翌日も母の意識はどこか
遠くにあった
ここに居るのに
いない感じがした。



「入院の準備でまた今日も
買い物に行って来るから」
と母に言い残して出掛けようと
した私に



「入院って誰が入院するの?」
と真顔で聞いてきたので
ヤバイなと思ったものの



今ゆっくり説明する気にならず
聞こえないふりをして
外出した。




準備するもので特に迷ったのは
病院内で履くスリッパ



母は足が悪いので足を擦るように歩く
人工関節が両膝に入っている
重かったに違いない




普通のスリッパだと脱げやすい
運動靴のように履きにくいのも
大変だろう




履きやすく、すぐに脱げない
少しかかとがあるものにした




靴下や下着も出来るだけ気分が
明るくなるように柄がある
可愛いものを選んだ。




入浴時に転倒防止用のマットを
用意するように言われ
初めてその存在を知った



箸やスプーン、フォーク全て
どれが一番母が使いやすいか
迷って何度も選び直した。



そしてこの日は入院の2日前だったが
妹が泊まりこみで看護に来ると
連絡が入った。



妹にはもうすぐ5歳になる息子が
居るが旦那さんが理解ある人で
「あとで後悔しないように
しっかり看護しておいで」と
送り出してくれたのだ。




母は何度も妹に息子と旦那さんは
どうしているのかと同じ質問をして
妹も何度も同じ答えを苦笑いで
返していたが




昔に戻ったような束の間の
楽しい時間を
私達親子は共有しているのを
母の意識がどこか遠くても
しっかり感じていた。



この日初めて妹に
母がトイレも自分できちんと
拭く事が出来ていないので
下着を紙パンツにしないと
いけないと教えられ



買ってきた下着を使うこと無く
紙パンツと尿パッドを
買い足しに行くことになった。



夜に東京にいる姪っ子から
母にビデオ通話が入り
「年末年始に帰るから
早く退院してみんなで賑やかに
年越ししようね」




と聞いて母は
「もう退院してきたんだよ」と
返していた。
それにはみんな苦笑いながらも
なんだか穏やかな夜を過ごす
事が出来た。






続きはまた