「動物咬傷は縫合するな」は間違いだと思う | ここがヘンだよ、医学の常識!

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匿名医師PuuWiiDikiFaatによる非常識のススメ

匿名医師PuuWiiDikiFaatのちょっと一言:

今回は特にコメントはありません。

こういう治療法もありますよということで。

 

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ここがヘンだよ、医学の常識シリーズ・その10!

2017-04-15 15:05:29投稿

『「動物咬傷は縫合するな」は間違いだと思う』

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ここがヘンだよ、医学の常識シリーズ・その10!

「感染を恐れるあまり動物咬傷を全く縫合しないことが(一部の医師の間で)常識となっている現状は、ちょっとヘンじゃねえの?」

 

動物咬傷の治療法について。一部の医師はやたらと縫合を避け、一部の医師はやたらと洗浄や消毒を避け、一部の医師は一次縫合(即日の縫合)でやたらとしっかり縫合し、一部の医師は消毒だけしかせず(これはヤバいやり方)、一部の医師はやたらと大きく切開する。動物咬傷の治療法は、まさに群雄割拠の戦国状態。ならば、巷の医師もすなる「一部の医師」を、僕もしてみむとてするなり。

 

言い換えると、「動物咬傷の治療は、こういうやり方でどうっでっしゃろ?」的な。

 

ここがヘンだよ、医学の常識シリーズのバックナンバーは下記リンク先をご参照ください。

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12252152049.html(その9)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12237391192.html(その8)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12237073615.html(その7)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12236906911.html(その6)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12236185099.html(その5)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12234591687.html(その4)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12232488396.html(その3)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12196673741.html(その2)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-12075788469.html(その1)

http://ameblo.jp/masmoso/entry-10337298666.html(その0?)

 

動物咬傷は、とても感染リスクが高い。ヒトを含めた動物の口って、実はすごく汚くて感染の原因となる菌がたくさん潜んでいる。特に、嫌気性菌がヤバい。嫌気性菌の感染が成立してしまうと、抗生剤を用いた保存的治療では治りにくくて、大きく切開する手術が必要になったりする。

 

嫌気性菌による感染は、動物の咬み傷が早期にかさぶたによりふさがってしまうことでリスクが増す。表面だけ消毒する治療法は、翌日かさぶたでふさがって、深部の嫌気性菌が感染してしまうことが多いので、ヤバいやり方。

 

だから、このような、動物咬傷による感染リスクの大きさを知っている一部の医師は、ある程度大きな傷であっても縫合せずに、開放創のままで経過観察する。

 

以下は、そのように動物咬傷を開放創のまま治療したらどうなるかという一例。(次のリンク先より引用:http://ameblo.jp/skip-pinnponn/entry-11530601946.html)

 

↑犬咬傷の受傷数時間後。「結構深い」傷だが、開放創のまま治療することになる。

 

↑受傷6日目。まだ傷が完全に乾いておらず、痛みもある。

 

↑受傷10日目。やっとガーゼ交換の痛みが楽になる。手の腫れも引いてくる。

 

↑受傷19日目。かさぶたができる。

 

↑受傷39日目。箸が持てるようになる。肉芽を触るとまだ痛い。

 

これだとあまりに治りが遅くて、患者の苦痛も大きいので、僕は以下のように動物咬傷を治療している。(僕は、研修医時代から今までの、動物咬傷の初療を担当した症例で、創部感染に至った例はないと思う。)

 

↑受傷当日、来院時。創の大きさは、幅数センチ前後、深さ1cm前後を想定している。

 

↑イソジンで、創の周囲の皮膚を消毒する。これは、麻酔の注射によって、雑菌を皮膚内に入れないため。まだ麻酔してなくて痛いから、創の内部は消毒しない。

 

↑創の周囲の皮膚に針を刺入して、麻酔する。僕が救急医をやっていた大手町病院では、「患者の痛みを軽減するために、創の内部の痛くない脂肪組織に針を刺入しろ」と言われていたが、なんとなく、それが感染の元になる可能性もありえるかなと思い、患者には悪いが、少し痛い思いをしてもらい、周囲の消毒済み皮膚に針を刺す。

 

↑麻酔が効いたら、まず、生理食塩水(水道水でも可だと思う)で、創の内部を執拗に洗う。創傷治療のカリスマ医師・夏井睦先生は、「動物咬傷の洗浄や消毒に感染予防効果はない」と言っている(https://www.m3.com/clinical/sanpiryoron/127087)が、夏井睦先生がオススメしているドレーン留置による治療でもやっぱり完全に感染を防げるわけではないみたい(https://www.jstage.jst.go.jp/article/nnigss/54/0/54_0_234/_article/-char/ja/)だし、創の内部の菌の数をcritical colonizationのレベルより下げたいし、副作用が少ない処置についてはやれることは全部やっておきたい、と僕は思う。それに、個人的には、咬んだ動物とかヒトの唾液が創の中に入ったままなのは、ちょっとやだなあ。だから執拗に洗浄する。

 

↑起炎菌のうち、怖いのは、嫌気性菌。だから、嫌気性菌が嫌がる嫌がらせをたくさんする。まず、オキシドールで創の内部を洗う。オキシドールから発生する濃度の濃い活性酸素って、ほぼ全ての生物にとって毒なのだが、活性酸素を解毒する仕組みを体内に持っていない嫌気性菌は、特に活性酸素が嫌い。だから、執拗にオキシドールで洗う。

 

↑嫌気性菌にさらなる嫌がらせをする。活性酸素に似て酸化力の強い消毒薬であるイソジンの綿球で創の内部をゴシゴシこする。「創は消毒するな」と口を酸っぱくして言っている、夏井睦先生に怒られそうだ。でも、執拗にイソジン綿球でゴシゴシやる。

 

↑さあ、縫合しよう。はい、長さのある動物咬傷については、僕は縫合しています。ただし、ひと針かふた針しかかけない「なんちゃって縫合」で、ドレーンを必ず設置します。開放創と一次縫合のいいとこ取りを目指します。まずドレーンにするための3-0ナイロンモノフィラメント糸を3本くらい用意して、この図のように、創の内部に横たわらせてね。

 

↑そして、3-0ナイロンモノフィラメント糸で真ん中にひと針かふた針かける。針がドレーンの糸束の上を通るように縫えば、縫い糸によってドレーンの糸束が押さえられて、なんちゃって固定される。手先のあまり器用でない僕でもできる縫い方。

 

↑縫い上がりはこんな感じ。下記リンク先↓の図2のようなちゃんとした縫合は、すごいなあと思うけど、これを自分で縫ったとすると、ドレーンがちゃんと機能しているのか、僕は不安になってしまう。

http://www.academia.edu/4918910/ERマガジン10_508-516_2013_動物咬傷_ヒトを含む哺乳類咬傷_

 

あとは、もう一回消毒して、リバ湿布(アクリノール液を染み込ませたガーゼ)を貼って終わり。処方する抗生剤は、嫌気性菌に有効性が期待される、ユナシンとかオーグメンチンとかをいつも使う。3日分くらい処方する。

 

ドレーンから浸出液が出るので、できれば毎日ガーゼ交換に来てもらう。来るたびに、水道水で洗い、縫合部をイソジン消毒。

 

↑受傷3日目くらいに、ドレーンを抜く。端っこをつまんで引っ張れば、簡単に抜ける。(消毒してから抜いてね)

 

あとは、7日目以降に抜糸して終わり。

 

実際の画像はこんな感じ↓

↑犬咬傷の受傷3日目。まだ少しだけ手が腫れてるし、浸出液もあったが、ドレーンを抜いた。

 

↑受傷9日目。受傷7日目に抜糸され、感染もなく創部癒合している。

 

画像が少なくて、すみません。この患者、毎日朝一で来るのだが、僕が寝坊魔なもので…。(笑)

 

↑受傷3日目の手甲側。手甲側は、このような点状の創だったので、消毒、麻酔の上、全ての点状創を子モスでほじって、表皮+アルファをかじり取り、点状創の内部をオキシドールとイソジンで執拗に消毒して、リバ湿布をかぶせる。これで翌日になっても創部が閉じず、嫌気性菌に嫌がらせをできてシメシメである。

 

ちなみに、この患者は犬咬傷で、点状創の深さがあまり深くなかったので、子モスほじりのみにしておいたが、猫咬傷の場合は、点状創がやたらに深いことが多いので、メスで1cmくらい切開して、内部を執拗に消毒してから、3-0ナイロンモノフィラメント糸の片方の端を点状創の内部に突っ込んでテープで固定してドレーンとする。ちょっと分かりにくい画像だけど、下記のリンク先の図4みたいな↓

http://www.academia.edu/4918910/ERマガジン10_508-516_2013_動物咬傷_ヒトを含む哺乳類咬傷_

 

下の画像↓はネット上のものを転載したが、こうやってナイロン糸の中央部を曲げて創部に突っ込むのもいいなあ。

 

繰り返しになるが、動物咬傷は、翌日に傷がまだ開いていることがとても大事よ。ドレーンをうまく利用してね。

 

破傷風とか狂犬病の対策は、他のサイトに良い記事がたくさんあるので、そちらをご参照ください。

 

(今回の記事は、なんとなく、各方面から怒られそうな気もするが…。)