近年、水処理メーカー市場は環境問題の深刻化や都市化の急速な進展、水資源の不足、さらには規制強化など複数の要因により大きな変革を遂げている。世界各国で水資源の品質維持と効率的利用が重要な課題となりつつある中、水処理メーカーはサステナビリティ、技術革新、新興市場への対応を強いられている。本稿では2025年現在の市場動向や主要トレンド、業界の専門家の見解を紹介し、今後の水処理メーカー市場の行方を探る。
まず、世界全体の水処理市場は急速に拡大している。グローバル調査会社「MarketsandMarkets」によれば、2024年の水処理市場規模は約950億米ドルに達し、今後5年間で年平均成長率(CAGR)は約6%が見込まれる。新興国の都市化、既存インフラの老朽化、気候変動による水不足問題が拡大の主な要因とされている。
水処理とは、浄水・排水・工業用水再生など水の利用サイクル全般に関わる技術やシステムの提供を指す。メーカー各社は浄水場向けの大型設備、都心部の下水処理施設、小規模産業向けのパッケージ型システムなど多岐にわたる製品・サービスを展開している。また、海外では農業分野や鉱業分野の特殊用途への応用例も増えており、用途細分化が顕著だ。
特に近年は「再生可能水」「循環型水利用」「ゼロリキッドディスチャージ(ZLD)」といったコンセプトが浸透し、メーカーの技術開発もこれらに沿ったものへシフトしつつある。ZLDシステムは排水を極限まで再利用し、最終的に液体排出ゼロを目指すものだが、高度な膜技術、逆浸透(RO)、イオン交換など複数の技術が組み合わさっている。
日系大手水処理メーカーの三菱ケミカル、栗田工業、東洋紡などは、欧米・アジアでも積極的な拡販を進めている。その中で、「AI・IoTを活用した遠隔運転」や「施設運用の自動化」「エネルギー効率最大化」等が差別化の大きなポイントとなっている。栗田工業の技術担当責任者である佐藤健一氏は「従来の単なる設備納入から、24時間遠隔監視による運転最適化、予知保全等、サービス付加価値型への転換が加速している」と述べる。
また、SDGs(持続可能な開発目標)を意識したプロジェクトが各国で増加している。ESG投資と連動した形で、水質保全分野への新規資金流入も追い風となっている。国際金融公社(IFC)なども途上国の社会インフラ改善融資を拡大し、水処理メーカーにとって新たな市場開拓チャンスとなっている。
市場トレンドとしては、「膜処理技術の高度化」が最も顕著である。超純水や医薬・半導体向けの極限まで高純度化した水の需要に応えた技術開発が進む一方、これまで膜技術の採算性や維持管理コストが課題とされてきた途上国・地方都市でも導入が進みつつある。2024年の米国水環境連盟(WEF)年次カンファレンスでも「モジュール式膜バイオリアクター(MBR)の普及が今後10年で都市型排水処理のスタンダードとなる」と強調された。
一方で、昨今は「スマートウォーター」と呼ばれる、AIやIoT、ビッグデータ分析を活用した水処理管理の自動化・最適化の導入がスタンダード化し始めている。例えば東芝インフラシステムズでは、「水処理IoTプラットフォーム」を提供し、全国数百カ所の浄水場データを一元管理、遠隔自動制御による効率化・省人化に取り組んでいる。水質センサの高性能化や5G通信網の普及もこのような新規サービスを後押ししている。
さらに、カーボンニュートラルの推進も水処理業界最大のテーマの一つだ。処理プロセスでのエネルギー消費削減やバイオガス化、太陽光発電併用などでGHG排出量を制御する技術が多く提案されており、日立製作所は「再生エネルギー100%駆動型の下水処理施設」実証実験を進めている。米GE Water(現SUEZ)もAI制御による消費電力30%削減プロジェクトで業界をリードする。
水循環型社会を目指した規制政策も各国で強化傾向にある。EUでは2024年に新たな「ドリンキングウォーター指令」が施行され、PFASやマイクロプラスチック等の新規有害物質への監視・排除基準が大幅に厳格化された。これに対し、メーカー側も新しい有害物質除去技術開発に拍車をかけている。日本国内でも厚生労働省による水質基準見直しが進行し、「今後は管理対象項目が飛躍的に増加する」と日本水処理協会の担当者は語る。
また、分散型水処理の市場拡大も重要なポイントである。都市一極集中型からコミュニティ単位や施設単位での小型・分散型処理システムへのニーズが高まっている。これは災害時のレジリエンス向上、インフラ投資コストの最適化、迅速な導入性など複数のメリットがあり、特に新興国・人口増加エリアで加速している。韓国・LG Chemや米国・Pentairなどは分散型処理モジュールの開発・展開を強化中だ。
業界の競争環境にも顕著な変化がみられる。従来はプラント大手が圧倒的なシェアを有していたが、ここ数年はスタートアップやITベンチャーが「水質監視AI」や「モバイル水処理ユニット」等ユニークな技術で急速にシェアを伸ばしている。英国の水処理ベンチャー「Ostara」はリン回収技術の商業化で欧州市場を席巻。イスラエルの「Watergen」は空気中から飲料水を生成する技術でエネルギー系企業との連携を拡大している。
日本市場においても、環境ベンチャーやIT企業の参入が見られる。例えば日立造船はAIベースの最適運転プラットフォームを各種メーカーへOEM提供し始めており、これにより旧来型メーカーも付加価値サービスの差別化を迫られている。更に、サブスクリプション型料金モデルや遠隔保守、リース型導入など、従来の「設備売り切り」から「運用型・サービス型」への事業転換が鮮明になってきた。
インドや中国、東南アジアなど新興国市場では、「低価格・短納期・簡易運用」がキーワードとなっている。多くの新興国は都市部と農村部のインフラ格差が激しく、安全な飲料水供給やトイレ・下水システム整備が社会問題化している。国際協力機構(JICA)や世界銀行、アジア開発銀行(ADB)らは、官民連携型の上下水道プロジェクトに積極的に資金供給を行う。JFEエンジニアリング担当者は「シンプルな構造で容易に導入できるメンテナンスフリー型システムが今後の主流となる」と話す。
北米・欧州先進国市場では、「高度処理技術」「既存インフラの近代化」「規制へのハイレスポンス性能」が主な競争軸だ。具体的には超純水システム、ファインバブル(ナノバブル)、省エネ型MBR設備、AI管理型バイオ処理などが注目される。特に2025年現在、半導体・医薬品・食品分野で水質要求が劇的に高度化していることから、プロセスごとにカスタマイズされた高機能設備需要が旺盛だ。米国Ecolabのアナリストは「これからは水処理設備というハードだけでなく、水質調査、稼働データ分析、予知保全、運用コンサルティングの一括パッケージが市場標準になる」と予測する。
サステナビリティの観点からバイオテクノロジー活用も広がっている。微生物や酵素によるバイオレメディエーション技術は、化学薬品使用量の削減や安定的な処理効率をもたらし、多様な産業排水処理への適用が進んでいる。筑波大学・水環境工学の鈴木教授は「バイオ×デジタルで水処理の現場に革命が起きる。リアルタイムで微生物群集の変化をセンシング・制御できる技術こそ2020年代後半の核心」とコメントしている。
また、水リスク管理の観点から「異常気象への適応」「緊急時対応」も強く意識されている。特に海面上昇や豪雨災害、渇水リスクに対しては可搬型・分散型・クロスセクター連携型の水処理システム開発が不可欠となっている。シンガポール「Public Utilities Board(PUB)」のリーダーは「国全体で水循環に取り組む総合技術戦略が成長ドライバーだ」と語り、再生水供給システム(NEWater)は他国のモデルとなった。
脱炭素・サステナブル経済の潮流を受け、水処理メーカーはグリーン調達、ライフサイクルアセスメント、製品・システムのリサイクル設計を強化している。英国Thames Waterの環境担当は「今後欧州市場で水処理入札の大部分は、LCAやエコラベル取得など環境性能評価を入札要件に含める」と述べる。アジア市場では、廃棄設備のリサイクル率向上やプラスチック削減もキーテーマとなっている。
今後数年間、水処理メーカー市場は高度技術のグローバル化とサービス多様化、サステナブル対応、ローカルイノベーションの融合が進むことが見込まれる。業界エコシステム全体が「設備群+DX+保守運用+サーキュラーエコノミー対応」という複合的な付加価値で問われる時代に移行しつつあることは疑いない。世界中の水処理メーカーが先端技術や斬新なアイデアを武器に、持続可能で効率的な水インフラ構築へ挑戦している。
https://pmarketresearch.com/usa-top-20-water-treatment-companies-ranking-2020/