2025年に入り、半導体製造業界は引き続き急速な進化を遂げている。その中で、Critical Dimension Scanning Electron Microscope(CD-SEM)はプロセス制御と製品歩留向上に不可欠な機器として、その市場規模と最新技術動向に大きな注目が集まっている。CD-SEMは、半導体ウェハ上の微細パターン寸法を高精度かつ非破壊で測定できるため、技術ノードの微細化が進む現場には欠かせない分析装置である。本稿では、CD-SEM市場の現状、トレンド、将来展望を踏まえた詳細な分析を展開する。
まず、市場全体の規模感について述べる。2024年のCD-SEM世界市場規模はおよそ19億米ドルと推定されていたが、2025年には約21億米ドルへと成長する見込みである。この背景には、EUV(極端紫外線)リソグラフィによる露光装置の進化や、2nm・1.4nm世代への開発競争の激化、さらにはAI関連の爆発的な需要拡大が影響している。特に台湾、韓国、中国といったアジアのファウンドリ各社が先端製造ラインへの投資を強化しており、それが装置市場、特にCD-SEM市場に直接的な成長圧力をかけている。
このCD-SEM市場の成長トレンドに関して、主な市場調査会社や専門家はどのように見ているか。例えば、米国IDCの半導体サプライチェーン担当アナリストであるジェイソン・チャン氏は、「線幅制御が10nmを下回る領域では従来方式での検査は急速に限界を迎えています。CD-SEMをはじめとする高精度測定装置の導入は、先端プロセスフェーズでの量産歩留を担保するために不可欠となっています」と指摘している。また、日経クロステックの2025年半導体フォーラムにおけるパネルディスカッションでも、「EUVリソグラフィ及びマルチパターニング時代のプロセスモニタリングは、CD-SEMの役割を更に高めるだろう」との意見が共有された。
では、CD-SEMの需要増加を促す根本的な技術トレンドとは何か。まず第一は、ノードの微細化である。最先端デバイスは既に5nmの量産段階を超え、2025年には2nmおよび1.4nmデバイスが製品として登場する。この超微細プロセスでは、1ナノメートル単位でのライン幅、レジストエッジ、スペーサー幅の管理が求められ、これまで以上に高分解能・高速度の非破壊検査が必須となる。この点について東京エレクトロン先端技術部門の佐藤部長は「200mm世代から300mm世代へのシフトに続いて、ナノスケール時代への対応として、SEMの電子光学系やデータ解析AIが飛躍的に高度化しています。パターンサイズが所定の製品規格を満たしているかどうか、全数検査も視野に入れた自動化技術の導入が全世界で加速しています」と語っている。
次に指摘されるのが、3D実装(3D-IC)や異種積層(Heterogeneous Integration)の普及だ。2.5D/3Dの構造では、ウェハ上に重層化された配線や接合部をミクロン精度で制御するため、断面形状の詳細な評価がますます重視される。これに対応するため、最新のCD-SEMには従来のXZ面分析のみならず、チルト観察や低加速電圧による表面解析に特化したモードが搭載され、データ取得の多様性が進んでいる。Lam ResearchのM.E.カトラー主任技術者は、「3D-ICは従来型2Dパターンとは異なるパラメータでの形状管理が必要であり、CD-SEMへ求められる解析精度や再現性がこれまでにないレベルで厳しくなってきている」と解説する。
CD-SEM本体の技術進化も市場を押し上げる要因となっている。例えば、制御用AIアルゴリズムの統合や、機内自動キャリブレーション、ローディングから評価・解析まですべて自動化された「完全自律型SEMシステム」へのニーズが顕著だ。日立ハイテク、アプライドマテリアルズ、KLAなど各社は、独自開発したAIエンジンを活用し、パターン識別、欠陥分類、ミスアライメント検出をリアルタイムで実施可能な新型CD-SEMを相次いで発表している。これら最新機種は、製造現場の“異常即時検知→工程自動修正”というスマートマニュファクチャリング戦略に不可欠であり、多品種・少量生産ニーズにもフレキシブルに対応し得ることが高く評価されている。
さらに、CD-SEMはプロセス開発やエンジニアリング用途だけにとどまらず、歩留向上とコスト削減の両立を目指す量産工程への水平展開が進んでいる。特に韓国Samsung Electronicsや台湾TSMCに加え、中国国家集成電路産業基金(ICファンド)系のメガファブが、EUV以降のラインで複数のCD-SEMユニットを“バッチ運用”する事例が増えている。これについて東京工業大学の和田教授は「ファイナルウェハ歩留が1%違うだけで利益構造が変わる最先端ラインでは、CD-SEMの多台数運用によるリアルタイム全数監視が量産安定性の鍵」とその意義を強調する。
欧米市場ではどうか。ASMLやIntel、GlobalFoundriesなど最新ノード適用を推進するプレーヤーはいずれもCD-SEMの高度統合化を重要課題と位置づけている。米KLAのマーケティングディレクターであるリサ・マクブライト氏は、「各工程で得られたCD-SEMデータをAIベースで横断解析し、数万枚単位のウェハデータセットから最適なプロセスコントロール用パラメータを抽出する“スマート分析”が本格化している」と説明する。これは単なる寸法測定を超え、欠陥率削減や生産計画最適化にもつながり、生産効率全体の向上に寄与している。
中国市場では独自動化やサプライチェーン内製化の流れが加速しており、CD-SEMの国産化開発も積極的に進められている。2024年は上海Micro Electronics、Naura Technology Groupなど複数の新興企業が国産SEMの製品化に成功し、中国内のファウンドリで採用が拡大した。これは米中摩擦や輸出規制を背景とした装置自立化戦略の一環であり、今後数年で現地サプライヤーがグローバル企業との競争激化に参入してくる可能性が高い。
またESG(環境・社会・ガバナンス)の視点でもCD-SEMには新たな役割が期待されている。たとえば従来のSEMは高真空・高消費電力が要求される装置であったが、今後はカーボンフットプリント低減や薬液消費量の抑制に資する小型化・省エネ型モデルの普及が見込まれる。日立ハイテクの藤本主任研究員によれば「散乱電子検出器の新材料化や新型源の適用により、SEMプロセスの消費エネルギーは過去5年間で30%以上削減されている」ことを考慮すると、こうした“グリーン装置”は主要顧客からの引き合いを今後も集め続けるだろう。
将来的には測定対象の多様化とデータ利活用範囲の拡張が、CD-SEMのさらなるビジネスチャンスを生み出すだろう。近年はパワーデバイスや車載用半導体、MEMS、化合物半導体分野でも、サブ10nmレベルの立体構造評価や組成コントロールへの要求が高まりつつある。日系装置メーカー関係者は「従来はロジック/メモリの最先端ノード用途が中心だったが、今後はSiCやGaNデバイス向けの特殊プロセス検査、あるいはパッケージング工程での3D形状モニターにも応用領域が拡大する」と見通している。
さらに、データサイエンス分野との融合もCD-SEMの将来を語るうえで不可欠なトレンドである。収集したSEMデータを、AIやクラウドサービスを活用して加工・解析・フィードバックする仕組みが既に複数の先端ファウンドリで本格運用段階に入っている。サムスンの研究部門担当者によれば、「ライン単位でのSEMデータストリーミング、異常検出から装置側自己修正プロトコルへの自動フィードバックループが2025年以降の生産現場標準になるだろう」としている。
もちろんCD-SEM市場にも課題は存在する。最大のボトルネックは装置価格の高さと納期リスクである。最先端モデルは1台当たり5億円超と極めて高額かつ、ライン立ち上げ時の納入競争が激化している。加えて、ユーザー側ではオペレータ―不足、データ解析人材の確保、工場FA(ファクトリーオートメーション)とのシームレス連携といった現場課題が山積している。これらについては、装置側のAIアシスト機能やリモートメンテナンス、クラウド連動型サポートサービスの導入による解決策が模索されている段階である。
一方で、中古装置市場やリファービッシュ(再生)モデルも存在感を強めている。成熟ノードやレガシープロセス対応を中心に、コスト意識の高い中国ファウンドリやASEAN地域を中心とした後工程工場などにおいて、数千万円台の中古CD-SEMが活発に取引されている。これは、グローバル半導体サプライチェーン全体の装置多様化およびコスト最適化ニーズを象徴している。
2025年現在、CD-SEM市場は“先端ロジック・メモリ向け超高精度ニーズ”と“コモディティ・レガシーノードへの適応”という多極化が同時進行している。この状況は、AI・クラウド・ESG・自動化など多様な社会的要請を包摂しながら、CD-SEMというキーペース装置を通じて半導体産業全体の競争環境変化の最前線を体現している。そして多くの専門家が指摘する通り、「CD-SEM市場の進化は、そのまま“計測・分析×モノづくり”現場の進化そのものである」という認識が、近年ますます一般的になってきている。
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