日数が減っているのかと直接抗議すると、店長は「それはあなたが待機をしないで、店に協力してくれないからです」といいました。
 強制なのかと再度確認をとると、彼は違うと否定しました。私が何らかのペナルティが発生する以上、それは強制だろうと押したら「そう思うんなら好きに取ればいいよ」とへらへら笑いました。
 後日「皆が待機を止めて入ったら、店が回っていきません。こちらのやり方に従えないのなら、それは会社と私があっていないんだから、辞めてくれても構わない」とも言われました。死んでしまえと思うほど、胸が煮え返りました。

 同じ頃、私は労基法について調べた知識を、同じアルバイトの子たちに伝えました。
 20人近くいたバイトのほとんどに、待機時間には給料が支払われるべきであること、給料が払われない限り命令に従う必要はないこと、タイムカードを切り給料が支払われない状態になったあとに皿拭きや、お客さんの出したタバコの灰を処分したりなどはしなくてよいこと、などを伝えましたが、彼らは一様に驚きました。
 ごく当たり前でささやかな権利さえ知らなかったのです。

 私が権利を主張するために必要とした法という足場を、私の職場に限らず、多くの子ども達は知りません。
 私たちは義務制で9年。高校に行ければ12年、教育を受けることができます。しかし、自分たちにどんな権利があり、どうすればそれを行使できるのかといったような教育を、実はほとんど受けていません。先生方の生徒たちも、送り出していった卒業生たちも知りません。だから会社の言うことを鵜呑みにして、責任を全て自分のせいにして、欝になったり、自殺するのです。
 実際、私の友人にも社長へ上司のパワーハラスメントを訴えるメールを出したら、出しゃばったことをしたからという理由で上司二人から責められた上に契約打ち切りになり、うつ病になった子がいますが、自分に落ち度があったのではないかと思い悩んで、よく死にたいとこぼしています。

 今、社会は私たちを使い捨てにし、殺しています。
 そして、教師もまたそれを見過ごし、必要な知識を与えないことで加担をしているような状況にあります。
 先生がみんな、生徒や卒業生の境遇に無関心であるなどとは思いません。
 だけど、足りないんです。もっと関心を持ってください。助けてください。

 今、先生方が受けている様々な攻撃はとても厳しいものと伺っています。そしてそれは、私たちが受けている攻撃と本質的にまったく変わりません。
 だからこそ、今生み出され、ボロボロになるまで使われている若者を救えるのは教師なのだと私は思っています。
 教師の運動と若者の運動は、連帯できるはずなのです。

 しかし、連帯の前にはいくつかの障害もあります。
 一つには、感情の壁です。多くのフリーターから見たら、定職を持っている、年収が200万を超える人は、十分にうらやましい。ねたみの封象ともなりかねません。さらに加えて、若者にとって教師は、圧制者の側に立っているように見える場合もあるのです。

 ■ アルバイトするのは悪い子ですか?
 さらにもう一つ。先日、母校に訪問する機会がありました。在校は何年も前だったので、面識のある先生はその場に一人もいらっしゃらなかったのですが、話を聞いてくれた先生たちはみな親切で、私のことを気にかけてくださる熱心な先生たちでした。
 優しい先生が多い母校の、最大の問題は中退率の高さです。卒業までに4分の1にも及ぶ生徒が退学していくといいます。
 現在、大不況の影響で、主婦が労働市場にでてきた、という話題が聞かれるようになりましたが、この情勢下、子どもばかりが例外といった環境はすでになく、一労働者としてかり出されるケースが増えているよう思います。今後、恐慌下でますます勤労学生が増加していくだろうことは想像に難くありません。
 彼らは知識のなさからさまぎまな苦痛を強いられています。親は共働きで家におらず、唯一頼りになる教師に救いを求めようとするかも知れません。しかし、そこに一つ壁があるのです。

 私が高校生だった頃、学校側からみたアルバイトはあまり良いものと考えられていなかったようで、母校では許可制。他の学校では禁止とされていたところが多かったのではないでしようか。おそらくそれは現在も変わっていないだろうと思います。
 高校生とは学業を修めるためにすべてを費やすべきであり、アルバイトなどで本業をおろそかにするのは、不真面目な生徒であるというような古い考えが現在に至るまで存在し、生徒が相談をもちかける機会を奪っているのではないでしょうか。
 だからこそ、もう一つお願いがあります。

 生徒や卒業生たちと、互いの問題や知識を共有してください。それが、今何よりも大切な「連帯」を克ち取っていく方法論になると、信じています。
 教員の運動は自己の利益を守ることを目的にしていると思われてしまえばーーいまだ、世間ではそういった宣伝が幅をきかせているのですかーー教基法の轍を踏むことになるでしょう。
 教師のみなさんが本気で自分の生徒たちと向き合って初めて、世論を味方につけることができるのです。
 そして、どうか、先生方お一人お一人が弾圧に対してひるまず戦う姿勢を見せることをもって、生徒たちに抵抗を教えてください。ともに戦うことを呼びかけてください。
 教師に、若者たちに、働く人々全体に加えられる攻撃を跳ね返し、私たちは、ともに闘いを勝ち取っていきましょう。

 『教育労働通信』(創刊号 2009/4/29)