それは突然にやってきた


軽い認知症だった母は
時々つじつまの合わない
言葉を口にしてこちらが
やれやれと苦笑することはあった
 


毎日妹が母を心配して
電話をかけてきては
会話しながらその様子を探る
 


いつも昼間なのに
その日は珍しく夜に
母のスマホが鳴った
 


スマホの着信音が消えたので
母がきちんと受け答えを
しているのだと思った
 


その後わたしのスマホが鳴り
妹からだった。
 


母が電話に出ると
「お母さん辛いんだよー」
と言って泣きわめいたあと
すぐに応答が無くなった
母さんの意識はあるかと
妹がとても慌てているのがわかった



急いで部屋に見に行くと
母はスマホを握ったまま
寝ていた。


起こしてみるとすぐに目を覚ました。
妹は母の異変をなぜすぐ教えて
くれなかったのかとわたしを責めた


昨日まではまともに会話が出来てたのに
今日はそれが出来ない


正直いうと
今日はいつもより会話が
通じないなとは感じていたが

 

それをあまり深刻に考えていなかった
いや、深刻にしたくなかった。
一時的なもので明日は戻るのではと
そう思いたかったので
妹にも報告したくなかった。



またその日は入院するため
持たせなければいけない備品を
あちこち買い物に行ったが揃わず




明日また買いに行かなくてはと
その事に追われて母の異変を
重く受け止めてる余裕がなかった。



妹はまだ心配が止まなかったようで
もう日付けが変わるような時間に
約1時間車を飛ばして母の様子を
見に来た。



母が寝ているのを見届けて
ようやく安心したように
帰って行った。



しかしその翌日も母の意識は
どこか遠くに行ってしまっているようで
調べてみるとそれは
ショックやストレスからくる
せん妄という症状らしい。



その症状は最期まで治ることがなかった