きりぎりす/太宰治
太宰治の短編集で、職場の上司から借りた本です。
太宰治の心情を綴る文章は、赤裸々で、正直で、プライドが高くて、繊細で、自分の内面をさらけ出している感じがします。
太宰治のファンが多いのは、そういう所に共感する読者が多いからなのかなぁ。
今回初めて「きりぎりす」という短編を読みました。
内容は、ある画家の妻の独白です。
妻は夫のことを清貧で純粋な美しい芸術家だと思って結婚しました。
しかし、出世するにつれて変わってしまう夫の姿に呆れ、別れを決意するまでの心境が綴られています。
妻の心境の変化が丁寧に書かれていて、作者はなぜ女性の心がこんなに細かく分かるのだろうと感動しました。
また、成功するたびに、ずる賢く、見栄っ張りで、お金に細かく、保身的で、嫌な人間になっていく夫の様子は、読んでいて少しドキッとしました。
見栄を張ったり、小さな嘘をついたり、受け売りを話してしまったりした経験が、私もあるからです。
自分をよく見せようと必死な姿は、身近な人から見ると情けなく、内心呆れられているんですね。
そういう姿は自分の価値を下げる、ということに気付けたのが大きな収穫でした。
人は、チヤホヤされれば勘違いをしたり、調子に乗ってしまうこともあります。
でも、この妻は違いました。
潔癖な気持ちを持ち続けた妻の人柄や生き方が気になりました。
また、なんとなくですが、「夫」は作者の身近な人がモデルで、作者の思いを妻に代弁させているような気がしました。
そうだとすると、太宰治は「妻」のように純粋で潔癖な面があるのではないかと思いました。
人としての姿勢を問いかけてくれる、何度も読み返したいお話でした。
最後に、印象的だった(痛快な)妻の言葉を紹介します。
「あなたは、ただのお人です。これからも、ずんずん、うまく、出世をなさるでしょう。くだらない。〜一体何になったお積もりなのでしょう。恥じて下さい。〜ああ、あなたは早く躓いたら、いいのだ。」
「この世では、きっと、あなたが正しくて、私こそ間違っているのだろうと思いますが、私には、どこが、どんなに間違っているかのか、どうしても、わかりません。」