蛾の目(モスアイ)構造の不思議

 

モスアイの光少なき暗き夜も先を見通す構造の謎                                       

少しずつ屈折率が高くなる直径が増す円錐構造                                   

合わされた面に屈折率の差があれば反射が生まれ得るもの                             

一である屈折率の空気から瞳にリレー 円錐レリーフ                                 

光線の透過する量を上げるため蛾の目を使い反射を防止                                    

うつりゆく進化の中で勝ち取った光をあやつる夜の蛾の秘技                                 

 

 モスアイのモスはmoth、アイはeye。つまり、蛾の目という意味です。蛾は夜にも目が見えるように、瞳に反射防止膜を設けることによって反射する光の量を減らし、透過する光の量を増やしています。

 ある層と隣り合う層の屈折率に差があると、層と層との界面において反射や屈折が起きます。譬えて言えば、屈折率の段差のあるところで光がつまづいてしまうようなものです。そして、つまづいたところで光が反射したり屈折したりします。この反射する量を小さくするには、段差となる屈折率差を小さくすればいいのです。

 では、蛾の目の構造は、光の波長よりも十分小さくて、屈折率が蛾の目の瞳と同じである円錐状の突起を瞳の表面に多数設けています。円錐の先端は周りが空気であるから、空気の屈折率の1に近い屈折率となります。逆に、円錐の底面は断面積が一番大きくなるから瞳に近い屈折率となります。先端の尖ったところから底面の円からまで徐々に断面積が増加するから、屈折率も、先端の空気に近いところから底面の瞳の屈折率に近いところからまで、徐々に増加することになります。こうして徐々に屈折率を上げることにより、屈折率差を小さくして反射する光の量を小さくし、透過する光の量を増やしています。

 このモスアイ構造を模した反射防止膜が開発されており、レンズなどの光学部材に用いられています。人類は蛾の叡智を拝借しているのです。こういった自然界の模倣をして様々な問題を解決することをバイオミメティクスといいます。それにしても、このような精緻な構造を遺伝子の組み替えで生物は勝ち得たとは、とても不思議なことですね。

 一首目から八首目までの最初の文字に続いて一首目から八首目までの最後の文字をつなげると「モスアイ構造の不思議」となります(初出かばん2020年8月号改変)。