ステゴ体見えぬ世界をつかさどる恐竜のごとき名前でもって

かきつばたプレーボーイは叶わぬもせめて歌にはあやかりたいもの

組まれたる漢字をなした(つくばい)に極意がひそむ石庭の寺

フィリップス・ファン・マルクニスの作りたる歌にある名を継ぎたる王位

 

 

 ステガノグラフィ(steganography)とは、情報隠蔽技術の一つであり、情報を他の情報に埋め込む技術のことです。秘密文を埋め込んだ被覆情報をステゴ体といい、被覆情報としては、画像データ、音声データ、文章データがあります。なお、折り句は注意深く読めばわかることから、ステガノグラフィに含めない分類のしかたもあるようです。(参考:「ステガノグラフィー」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2021年8月14日12:00,UTC:URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/ステガノグラフィー)

 

 折り句としては、在原業平のかきつばたの歌があります。歌人としてだけでなく、プレイボーイとしても有名です。もっとも、当時は歌が上手だからモテたといえるようです。

 変わったところでは龍安寺の茶室の路地にある蹲があります。蹲とは茶室に入る前に手や口を清めるための手水を張っておく石のことです。龍安寺の蹲には中央の水を張る四角の穴があり、その穴を口と見立てて穴の周りの縦横の漢字として読むと、吾唯知足となります。

 ヨーロッパでも折り句が作られていて、オランダの国歌が有名です。Wilhelmus van Nassouwe(ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエ)といい、フィリップス・ファン・マルクニス作詞の歌で、1番から15番まである歌詞の最初の文字をつなげると、“WILLEM VAN NASSOV”(Wilhelmus van Nassouweの古い綴り)になります。ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエは、16世紀のスペインからの独立戦争の指導者であるオラニエ公ウィレム1世のことです。実際にオランダがスペインからの独立を承認されたのは17世紀になってからで、ウィレム1世は州総督にすぎず、王位についたわけではありませんが、このオラニエ公ウィレム1世が現オランダ王家オラニエ・ナッサウ家の始祖です。

 他に探せばいろいろあるかもしれませんが、とりあえず3つだけ挙げてみました。

 

 

各歌のはじめの言葉と終わりの言葉を合わせて各歌をつなげると、「すてかのくらふい」となります。

初出かばん2021年10月号