今回は、不当解雇(リストラ)について判断している裁判例を紹介します(つづき)。 
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか否か)について
(1)地方公務員法29条1項は,地方公務員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,戒告,減給,停職又は免職の懲戒処分を行うことができる旨規定するが,同法は,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかについて,すべての職員の懲戒について「公正でなければならない」(同法27条1項),すべての国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われなければならない(同法13条)と規定するほかは具体的な基準の定めはない。
 したがって,懲戒権者は,非違行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の当該行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを,その裁量に基づき決定することができると解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
 もっとも,その裁量も全くの自由裁量ではなく,裁量権の行使に基づく懲戒処分が社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合には,その懲戒処分は違法であると解するのが相当である。
 そして,本件酒酔い運転については,上記地方公務員法29条1項1号及び3号の非違行為に該当し,懲戒事由が認められる(前記前提事実)ところ,以下においては,上記判断枠組みにより,本件処分が適法といえるか検討する。
(2)まず,本件処分は,本件懲戒基準を基準として行われたものであるから,本件懲戒基準が基準として合理的なものか否かについて検討する。
 本件懲戒基準の内容,改訂の経過は前記前提事実のとおりであるところ,証拠(甲10,乙9)によれば,同基準においては,飲酒運転の非違行為を,人身事故を伴う場合,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合,事故を伴わない交通法規違反のみの場合に区分し,これらいずれについても原則は免職処分とし,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合及び交通法規違反の場合のうち,情状酌量の余地のあるものについては諭旨退職処分とすることができる取扱いとなっており,停職の余地が残されているのは,いわゆる二日酔いの状況にあり,特に情状酌量の余地のあるもののうち死亡事故の場合を除くもののみであること,上記改訂後の飲酒運転を内容とする非違行為に対しては,本件懲戒基準に基づく処分がされていることが認められる。
 確かに,悪質な飲酒運転が社会問題化し,被告においても,本件懲戒基準を改訂し,飲酒運転の撲滅に向けた種々の取組みを行ってきたことを考慮すると,被告において綱紀粛正を徹底する見地から,職員の飲酒運転に対し厳正な処分をもって臨むとすることは相応に合理性があるものと解される。
 しかしながら,本件懲戒基準は,飲酒運転の場合には,いわゆる二日酔いの状況でなければ,人身事故を伴う場合,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合,交通法規違反の場合のいずれを問わず,免職処分又は諭旨退職処分となるというものであり,一律に公務員としての身分を失わせる厳しい基準である。
 飲酒運転といっても,上記のように,事故(人身,物損,自損)を伴う場合,事故自体発生しなかった場合があり,事案によりその悪質性に差があることも否定できないことからすると,これらの要素を個々に勘案し,処分の軽減等を図る余地を残さずに,いわゆる二日酔いの状況以外の場合は全て身分を喪失させるとすることは,他方で,飲酒運転以外の交通法規違反については,時速70キロメートル超えの速度違反や,人身事故(重傷)であっても,減給ないし戒告処分にとどめていること,国家公務員の場合,酒酔い運転の標準量定は「免職,停職」であり,停職の余地を残していることなどと比較しても,処分内容として重きに失するといわざるを得ない。
 以上のとおり,本件懲戒基準は,今日における飲酒運転に対する社会的非難の強さを考慮しても,なお合理性を欠く部分があるというべきであるが,本件処分が本件懲戒基準により行われたからといって,当該処分が直ちに違法となるものではなく,結局のところ,本件で問題とされている原告の非違行為に対し懲戒免職処分をもって臨むことが社会通念上著しく妥当性を欠き,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるかどうかが検討されねばならない。
(3)本件処分の理由とされる非違行為は,酒酔い運転であるところ,前記前提事実のとおり,原告からは,道路交通法違反として処罰される下限である呼気1リットルあたり0.15ミリグラムを大幅に超える呼気1リットルあたり0.7ミリグラムもの高濃度のアルコールが検出されていること,しかも,原告は,本件車両を運転し,本件事故(自損事故)を起こしていることからすれば,本件酒酔い運転は非違行為としての性質,態様及び結果において,悪質さの程度が低いとはいえない。そして,原告が飲酒運転に及んだ動機に酌量の余地はないし,本件事故が発覚して警察官が駆けつけた際,飲酒検知結果への署名指印を拒否するなど,飲酒運転後の情状も芳しくない。
 他方,前記前提事実のとおり,原告は,現業業務や行政職の補助業務に携わっていた公務員であるが,管理職の地位にあったわけではなく,本件酒酔い運転自体も職務外で私的に行われたものであるから,職務の信用を害する程度は小さいといえる。実際にも,本件酒酔い運転によって自損事故を惹起しているものの,直接原告が従事していた業務等に支障が生じたものではない。また,原告は,本件処分までに被告から懲戒処分を受けたことはなく,証拠(甲22)及び弁論の全趣旨によれば,交通違反歴についても,一旦停止義務違反,シートベルト着用義務違反及びスピード違反が各1件あるだけで,平成14年以降は無事故無違反であることが認められる。そして,本件事故後,前記のとおり非協力的な態度を示したものの,証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,その後は,捜査機関の取調べに素直に応じていたこと,被告に対し,自ら自宅謹慎を申し出たこと,釈放された日の翌日である平成21年5月1日には,被告の事情聴取に応じて,事情を説明し,本件顛末書を提出したことなどが認められ,自己の行為の危険性や,悪質性を理解し,反省している様子も窺えるところである。さらに,証拠(甲15,16の1ないし4,甲17,18及び19の各1及び2,甲20,22)によれば,原告の家庭においては,原告の給与は重要な収入源であったこと,原告の再就職が困難な状況で,原告及びその妻は生活に困窮していることが認められる。
(4)飲酒運転に対する批判が高まり,危険運転致死傷罪の新設や道路交通法改正による飲酒運転に対する厳罰化が進められるなど,飲酒運転に対する規範意識が高まっている社会情勢に鑑みれば,公務員である原告の本件酒酔い運転は,社会的にも強く非難されるべきであって,これに対し,厳罰により対処しようとした被告の姿勢は十分に理解できるところである。
 しかしながら,上記認定の本件酒酔い運転の経緯,態様や結果,原告のこれまでの処分歴や交通違反歴,本件酒酔い運転後の態度など諸般の事情を総合考慮すると,被告が本件酒酔い運転に対する懲戒処分として,公務員の地位を剥奪し,職員としての身分を喪失させる本件処分を選択したことは,上記の社会情勢や本件懲戒基準が改定された経緯などを勘案したとしても,なお社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を付与した目的を逸脱し,あるいはこれを濫用したものであるといわざるを得ない。
2 結論
 以上によれば,本件処分は違法であり,その他の点について検討するまでもなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用について民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
なお、不当解雇(リストラ)についてお悩みの方は、専門家である不当解雇(リストラ)を扱う弁護士に相談してください。また、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料金やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返却請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事弁護を要する刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。