世界の水供給・水処理産業は、近年ますます重要性を増している。特に、近年では気候変動、人口増加、都市化の進行、そして水資源の枯渇といった複雑な社会的課題が顕在化している中で、水関連ビジネスの果たすべき役割は拡大の一途をたどっている。2025年時点でグローバル市場において最大級の存在感を持つ「Largest Water Companies」と呼ばれる企業群の動向と、市場の最新トレンド、今後の展望について詳述する。
まず、「Water Companies」とは、上水道の供給、下水道の管理、水処理設備の開発・製造、産業用途水のリサイクル、水インフラの設計・運営など、水に関連する幅広い事業を展開している企業群を指す。その中でも、売上規模・グローバル展開・技術イノベーションの観点から「Largest」とされる企業には、ヴェオリア(Veolia)、スエズ(SUEZ)、Xylem、Pentairなど欧州系・米国系のメガ・プレイヤーが挙げられる。これらの企業は、世界の水問題に対して革新的なソリューションを提供し続けており、社会的課題解決への貢献と同時に、高収益を上げるビジネスモデルを構築している。
市場規模で見ると、2024年のデータを基にしたグローバルの水関連サービス市場は約8,500億ドルに達し、CAGR(年平均成長率)は6.2%前後で推移している。この成長を牽引しているのは、先進国の老朽化インフラの更新需要、新興国における都市化の促進、さらにESG投資の拡大に伴うサステナビリティ志向の高まりである。専門家の一人であるユーロモニターのDr. Carlos Norman氏は、「水産業は今後10年間で最も安定的且つ拡大するインフラ投資分野の一つであり、特にデジタル技術との融合が市場の成長を加速させる原動力になる」と述べている。
技術トレンドの観点では、まず注目すべきはスマートウォーター技術の台頭である。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータといった先端技術を活用し、上下水道のモニタリング、漏水検知、消費パターン分析、設備の遠隔制御などが高度化している。Veoliaは先進的な「スマートウォーター・プラットフォーム」を開発し、各自治体や大企業に対して導入を推進している。これにより、漏水率の大幅削減、適切な水使用、エネルギーコストの低減、運用効率の向上が実現できるとされている。また、SUEZもAIとクラウド技術を組み合わせた水質監視ソリューション「AQUADVANCED」を世界各地で展開し、水資源の高度な管理を推進してきた。1990年代には想像できなかったほど、データドリブンなインフラ運用が当たり前になりつつある。
脱炭素社会の要求が高まる中で、カーボンニュートラルと水業界の関係もクローズアップされている。下水処理プロセスの省エネ化、再生可能エネルギーの導入、水循環効率の改善が極めて重要になっている。例えば、Xylemはエネルギー効率に優れるポンプや高度な水再生技術を組み込み、利用エネルギーの最小化に貢献している。また、Pentairに代表される浄水システム企業でも、太陽光を活用したソーラー浄水装置、バイオマス利用型の小規模水処理ソリューションなど、サステナビリティを前提とした新製品の導入が進行している。
また、2025年における最大のトレンドのひとつとして、水資源の循環利用(リサイクル・リユース)の本格的普及が挙げられる。世界の多くの地域で水ストレスが深刻化する中、都市下水や産業排水の再利用はもはやオプションではなく必須のインフラ政策となった。イスラエルやシンガポール、カリフォルニアなどの取り組みを皮切りに、急速にグローバル化している。VeoliaやSUEZは「下水からの飲料水化」プロジェクトを推進し、先進的な膜分離技術、UV殺菌技術、逆浸透(RO)ユニットなどを活用して、信頼性の高い水再生ソリューションを次々とリリースしている。ArupのWendy Lim技師は、「水再生技術の普及によって『限界コスト』が大幅に低減され、人口増加や気候変動に対応したインフラストラクチャーの設計が現実味を帯びてきた」と指摘する。
加えて、地政学的リスクや豪雨・干ばつなどの異常気象リスクへのレジリエンス強化も不可欠である。コロナ禍やエネルギー危機を経て、各国は水道網や排水処理システムの「冗長性」や「事業継続性」を重視する傾向を強めている。業界大手は北米、欧州、アジアなど地理的に分散したサービスネットワークを拡充することで、ローカルなリスクにも適切に対応できる体制の構築に力を入れている。
M&A(合併・買収)戦略も、最近の市場を語るうえで不可欠な要素となっている。ヴェオリアは2022年のスエズ買収を契機に、水ビジネスの総合力を飛躍的に高め、上下水統合サービスや工業排水から都市水、農業水分野までワンストップでカバーするビジネスモデルを強化した(なお現在、SUEZは一部事業のみ継続)。米国Xylemが2023年にEvoqua Water Technologiesを買収したことも、デジタル/産業系水処理ソリューション統合の好例である。このような動きについて、英Water Industry JournalのEmily Stark編集長は「世界経済の不確実性が高まる中で、規模と垂直統合が安定的な収益確保と技術革新のカギとなる。今後も“メガ水企業”による再編の波は加速する」と評している。
最大手企業の業績に目を向けると、2024年のVeoliaの売上高は約450億ユーロ、営業利益率は10%近くに達し、環境ビジネス全体の約半分を水事業が占めている。SUEZ(独立維持分)の売上高も150億ユーロ前後で推移し、特にAPAC(アジア太平洋)や北米での水再生・インフラ更新事業が高成長をみせる。Xylemは売上100億ドル規模を突破し、IoTデバイス搭載ポンプやAI分析サービスで突出した技術優位を保っている。Pentairも主に産業用途・給水システム関連で堅調な成長を継続中である。企業ごとに収益源は異なるが「水は生活インフラのコア」という特性上、景気変動や世界経済の不安定化にも強いディフェンシブ型セクターとなっている。
水産業は一見して非効率的で成熟産業に見られがちだが、近年のグリーン・トランスフォーメーション(GX)とデジタル・トランスフォーメーション(DX)の流れと共に、イノベーション創出の最前線に立っている。例えば、AIによる都市給水網の自動最適化、衛星データを使った水循環シミュレーション、ブロックチェーン技術を利用した使用実績や水質情報の透明な管理などは、すでに商用化段階にある。また、省力化・無人化技術が進展することで、労働集約的な水処理現場の自動化が進んでいる。
今後の市場動向について、水ビジネス研究の泰斗であるハーバードビジネススクールのProfessor Alan Meyer氏は、「水供給・処理インフラへの投資は地政学的要因や資金流動性に左右されにくい“アンカー資産”として機関投資家からの注目が高まっている。さらに、気候変動が予測不能な、従来モデルでは予想しきれないリスクをもたらしていることから、水循環の高度マネジメント&気候適応技術への新規投資が一段と加速する」と述べている。実際、大手機関投資家や年金基金、Sovereign Wealth Fundなどが、堅実なリターンと社会的インパクトを求めて大型水プロジェクトに参画する例が増えてきた。特にインパクト投資型のファンドは、現地コミュニティの生活水準向上とSDGs(持続可能な開発目標)との両立を重視する傾向が強い。
地域別にみると、市場トレンドも多様化している。北米は、インフラ老朽化・気候多様化による巨額投資需要があるほか、水源確保やPFAS(有害汚染物質)対策が最大課題となっている。ヨーロッパはESG規制の強化、再生水率引き上げ政策、カーボンニュートラル型の施設整備がテーマであり、グリーンボンド市場の拡大も水産業を押し上げている。アジア・中東・アフリカは急速な都市化、人口増、そして気候変動による慢性的な水不足に対処するため、水インフラ建設・効率的運用への官民協調が進んでいる。特に中国やインド、サウジアラビアなどではメガ都市・産業団地向けのスマート水供給網や海水淡水化プラント建設が続く。PwC Japanの近藤健一アナリストは「人口増・経済成長・資源制約が複合するアジア・中東市場は、テクノロジー主導による水供給モデルの標準化がカギとなる」と話している。
水資源ビジネスの新規参入領域としては、海水淡水化市場が急拡大していることも特筆に値する。湾岸諸国やアフリカ沿岸部では気候変動による降水量減少に対応するため大規模な海水淡水化プロジェクトが活発化。先端膜フィルター技術や省エネ型逆浸透システムなどを武器に、欧米アジアの大手プレイヤーがビジネスチャンスを広げている。SUEZやVeoliaはサウジアラビアやカタール、UAEでの大型プラント受注に成功しており、今後はアフリカや南米沿岸でも旺盛な需要が見込まれる。DesalDataのSarah Jensen氏によれば「グリーン電力と連携した海水淡水化は、2050年に向けて二酸化炭素排出ゼロの新しい水供給パラダイムを提供する重要技術になる」と予想されている。
また、バリューチェーン全体でのサステナビリティ対応の深化も目立つ。スエズ、ヴェオリア等はブルーカーボン(海洋生態系由来炭素)や環境修復に関するノウハウを開発・流通させている。水道管網や水処理施設における資材の環境負荷削減、持続的資源管理の国際認証(ISO9001・ISO14001等)取得、透明性あるESG報告体制の強化など、非財務価値創造の流れがグローバルで加速している。
2025年の最新動向としては、消費者や企業の水利用意識の変化がある。大規模工業団地では「水バリューチェーンの可視化」「生産工程での水フットプリント管理」「サプライチェーン全体の水リスク評価」が標準化されつつあり、水コスト・水リスクを経営視点でとらえる大企業が増加している。また、家庭や企業向けの分散型・小型・スマート水処理システムの普及も拡大。コネクテッドデバイスとIoTベースのマルチセンサー管理、モバイルアプリでの消費可視化など、ユーザーが自らの水利用を最適化できる“プロシューマー”型の新しいサービスが登場している。IDCのRina Maeda氏は「デジタル水プラットフォームの普及で、消費者も水マネジメントの主役になる時代だ」と指摘する。
都市インフラとしての責務も拡大する一方で、サイバーセキュリティ課題も顕在化。スマート化が進むことで悪意ある攻撃やハッキングへの脆弱性が高まるため、大手水企業は情報セキュリティ体制の強化、災害時の迅速なリカバリー機能の整備にも力を入れている。
こうした多岐にわたる課題とチャンスを抱える中で、最大手水企業は「グローバルスタンダードとなる技術・サービス」と「ローカル市場ごとのカスタマイズ」の両面を追求し続けている。各国規制への柔軟な適合、パブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)を用いたビジネスモデルの再構築、住民参加型の共創プラットフォーム整備など、現代的で持続可能な水業界をリードするための企業戦略が進化しつつある。
https://pmarketresearch.com/usa-top-20-water-treatment-companies-ranking-2020/