長野県和田峠での柘榴石採集 | なんだかんだの石集めと与太話

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鉱物を初めて手にしたのは、小学生の時。それからずっと中断。
2011年頃より、やっと暇になったので、また石の世界へと羽ばたき始めたけど。

1.和田峠の産地について

 和田峠は、草下英明氏の「鉱物採集フィールド」(参考1,p206)に産地の紹介がされている。しかし、そこは現在採集禁止で、下手をすると警察沙汰になるようだ。仕方ないので古い文献を探ると産地が出てくる。参考2がその文献で、第一柘榴石沢、第二柘榴石沢が図1に出てくる。「第一柘榴石沢」が現在採集禁止になっている箇所と推定される。

 

     図1 和田峠付近の地図 (文献2中の図1)


     

図2 和田峠付近の地図 (国土地理院のサイトから引用)

 

     

写真1 和田峠付近の航空写真 (google mapから引用)

 写真を斜めに2つに分けるように(右上から左下に)走る直線部分は高圧電線です。その下側にそれに沿うようにクネクネした細い道が中山道(なかせんどう)です。中央付近に上から下にくねくねと通る道は、美ヶ原ビーナスラインです。


 2年ほど前(2019年)のGWに採集なしでその禁止の沢を見て回った。10年ほど前に行ったときには石を取ることは「泥棒」だと言うような過激な注意書きがあったが、2年前にはそれらが見あたらなかった。

 警告があったその上流には「水源としているので採集禁止だ」という旨の官庁の掲示は相変わらずあった。また、以前に来たときには東餅屋は営業をしていたが、2019年に訪ねると店を閉めてだいぶ経っている感じになっていた。

 

 柘榴石は、のぞき込んでも簡単に見つからない椀がけのようなことをしないと簡単に見つからないことが参考1や2に書かれている。80年も前でそうなのだから、今ではかなりの努力が必要なことは自ずとわかるだろう。


 私の採集した場所は禁止の辺りではなく、東餅屋より北(上田市丸子町寄りで下流なのか)の壊れかけたロッジの右方の奥の沢とgoogle mapで見ると白っぽくなっている箇所で、そこでの採集となった。ここはおそらく参考2の図1に示された「第二柘榴石沢」の上流だと思うが、国土地理院の地図を見てもそんな沢は見あたらず、はっきりしない。そんな状態で現地に行く。

 最初に探したのは、次の通り。

 閉鎖されたロッジ(林の陰でよく見えない)の右、少し離れた所から斜めに左奥に入っていく道がある。道は少しずつ左に曲がっていく。途中右側に建物があるがその手前の所で道のすぐそば、沢に降りるというほどでない所でよく探すと白い流紋岩(安山岩という文献もあるが)中に1mm程度もない小さい柘榴石が付いた石をいくつか見つけることができた。辺りはブルドーザーでならした感じだった。柘榴石は小さい物ばかりだったので、ここではあまり採集しなかった。

 さらにその道のずっと奥、ジメジメした泥濘んだ道を進み、道が急反転する辺りの沢のところで、10年ほど前に10cmほどの母岩に1mm程度の柘榴石がたくさん付いた石(写真2A)を採集したのだが、今回行ってみると白かったと記憶していたその付近全体が黒く煤けた感じになっていた。印象が変わってしまったが、とにかくそこの沢辺りでハンマーを振るう。私は印象があまりに違うので辺りを探索もした。私が探索している間に同行の士は石を割って5mm程度の母岩付きを見つけ出していた。おそらく此処がmineralhunters氏(参考3)が言う場所ではないかと思う。

 もう一つの箇所は道を更に上り、立ち枯れた林の中をウロウロして漸く見つけ出した。この場所では多少の傾斜があって滑りやすいが石を割っての採集となった。私はあまり見つけられなかったが、同行の主は5mm程度の母岩付きの柘榴石をよく見つけ出していた。けれど1cmもあるような大きい柘榴石は見つけられなかった。ここは夕方近くで、遅くの到着であったので短時間での採集で切り上げた。

 文献2の図2には、柘榴石の採集した箇所が他にもあることを示している。旧の中山道を進んで七曲がりからずっと下った142号線に出る手前辺りである。

    

図3 和田峠付近での文献の採集地 (文献2中の図2、○の部分)

 一番下の○(1573)は山で、本来は△が正しいのではないかと思う。


 和田峠で柘榴石を探すには、球果状の流紋岩のあるところではなく、無斑晶の白っぽい流紋岩の在るところを探すと良いと書かれている(参考5)。また、球果状流紋岩にはα-石英はなく、無斑晶の流紋岩中の空洞にα-石英が先に晶出し、その後に柘榴石が晶出したことが示されている(参考2)ので、柘榴石を探すには、無斑晶の流紋岩をまず目安にしなくてはいけない(参考5)ことを念頭に探してみたいと思っている。どうもそれは、三峯山付近の安山岩溶岩地帯と和田峠流紋岩の接触部に多い感じだ。いつか探索してみたいと思っていて、そのままになっている。

2.採集成果
 和田峠の柘榴石は、満礬柘榴石だと言われるが赤くはなく、鉄礬柘榴石との固溶体となっていて、鉄よりわずかにマンガンが多く(文献2)、色はむしろ黒っぽいと言った方がいいくらいだ。その上に結晶性のいい12面体のものは希で、石を裏返してみると、白いかさかさした流紋岩質の石が付着したものが多い。また、綺麗な面でも水晶等の石英が入り込んだ物も多い。しかしなんと言ってもその透明感は我々を魅了させる。


     

写真2 和田峠の満礬石榴石(現金採集品、サイズ7mm)

 

     

写真3A 和田峠の1mm程度の柘榴石がたくさん付いた母岩(2012年採集)

    赤茶色の点々がそれ、表裏で30箇所以上付いている、

     

写真3B 上の鉱物写真の一部拡大(柘榴石のサイズ約1mm)

  綺麗な結晶の物は、赤くて綺麗です。写真では汚いけど。(^^;;v

 

 さて2019年に採集したり、譲り受けた柘榴石は、5mm程度の母岩付き(水晶が付いている)2個と1mmのものが2つ付いた石でした。
 

     

写真4 和田峠の柘榴石、サイズ約1mm、2019年採集)

 

     

写真5A 和田峠の柘榴石、サイズ5mm、2019年採集

      

写真5B 上の写真の拡大

 

     

写真6A 和田峠の柘榴石、2019年採集

 晶洞中から外れてきそうで外れてこなかったが、写真撮影のためにいじっていたら、母岩が割れて出てきてしまった。

     

写真6B そのはずれた柘榴石、サイズ約5mm


 和田峠は、柘榴石だけでなく、黒曜石の産地としても知られている。全国の遺跡から出てくる鏃などで使われた黒曜石の産地が和田峠のものが多いことでも知られている。歴史の時間に出てきたことを覚えている人も多いはず。男女倉を経由して、鷹山には黒曜石体験ミュージアム(参考4)があり、近くの星糞峠には黒曜石の原産地と言われる遺跡群がある。興味ある人は行ってみてはどうでしょうか。
     

写真7 黒曜石、

    (中央の白いところは方珪石(クリストバライト))

 

3.その他
 中山道は、東餅屋付近の、和田峠の採集禁止の沢に沿って通り、スキー場の横の急坂を登って和田峠七曲がりで頂上に出て、そこから急に下って諏訪の方に抜けて行きます。

 余談だが、江戸時代に整備された「なかせんどう」は、漢字変換やwikipediaでは「中山道」だが、参考2の地図には「中仙道」になっていることに注意されたい。


4.参考
1.草下英明,鉱物採集フィールド,p206,草思社(1982)
2.神津俶祐ほか,岩石鉱物学会誌,24,202-228(1940)
3.minerakhunnters氏のサイト
 http://mineralhunters.jp/wadatoge2.html
4.黒曜石体験ミュージアムのサイト

 http://www.hoshikuso.jp/

5.山崎哲良他2名,地質学雑誌,v82,p127-137(1976)