千代子石って
先日来、石の整理をしていて千代子石を見つける。あれ、いつからこんな石が手元にあるのかなと思ったが。
千代子石は、岡山県の布賀鉱山から産出した鉱物で、2020年にロシアの研究者によってその報告がされた、まだ新しい鉱物です。今のところ世界で布賀鉱山でしか見つかっていませんから、そういう意味では非常にレアな鉱物です。その名前は、岡山大で教鞭を執った故逸見(へんみ)千代子に因んで付けられたものです。逸見千代子は、備中石、布賀石、森本柘榴石や草地鉱などの報告者です。で、千代子石の化学式は、Ca3Si(CO3)[B(OH)4]O(OH)2・12H2Oと書かれるらしいが、実際にはSiの所にAlが入り込み、B(OH)4 やCO3の一部にAsO3が置き換わっているらしい。で結局千代子石にCa3(Si,Al)(CO3,AsO3)[B(OH)4,AsO3](OH)6·12H2Oが現実らしい。
千代子石は、しばしばミネラルショーなどで見かけるが、本当にそうなのかと言えば、少し怪しいところがある。千代子石は、普通淡いピンクのところがそうだと言われるが、そのピンクはマンガン(Mn)に起因し、硫黄(S)を含むと黄色になるらしい。しかもそれは累帯構造をしていて複雑になっているらしいので、分析を困難にしている。私の知る限り、ホウ素の分析は化学分析に頼らざるを得ない。微小領域の元素を分析するには都合のいいEPMAでは、ホウ素などの軽元素(Li,Be,B,C,N,Oなど)は軽すぎて測定が難しい。石を見ると僅かながら色の違いも見て取れる。組成として、千代子石から外れる箇所もあってもおかしくない。累帯構造、軽元素と分析が難しい要件がそろっているので、扱われている物が千代子石かどうかは疑わしい。そんな疑問点があるものの、ピンク色の所は千代子石として扱われているようなのだ。
私の、その千代子石もそんなところだろう。で、いつもながら傍に見える紫色ないしは黒紫色の鉱物は何かと言えば、これまた布賀鉱山では有名な逸見石なのだね。逸見石を持っている人は、千代子石が付いているかもしれない。私に知り合いには逸見石を改めてみたら、千代子石らしいピンクの箇所が見つかったという人も居る。なので、逸見石を持っている人は、もう一度石を見直してみるのもいいと思う。
千代子石の写真
で、私の千代子石の写真を以下に。
写真1.千代子石(Ca3Si(CO3)[B(OH)4]O(OH)2・12H2O、
岡山県布賀鉱山、購入品)
薄ピンク色の部分が千代子石(矢印の先、赤矢印先横も)。
千代子石の最大長(矢印先)は約2mmです。
青かったり、黒紫色の部分は、逸見石です。
写真では、Caがたくさん入り込んで逸見石は綺麗ではないけれど。
きれいな逸見石は、以前の書き込みを見てください。
写真2a 千代子石拡大
写真2b 千代子石拡大
写真2c 千代子石拡大
写真2d 千代子石拡大
写真2e 千代子石拡大
別途に逸見石(Ca2Cu[B(OH)4]2(OH)4)を持っているが、千代子石らしいところは見つからなかった。そういう意味では、写真の石には、逸見千代子の名字と名前が入った鉱物が存在する珍しい石と言うことになる。って、逸見石は、逸見吉之助と逸見千代子の親子に因んで付けられたから、当たり前って言えば、当たり前か。
それにしても、逸見石と千代子石、組成というか、構造というか、よく似ているところがあるなあ。B(OH)4、OHとCO3の所はどうやって分析したのかなあ、X線などの回折かなあ。それは無理だろうなあ。赤外線だろうかな。原論文を全部はネットで読めないのが残念だ。色の違いは、銅(Cu)があるかないかであることは明白だね。Siじゃ色付かないしね。
逸見石 Ca2Cu[B(OH)4]2(OH)4
千代子石 Ca3Si(CO3)[B(OH)4]O(OH)2・12H2O
それにしても、千代子石、おそらくかなり前から認識されていたのだと思う。このピンク色の部分はなんだろうなとか。しかし、その組成と様相を見るとかなり分析が困難だったんだろうなあと想像されるし、逸見石の発見(1986年)から35年近く経って報告されるなんて、相当分析が困難だったんだろうなあと推測される。
それにしても、岡山の布賀(ふか)鉱山、色々な鉱物が産出するよなあ。しかも目での区別が難しい石を。
で、そんな奴がよくまあ、私の手元に来てくれたよ、ちょっと粗末にしてたけどネ。