背を向けた女に収斂する光 音の中より見えるトリック
今回は、《音楽の稽古》。椅子に腰かけた女性がヴァージナルを弾いていて、男性が女性の傍らに立って歌っています。床にはヴィオラ・ダ・ガンバが横たわり、テーブルにはテーブルクロスに掛けられています。正面右側の壁には絵画が掛かっています。この絵画は、《キモンとペロ》又は《ローマの慈愛》と呼ばれるもので、牢獄に囚われた空腹の父に、娘のペロが母乳を与える場面が描かれているのだそうです。
左側の窓枠、床のタイル、右側のテーブルクロスによって、自然と視線が女性の背中へと導かれます。フェルメールの作品の中でも、遠近法を正確に描いた傑作とされる所以です。窓から差し込む光の陰影、タイルやテーブルクロスの模様も美しく、作品の完成度を高めています。
壁の正面に鏡があります。女性はヴァージナルを向いているのに対して、鏡の女性は男性を向いています。鏡の像が現実にはあり得ないものとなっています。フェルメールの作品はリアルでありながら、どこか神秘的な印象を与えるのは、こういった現実とのずれがあるからかもしれません。X線調査によると、もともと女性は男性を向くように描かれていたということです。フェルメールはなぜヴァージナルを向くように修正をしたのでしょうか。理由はよくわかりませんが、リアルでありながら現実とは微妙に異なるところは、まるでAIが描いた映像のようです。フェルメールは時代を先取りしていたのかもしれません。
参考にした資料:
大友義博監修『フェルメール 生涯と全作品』株式会社宝島社
小林頼子、朽木ゆり子著『謎解き フェルメール』新潮社
