古き聖ヤヌアリウスの魂が溶けてさらさら流れる奇跡

しゃかしゃかとかき混ぜたなら流れ出すペンキの粒が離れるからこそ

ぎゅうぎゅうに詰まっているのは水分が抜けたからですこちこちの粘土

流れゆく速さは変わるすいすいと時にとろとろどろどろの泥

散り散りになった分子が結びつき粘度が変るチキソトロピー

 

 チキソトロピー(thixotropy)とは、もともとは固体のように見えるのに、かき混ぜたり振ったりして応力を与えると粘度が低下して液状になり、応力を除くと徐々に粘度が回復して元に戻るという性質を言います。イオン性の分子があって、かき混ぜることによってプラスとマイナスのイオンが離れ離れになって粘度が下がり、静かな状態に置くことによってイオン性の分子が結合することになって粘度が上がるようになります。ペンキはその典型例であり、よくかき混ぜることによってさらさらの状態でペンキを塗り、塗った後の静かな状態になると固まってペンキが定着します。

 一首目の聖ヤヌアリウスとは、カトリック教と正教の聖人であり、西暦305年に殉教したと言われています。毎年ヤヌアリウスの祝日や5月の第1日曜日の前の土曜日に、彼の遺体の近辺へヤヌアリウスの血液が入った容器を持ってくるという催しがあり、このとき乾いた血液が液状に変化して、これは奇跡と呼ばれています。このことについて、この血液の中にオキシ水酸化鉄のようなチキソトロピーのゲルが入っているという説があります。本当のことはよくわかりませんが、チキソトロピーのゲルが入っていること自体がある意味奇跡ではないかと思うのですがどうでしょうか。

 

一首目から五首目までの歌のはじめの言葉につづいて、一首目から四首目までの歌の終わりの言葉に五首目のピーを合わせると、「ふしぎなちきそどろぴー」となります。

初出かばん2022年7月号

 

参考にした資料

株式会社タイカ「技術用語集」

https://taica.co.jp/gel/support/technical_terms/term_041.html

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヤヌアリウス