家族を失った者同士が悲しみを分け合って命を繋ぐ決意を固める陰で、友人を見殺しにせざるを得なかった者が罪の意識から自らの命を絶った。

72時間ぶりに奇跡の生還を果たした赤ん坊が両親と再会する陰で、避難所で幼稚園児の子供が言った『お母さんはいつ帰ってくるの?』という問いに父親は口をつぐんだ。

リアルタイムに発信されるネットの情報によって病院にたどり着けた負傷者がいる陰で、映画の感想のようにネットに溢れるコメントで気持ちが孤立して精神を壊した被災者がいた。





(「CHAOS;CHILD」冒頭シーンテキストより引用)




セックスシーンなしのグロゲーに処女を切った。

2017年3月。そろそろ冬クールも終わろうとしている頃、AbemaTVを見ていた私は偶然カオスチャイルドの振り返り一挙を見てティンときていた。

殿方をおとすのが目的なんだかクリック作業をするのが目的なんだかわからないシナリオがスッカスカの乙女ゲーにめまいがきていた私は、急に刺激が欲しくなった。



松岡禎丞くんの絶叫ボイスと金髪ツインテールのヒロイン、オープニングのいとうかなこ嬢の美声に惹かれたその足で密林に駆け出し、握りしめた野口の札束と等価交換でカオスチャイルドをVitaにぶちこんだ。



もちろんただのギャルゲーではない。公式ホームページのCGサンプルは、もれなく赤色の液体をかぶったキャラクターがいるか、頭部に不自然な陰がかかっていたり、果ては生理的嫌悪を催すような画像が「それがなにか?」みたいな顔でしれっと並んでいる。

CEROの倫理コードがそれを見逃すはずがない。Z。

CとかDとか「~歳以上推奨」ではない。Zだ。

文句なしの18歳禁止ゲーム。



工口ゲー以外で「あなたは18歳以上ですか?」の問いに光の速度で「はい」と返したのはこれが初めてだった。

どれだけグロゲーをやりたかったんだよというセルフツッコミをいれたかったが、自分の気持ちがどうしようもなく落ち込んでいて、自力でも他力でも立ち直れなさそうだったときは、いっそ落ちるところまで落ちてみたいというのが本音であった。

どうして落ち込んでいたか?という理由は多くは語りますまい。

とにかくシナリオスッカスカの乙女ゲーから逃げたかったんだ。



アニメは1クール、振り返り一挙でネタバレされた部分を含めてもプレイしてみたいという気持ちが勝って、アニメの最終回に追いつかれないようにほぼ徹夜で1周目をプレイした。



初回プレイ、通称1周目はどの選択肢を選ぼうとOver sky endという共通バッドエンディングになる。

このルートは「主人公がどんな事件にまきこまれ、それを解決するか」を提示するものになっている。

しかし、たとえ犯人がわかったとしても、主人公もプレイヤーも犯行動機に納得できない。そのため、個々のヒロインのルートをクリアしてからメインヒロインのルートを攻略する形をとっている。

Zを食らうほどグロに特化したゲームに慣れていない私は、あらかじめ攻略サイトを周ってしらべておき、それほどグロくないと言われているポジティブの選択肢を常に選んでいた。

でも、相当くるものがあった。

主人公のCVを担当する松岡くんの熱演もあって、プレイの途中で短めの萌えアニメでも見て小休止を挟まないと本当に気でも狂いそうになった



1週目を終えた感想。惜しいの一言に尽きる。



舞台は「渋谷地震」と呼ばれる震災の5年後を描いている。

発売年月日を考えると、3.11を意識しているんだろうな……。

主人公の宮代拓留(みやしろ たくる)は震災孤児として、小規模の養護施設で養父、義理の姉や年下の義理の姉弟と育った。

だが、とある事情によってキャンピングカーを借りて独り暮らしもどきの生活をしている。

この設定は全作(CHAOS;HEAD)の主人公を連想させて続編なのだと感じさせてくれる。

宮代拓留(みやしろたくる) cv 松岡禎丞 ※主人公



宮代は、とある私立高校の新聞部に籍を置いている。

ネットで話題になっている猟奇殺人事件をスクープしようとネットにはりつき、好奇心から事件に首をつっこむところから始まる。正確には食べられないチーズ(比喩)を切っているグロムービーからはじまるのだけれど……。

宮代は重度の@ちゃんねらー(2chねらー)で、自分を「情報強者」だと自称し、新聞部をのぞく学校のクラスメイトたちを見下している。この時点で相当イタタな感じなのだが、「科学ADV」シリーズにおいてこういう設定そのものは珍しくない。「科学ADV」シリーズの主人公はプレイヤーの黒歴史をえぐる設定がそそる。

しかし、今回の主人公はだめだった。感情移入しようとこちらからどれだけ歩み寄ろうとしても、向こうは全力で振り切ってくる。



義理の姉である来栖乃々(くるすのの)の忠告も聞かず事件現場に突入しちゃったり、目の前で人が惨殺されているのに「おいしいネタだ」とか言っちゃったり、義理の姉が誰かに刺されたにも関わらずまだ事件を追いかけようと懲りもしない。

明らかに敵の罠であろうというシーンでむしろ危険につっこんでいき、いざ危なくなったらヒロイン(主に幼なじみである尾上世莉架)に頼りっぱなしで、危険が去ったと思ったら何事もなかったかのように次の「おいしいネタ」をネットで探しているのである。

なんだかもうこの時点でVitaの○ボタンを連打したくなったが、フルプライスで買った以上スキップするのもなあと生ぬるい目で宮代を見ていた。

彼のいう「おいしいネタ」はもれなく猟奇事件だったので、下手に感情移入をしていたらグロCGで彼同様リバースしていたかもしれない。

そういう意味ではやっぱり序盤から主人公の心情からリタイアしてよかった。

来栖乃々(くるすのの) ※主人公の姉

乃々も乃々で、自ら危ない目に会いに行き、お腹を刺されて13針縫う怪我をさらっとして、翌週の文化祭にはさらっと復活している。もうこの姉弟、どこからつっこめばいいんだよ。

にしても、サブキャラの刑事さんがガラケーをとりだしたのを見た宮代が「こいつ今時スマートフォンじゃないのかよ。こんな情弱で事件なんか解決できるのかなあ」って言ったシーンで見事に私の腹筋を踊らせてくれた。

スマートフォンユーザーじゃないだけで無能扱いする主人公ってどうなの。

宮代、お前にだけは心配されたくない。

感情移入できない主人公とグロCGにつきあいながら過ごすこと序盤の数時間。リアルにえづきながらプレイしていた覚えがある。「CERO?倫理コード?なにそれ?」みたいに力を入れすぎた美麗()グラフィックと、スキップ機能を使ってもスキップできないグロムービーを見たような気がします。なんだかなんだかそのへんの記憶があいまいなのはショックによる記憶の改竄だと思う。力士シールはしばらく夢にでてきたけど。

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力士シール(11番目のロールシャッハ)



ネタバレをしてしまうと、一連の猟奇殺人事件の実行犯は幼なじみの尾上である。彼女はその罪を宮代に着せる。理由は、冤罪をはらして有名人になってほしかったから。計画が成功すれば、まるで5年前のニュージェネレーションの西條拓巳のように一躍スターになれるから、というもの。

CHAOS;CHILDのラジオで松岡くんが「こいつ(尾上)には問い詰めておきたいことがある」と言っていた意味がよくわかる。すっげえ幼稚で短絡的な犯行動機。

当然宮代は納得いくはずもない。義理の妹を殺されている。そんなくだらない理由でスターになどなろうという願望は腐ってもいだかない。

このへんはやっぱり主人公。

尾上世莉架(おのえせりか) ※主人公の幼なじみ、犯人

宮代は尾上と決別することになる。事件の責任が自分にあると気づいた宮代は彼女の記憶を消し、全ての罪をかぶって警察に逮捕される。

ところがどっこい、エンディングでは記憶喪失になったはずの尾上が宮代を連れて警察から逃れてしまう。

初回プレイはどの選択肢をえらぼうと、このエンディングに到達する。



最初に言ったとおり、多くの謎が残ったままだ。



途中から存在感が薄くなったAH総合病院の地下実験とか、出所不明の11番目のロールシャッハテストとか、義姉を刺した力士シール狂信者とか、なぜ佐久間が養子まで手にかけたかとか、なぜ尾上はこんなに従順なのかとか、別のヒロインルートをクリアするまで分からない。

もしかしたら全てのルートをクリアしても分からないかもしれないけれど、狂気じみた猟奇殺人事件に青春の1ページを割く少年少女たちを眺めただけで十分に楽しめた気がする。



リアルメンヘラとしては、宮代の教育環境についてもおっと思わせてくれることがありました。これでも精神科の常連だから情弱の私でも一通りの単語は知ってるぞい。

尾上は、宮代のイマジナリー・フレンド(空想上の友人)。宮代が幼少期に実の両親からネグレクト(育児放棄)を受けていたため、その現実逃避として作り出された友達だった。

脳内で作り出した友達なので、周囲からは子供がひとりでしゃべっているようにしか見えない。これは現実の子供にもよくあることらしいです。

あんなにかわいい幼なじみを妄想してしまうとか、ありし日の宮代の想像力の高さが伺いしれます。

ネグレクトのくだりは私自身が実際にうけていたので実感としてわきやすいことなんですが、「子供の誕生日にさえ枕元に千円札を置いていくだけのくせに……!こんなときだけ両親面して…!」と地の文で3、4回ほど繰り返されて、なんじゃこりゃと口がひらいた。

どういうこと?枕元に千円札?サンタさんなの?違うよね、「誕生日を特別に扱ってほしかったのにそうじゃなかった、しかも酷かった」って言いたいんだよね……?

ごめん、なんか読解力がついてこない…え、……これ、だけ…?本当にこれだけ?育児放棄の描写ってこれだけ……?

そう、これだけである。

ご飯を出してもらえなかったとか、コンビニ食だったとか、まったく会話をしてもらえなかったとか、そういう描写もない。もうちんぷんかんぷんである。



ちなみにCHAOS;CHILDで比喩表現にばったりでくわすと、次のシーンに進むまで、わかるようなわからないような、まわりくどい表現につきあわされるので、気をつけなくてはならない。

もうこっちがイマジナリー・フレンドでも生み出しそうな勢いで想像しないと読解力がおいつかない。シナリオライターさん頑張って。



宮代は、地震に遭った際、両親と合流することになる。彼らの都合がよいときだけ親として振る舞うのが許せない。その時、能力が発動した。

能力が発動した際、彼が強く願ったこと。

それは、「自分だけがやれることをくれ」。

そして発動した能力は、今まで宮代の脳内にしか存在しなかった尾上という人格に肉体を与え、宮代が望む世界を見せるためだけの人間を生んだ。

つまり、宮代が願った「自分がやれること」を与えるために尾上は存在している。実年齢6歳。その歳であの人やあの人まで手にかけた訳ですが、殺人に至るまでの動機が「宮代の役にたつこと」だ。これじゃあんまりだ。

エンディングテーマが流れ、やっと終わった~と気を抜いていると、イヤホンの両耳から「タク、これで満足だよね?」という尾上のとろけたボイスが流れてくるので思わず「なにもかも満足じゃねえよ」と戦慄した。この女、犯行の動機はなんだかよく分からないくせに怖い。



CHAOS;CHILD全体の傾向として、家族に対する思いは強そうなものの、ショッキングな事件に首をつっこみたがり、自分に隠された能力におののく主人公の描写が多い。

そのわりに、主人公の周りにいる「家族」という大切な者への愛着が感じられない。

いざ犯人の魔の手が身近に及んでも、「『大切なものはすぐそばにあった』と気づき、嘆く主人公」に説得力がイマイチもてない。

「隠された能力」「猟奇連続殺人事件」「事件に首をつっこむ部活動」という時点でおなかいっぱいだ。厨二心をくすぐってくれる。

だから、「震災」「義理の姉」「家族」というデリケートな話題をもりこまなくても魅力はだせたはずだと思う。

前回から引き継いだ要素どこかひとつに重きをおいて、どれかひとつごっそり削ったほうがよかった。

変に前作を意識したのが悪かった。



そんなわけでシナリオもツッコミ放題といえばツッコミ放題なのだけれど、後々に回収されていく伏線もおもしろいし、グロいシーンも目をふさいだ指の隙間からチラチラ見たくなる仕様なので巧みだった。

惜しいと感じるシーン、巧みだと感じるシーンにばらつきがあるので本当に「惜しい」。

もしこれを「科学ADV」シリーズに置かず、単発で売り出したら間違いなくヒットしたと思う。

ここも惜しいんだ……。



なんどか指摘しているとおり、シナリオに抜けている部分があるため、肝心のシーンでさまざまな情報がない。ゆえにプレイヤーに想像をゆだねさせてくれず跳躍した憶測をせざるをえない。



例の「尾上が誕生した理由」についても、情報が断片的でわかりづらいため、「あまりにもひどい育児放棄をうけていて」「やりたいことが自由にやれなかった」し、そのせいで「同級生たちに馬鹿にされていた」ため、「それらのプレッシャーを震災時に保っていらなかった」から、「『自分が世の中の特別とよばれる一握りの存在になりたい』と願う主人公のために殺人事件をおこそうと決意する少女」となんとなく一連の事件を「わかった気」になるしかない。



ごらんのとおりシナリオには総ツッコミしたい感があるのだが、それもそのとおり、冒頭から文章についていけなかったのだ。

ライターさんと肌があわないなと感じたのはこのゲームが初めてだった。メインライターの梅原英司氏は「Re:ゼロから始まる異世界生活」「輪廻のラグランジェ」の脚本、「ローリング☆ガールズ」のノベライズを担当している。らしい。(歯切れが悪いのは、ググってもこれ以上でもこれ以下でもないくらい少々の情報しかヒットしないからです)。

アニメ畑のコネクションがないのでなんともいえません。

が、ゲームシナリオとゲームのノベライズを担当したリアルの知人の言う通りであれば、「ゲームシナリオは文芸や他の脚本のそれと全く性質が違う」のだそうです。



文芸とゲームのシナリオの文章って全く異なっていて、それが悪い方向に表面化してしまったのが冒頭から振り落とされる原因になったと思います。

育ってきた畑がゲームシナリオであれライトノベルであれ、ゲームとして商業作品にするのだから、ゲームで理解しやすい文章になおしてほしかった。

まずしょっぱなから登場する比喩がむずかしい。「震災の過酷な状況のなか、運のよかった者もいればそうでなかった者もいた」みたいなことを言いたかったのだと思います。あってるよね…?

理解しようとして文章を2回か3回読み返して、理解できないんだということを理解してスキップしました。比喩がわかりづらいというのをここまで体現できんのもすげえなと思いました。こういう場面があんまりにも多すぎる。



せめて梅原氏が別名義で、工口ゲーなりアプリゲーなりを手がけていて、良い悪いに関わらずそれなりの評判があれば、ちょっとは救われたかもしれない。

文才がないとか表現力がないとかそういう理由ではなく、ゲームにできる表現をゲームで試みなかったのが読みづらさにつながったと思う。

CHAOS;CHILDの位置づけは科学ADV系列になっているけれど、これまでメインライターだった林氏が監修にまわっていて、個別ヒロインルートで複数ライターを起用しているのも私を複雑な表情にさせてくれました。

これでCHAOS;HEADの正当続編って銘打って大丈夫なのだろうか。



ちなみにこの子が例の金髪ツインテールの子。



どうやら同級生でした。