自動車業界において、EPP(拡張ポリプロピレン)フォーム市場が急速に拡大している。その背景には、軽量化・高衝撃吸収性・環境性能といった、次世代車両開発に不可欠な要素が数多く含まれているからだ。2025年現在、自動車EPPフォーム市場はグローバルに顕著な成長を遂げながら、EV(電気自動車)、自動運転、車内快適性の向上といった業界全体のトレンドと密接に結びついている。
まず、EPPフォーム材料の最大の特徴は、その軽さと高いエネルギー吸収性にある。これは従来のポリウレタンフォームや発泡ポリエチレンに比べ、同じ体積あたりでより多くのエネルギーを吸収し、なおかつはるかに軽量である点で優れている。そのため、衝突安全性を求める自動車部品、たとえばバンパーのコア、ドアクラッシュパッド、ヘッドレスト、シートクッション、あるいは天井・フロアの断熱・吸音材としての利用が拡大している。
近年の自動車業界におけるCO2規制強化、脱炭素化への取り組みが加速する中、各メーカーは軽量化による燃費向上や電動車の航続距離拡大に迫られている。この文脈で、EPPフォームの採用範囲はますます広がっている。EVメーカー関係者によれば「バッテリー搭載量を増やすための軽量化は、シャシーや内装材だけでなく、安全部材にも及んでいる。EPPフォームは、その要請に適う数少ない素材だ」と述べている。
市場調査会社Reports and Dataの2024年後半のレポートによれば、2025年の自動車用EPPフォーム市場規模は北米・欧州・アジア太平洋地域を中心に前年比13%以上の伸びが見込まれている。とりわけ中国を含むアジア市場での成長が顕著で、地場大手自動車メーカーや欧州系OEMが積極的に導入を拡大している。欧州のエネルギー効率規制強化も、EPPフォーム需要を後押ししている。
アジア・中国市場における需要の高まりは、電動化シフトに加え、グローバルトレンドである「スマートインテリア」「高機能シート」「モジュール化構造」といったキーワードと密接に関係している。中国市场の自動車サプライヤー大手である寧波塑品股份有限公司(Ningbo Shuanglin Plastic)が2025年2月に発表した内容によれば、「新世代EV車両のバッテリーパック保護や、軽量ラゲッジコンパートメントの構造体にはEPPフォームの採用が常態化している」とのことだ。
特筆すべきは、EPPフォームが単なる軽量素材としてだけでなく、高いデザイン柔軟性とリサイクル性を持つ点も重視されていることである。スイスの自動車材料技術開発者ヨルグ・レーマン博士は「EV化、大型ディスプレイ導入、自動運転時代の車室快適性向上など複合化する開発要素へ対応するため、EPPフォームは3D成形やインサート成形など新しい技術との組み合わせが加速している。また、ポストコンシューマー材料の再生やケミカルリサイクルとの親和性が高い点でも注目している」と述べている。
リサイクル性の高さは、現代の環境意識の高まりと循環型経済の実現に寄与するという側面も大きい。特に欧州では、「End-of-Life Vehicle(ELV)指令」を初めとした規制強化が続き、使用済み自動車の素材回収率の向上が求められている。欧州自動車部品協会(CLEPA)の2025年1月の見解によれば、「EPPフォームは繰り返し破砕・再発泡処理が可能であり、他の樹脂系発泡体と比べリサイクルコストを抑えやすい」と評価されている。
また、EPPフォームは熱可塑性素材のため、金型による複雑な立体成型や、エンボス模様の表現などデザイン性も高い。2024年下半期に開催された「Automotive Interiors Expo Europe」でも、インテリア・エクステリア一体型パネルの量産事例が国内外のメーカーから複数発表された。日本のTier1サプライヤーである豊田合成の新材料開発責任者、佐藤公平氏は「パネル機能一体化のニーズ、スピーカー収納や照明一体型のインパネなど、多機能化設計とEPPフォームの適合性は一層増している」と語る。
こうした動向は、EPPフォームの用途の多様化にもつながっている。「リアバンパーの構造材から始まり、近年では車載バッテリーの衝撃吸収プロテクター、収納式ヘッドレスト部材、あるいは空調ダクトやシートコアまで応用範囲が広がった」と、ドイツの自動車材料コンサルタント事務所Artis Plasticsのレポートも指摘している。
注目すべきもう一つのトレンドは、「スマートフォーム」と呼ばれるEPPフォームとセンサー、LED照明、ワイヤレス給電ユニットの組み合わせである。韓国の大手部品メーカーHyundai Mobisでは、2024年末にセンサー内蔵型EPPフォームの量産を本格化させた。「EPPフォームは断熱・防音材料としてだけでなく、インテリジェント技術の受け皿として進化を遂げている」と同社開発本部長のパク・ヒョンス氏は語る。
特に自動運転時代に向けたコネクテッド車両の普及、車内サービスの多様化に対応するためには、車室スペースの自由度と快適性を同時に満たす必須材料として、EPPフォームの重要性が高まっている。2025年の自動車インテリアマーケットで見られる「ラウンジ型座席」「多機能モジュール式シート」などといった新コンセプト製品が続々と採用している材料も、ほとんどがEPPまたは類似の熱可塑性発泡体である。
市場のサプライチェーン面でも変化がみられる。従来、EPPフォームは原材料樹脂メーカー、大手発泡フォーム成形業者、そしてTier1の自動車部品メーカーがそれぞれ専門領域を担っていた。しかし近年は、ポリプロピレン樹脂メーカーと部品サプライヤーとの間でのジョイントベンチャー設立や、各OEMによる原材料調達・形状設計への直接参画が進んでいる。2024年末には、東レやBASF、SABICといった主要グローバル化学企業と、自動車部品サプライヤーとの協業例が増加している。「材料の選定から設計、量産までのリードタイムの短縮が新規参入を後押ししている」と、英国コンサルティングファームMaterials Futuresのシニアアナリスト、アマンダ・カーター氏は述べている。
環境・法規制対応に加え、ユーザーエクスペリエンス(UX)の深化もEPPフォーム需要をけん引している要素だ。2025年以降の自動車購入者層、特に30代以下の「Z世代」やファミリー世代では、車内空間の快適さ・静粛性・安全性に対する意識が明確に高まっている。EPPフォームは吸音性・断熱性・座り心地といった点でも従来素材を凌駕し、サステナブル志向の購買動機にも合致している。
こうした市場ニーズの変化に応える形で、原材料の改良も目覚ましい。たとえば、バイオマス由来のポリプロピレンを使ったEPPフォームや、難燃性・高耐候性グレードのEPPフォーム、さらには低VOC(揮発性有機化合物)タイプの開発も進んでいる。日本化学工業界の関係者によれば、「国際的な化学物質規制の厳格化により、EPPフォームも“グリーンマテリアル”としての競争力を強めている」という。
さらに、EPPフォームのデジタル設計技術、CAE(計算機援用工学)シミュレーションの精緻化も、開発サイクルの短縮と大量カスタマイズへの対応を可能としている。三菱ケミカルのEPP事業開発担当者は「AI活用により、衝撃吸収特性をリアルタイムで予測し、最適構造を数日で決定できるようになった。かつて無理だった用途にも提案範囲が拡大している」と説明している。
EPPフォーム市場の今後注目される方向性として、1)自動車1台あたりの採用部位数・採用量の増大、2)電動化・自動運転車両向けの高度化部材開発、3)カーボンニュートラル素材・プロセスの導入、4)サプライチェーンの垂直統合・協業強化などが、専門各所のレポートでも繰り返し指摘されている。
現実に、2025年現在の欧州・中国の新型車では、リアバンパー、サイドドアクラッシュパッド、フロア吸音材、ヘッドレスト、バッテリーパックプロテクションなど、1台あたりで20~30点にも及ぶEPPフォーム部品が使用されている例が急増している。また、材料改良・成形技術の向上により、今後はカーエアコン用ダクトやセンターコンソール、チャイルドシート、さらにはエアバッグハウジングやEVモジュール間の断熱緩衝材といった新規用途開拓も目立つようになっている。
日本国内でも、本田技研工業、日産自動車、トヨタ自動車などが2023~2025年にかけて新型EVやハイブリッド車でのEPPフォーム利用範囲を大幅に拡大している。日系Tier1サプライヤー関係者は「設計段階からEPPフォーム前提のパーツ構造提案が常態化しており、既存車種の部品小型化や統合化の流れをリードしている」と述べる。
経営面から見ると、原材料PP樹脂の価格変動、国際的な物流コストの高騰は一時的なリスク要因とされているものの、市場全体の成長スピードが顕著であるため、既存・新興両方のサプライヤーにとって持続的成長機会が広がっている。「EPP事業への新規参入やM&Aも加速しており、2025年以降、製品差別化だけでなく、原材料から設計・量産プロセスまで一貫したバリューチェーン構築が勝負の分かれ目になる」(ドイツの自動車業界アナリスト、フリーダ・シュミット氏)という声が出ている。
他方、EPPフォーム市場の技術課題としては、さらに高度な耐熱性・難燃性・化学耐性を有するグレードへの要求、発泡プロセスでのCO2削減(グリーン発泡法)、原料由来カーボンフットプリントの低減などが挙げられている。また、エンドユーザーの多様化する要求に対応するため、接着・溶着・加飾技術などの複合化対応も求められるようになった。
業界著名コンサルティング会社McKinsey & Companyの「Mobility Materials 2030」レポートでは、「自動車向けEPPフォーム市場は2025年から2030年にかけて二桁成長が見込まれ、エネルギー吸収・軽量化用途にとどまらず、車内UX向上や次世代のモビリティ機能と不可分の存在となる」と分析されている。さらに、「グリーン調達指針適合や循環型プロダクト設計が義務化された場合、EPPフォームは比較的低コストでサステナビリティ対応を実現できるため、他素材と一線を画す」とも述べている。
このように2025年の現時点において、自動車EPPフォーム市場は「単なる軽量・衝撃吸収素材」から、「サステナブル対応」「高付加価値化」「デジタル化対応」など多面的な成長軸で進化しているといえる。材料・成形・設計技術、そしてサプライチェーンのレベルでのイノベーションが進み、グローバルな事業機会も一層広がっていくであろう。