奥深く鎮座している7一金ほんの一路の寄りで隙なし

目指すのはさらなる高み昇竜の見据える先に新たな課題

敵玉を追いかけてゆく2筋まで神の放った歩があればこそ

跳ばせたる3六桂は玉頭にまるで真剣白刃取りのよう

打ち込んだ3一銀と2二角繋がる駒の切れぬ寄せ方

振りむけばついてくるのは影のみか未踏の地をゆく孤高の竜王

 

 2024年2月24日、棋王戦第2局にて藤井棋王が伊藤匠七段を下しました。中盤は挑戦者にもチャンスがあったようですが、結局は藤井棋王が抜けだしました。

 一日制のタイトル戦だとまだ藤井先生に勝つチャンスがあるように思えるのですがどうでしょうね。もう2年前となりました、竜王戦では、2021年11月13日、藤井挑戦者が豊島竜王を破ってタイトルを奪取し四冠となりました。このときの連作です。

 第1局は、相懸かり。巧みな序盤戦術で後手の豊島竜王がリードを奪いました。しかしながら、藤井三冠王は粘り強し差し回しで決め手を与えません。終盤の入り口、3六桂という妙手がありましたが、豊島竜王はこの手を逃し、形勢が逆転しました。終盤、4五歩によって後手の4四桂を3七にいた自玉の頭の3六に跳ねさせ、3五歩と歩を打ったのが絶妙の手順。自玉が安全なのを見切った上で相手玉を寄せるもので、プロ棋士も絶賛の手順でした。難局を制して藤井三冠王がまず一勝しました。

 第2局も、相懸かり。序盤に先手の豊島竜王が6六角と出る趣向を見せました。角で飛車の動きを制限しようとするものです。途中、藤井三冠王が7一金と6一の金を寄りました。指されたときは意味がよくわからなかったのですが、先手の飛車が8筋に転回したときに桂馬を取る8一飛成りを防ぐものです。8三飛成りだと桂馬を取られずに竜の位置もよくないということです。後になって意味がわかるものですが、後々の変化を読む正確さと対局観がすばらしい。この将棋にも勝って藤井三冠王が2連勝となりました。

 第3局は、角換わり相早く繰り銀。終盤の入り口まで互角の形勢でした。先手の藤井三冠王の3一銀、2二角の打ち込みが妙手順。銀と角の形がよくなく、プロ棋士には指しづらい手なのだそうです。この手を境に藤井三冠王がリードを奪い、最後は、正確な終盤で危なげなく勝ちきりました。ちなみに、この将棋では、飛車先の歩を進める2四歩に対して手抜きで5六銀という後手が有利となる変化手順がありました。ただ、妙手というより奇手ともいうべき手で人間に指せるかどうか。藤井三冠王なら指せるかも。

 第4局は、角換わり腰掛け銀。中盤で後手の藤井三冠王がややリードしたものの、難解な将棋で形勢が揺れ動きました。終盤、6六の銀で5五の角を取る前に3五桂としたのが敗着。単に5五銀なら難解で、抜群の終盤力を持つ藤井三冠王といえども持ち時間が少なく、勝負はどう転んだかはわかりませんでした。3五桂は、4三に利かせて自玉の安全を高めたもので、豊島竜王は先手玉に詰みなしと判断したようです。ところが、中盤に先手の豊島竜王が指した2二歩が玉の逃げ道を塞ぐというまさかの詰み手順。また、やはり中盤に後手の藤井三冠王が指した2七歩が詰みに役立つという詰み手順もありました。藤井三冠王は、これらの難しい棋譜には現れない水面下の変化を読み切っていたようです。トップクラスのプロ棋士も驚嘆する読みの能力です。

 

一首目から六首目までのはじめの言葉につづけて一首目から五首目までの終わりの言葉に六首目の終わりの言葉の竜王をつなげると、「おめてとうふしいそうた竜王」となります。

初出かばん2022年2月号