2011年Financial Times / Goldmann Sachsベストビジネス書賞受賞作。
貧困研究は、ここまで進んだ! 食糧、医療、教育、家族、マイクロ融資、貯蓄……世界の貧困問題をサイエンスする新・経済学。W・イースタリーやJ・サックスらの図式的な見方(市場 vs 政府)を越えて、ランダム化対照試行(RCT)といわれる、精緻なフィールド実験が、丹念に解決策を明らかにしていきます。
面白いです。
学術書ですが、話し言葉のような訳をされていて、スイスイ読むことができます。
はじめのほうの章に、こんな話があります。
インドネシアの小さな村に住むソルヒンさんは、体が弱く仕事ができません。政府支給のお米と、自分で獲った魚で食いつないでいます。働きたいと思っていても食料不足で心身ともに弱り、なんとかしようという意思も衰えていっています。
このような負のスパイラルを、"貧困の罠"といいます。
体が弱いから働けない、働けないからご飯が食べられない、ご飯が食べられないから体が丈夫にならない…。
それでは、貧しい人に食料を買うだけの豊かさ(お金やインフラ設備、薬など)を与えれば、"貧困の罠"から脱することができるのでしょうか?
実際にはそう簡単にはいきません。
1日99セント以下で暮らす人々のほとんどは、餓死寸前にもかかわらず、手持ちのお金を、穀物など必要な栄養素をとるために使うわけではありません。
何を買うのかというと、もっと美味しくて、もっと豪華なカロリーを買うのです。
たとえば、カロリーはあるけど栄養はほとんどない、砂糖を。
健康面でも同じようなことが起こります。
5歳前に死ぬ900万人の子どものうち、約5人に1人の死因は下痢です。
下痢の子どもを救うためには、水を殺菌する塩素系漂白剤、水分補給飲料であるORSの主成分となる塩と砂糖、この3つさえあればいいと言われています。
しかし、下痢をしている子どもの母親は、ORSが効くとは信じていません。抗生剤や点滴しか効かないと思っています。
そのため漂白剤もORSも、たとえ安価に売っていたとしてもあまり使われません。そして子どもは下痢で亡くなってしまいます。
様々な現地調査と研究データが、貧困に苦しむ"貧乏人"の本当の姿を示しています。
無知であること、そして将来のために今少しだけ我慢することができない、ということの恐さ。
これは豊かな国に住むわたしたちにも言えることですね。
- 貧乏な人は重要な情報を持っていないことが多く、間違ったことを信じている
- 貧乏な人は自分の人生の多くの側面について責任を背負いこんでいる(わたしたちのように意思の力なく安全な水が飲めたり、お金を貯める口座を開設できたりするわけじゃない)
- 一部の市場が貧乏人に提供されていなかったり、貧乏人がかなり不利な価格に直面したりするのには、やむを得ない理由がある
- 貧乏な国は貧乏だからといって失敗が運命づけられているわけではないし、不幸な過去があるから失敗確実ということもありえない
- 人々に何ができて何ができないかという期待は、あまりに自己成就的な予言に早変わりしてしまう(君は賢くないと言われた子どもは学校を諦めてしまう。逆に、村に女性プラダンが来たのを見るだけで女性政治家への偏見をなくす。)
学術書はそういう良さとは異なり、ガラッと自分の視野を変えてくれたり、ああでもないこうでもないとジワジワ考えて、思考の基礎をつくってくれたりする魅力があります。
