千夜千冊千枚通(0008/1513):第923夜:『冬の夜ひとりの旅人が』 | 好奇心のままに(走る、読む、見る、聴く)
- 冬の夜ひとりの旅人が (ちくま文庫)/筑摩書房

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イタロ・カルヴィーノの作品を
読むのは初めてのことだ。
学生時代、今は九州の大学で
物理を教えているHが読んで
いたことをふと思い出した。
で、読んでみた。しかし
最初からよくわからない
展開だ。
「あなたはイタロ・カルヴィーオノの
新しい小説
『冬の夜ひとりの旅人が』を読み
はじめようとしている」
へ?何のこと?いきなり「あなた」と
呼ばれた私は著者の監督下におかれた。
以後ずっと本を読む主体は著者の側に
あるという不思議な経験をする。
150ページまで分けが分からないままに
読んで行くうちにやっとこの作品の
構造が分かってきた。
1章から11章までの章は、
本来のこの小説の構成らしい。
その中の筋では、買ったばかりの
「冬の夜~」の落丁に気がつき
それを本屋に交換に行くが、
落丁の部分が別の小説であり
そこに興味を持った「あなた」
はその小説を求め。。。と
話は小説を追い求める旅に
なっていく。
これらの章の間に、今興味の
対象になっている小説の
冒頭部分が挟まれるという
構造になっている。
挟まれた小説は以下の通りだ。
・冬の夜ひとりの旅人が
・マルボルクの村の外へ
・切り立つ崖から身を乗り出して
・風も目眩も恐れずに
・影の立ちこめた下を覗けば
・絡みあう線の網目に
・もつれあう線の網目に
・月光に輝く散り続ける落ち葉の上に
・うつろな穴のまわりに
・いかなる物語がそこに結末を迎えるか?
が、この構造は基本的なものに
過ぎず、著者は自由に作品中に
侵入し、話に介入して行くので
一体自分がどこにいるのかサッパリ
わからなくなる。ただし、個々の
話は、精緻な描写が多く十分
魅力的で、不快感のないカフカ
かのように進む。
で、最期も唐突に次の言葉で終わる。
「もうちょっとだ。もうすぐ
イタロ・カルヴィーノの
『冬の夜一人の旅人が』
を読み終わるところなのだ。」
と、またも著者主導の話は
終わってしまう。
上でも書いたが、読後感は
不快感のないカフカと言った感じだ。
心地よい混乱と言ってもよいかも。
今年中に再チャレンジしてみよう。
正剛先生はこう言っております。

