その子のことをここではAと呼ぶことに決めました。
Aは常に厭世的で死にたい願望を常日頃抱えていました。
3ヶ月前、何気ない場所でAと知り合った僕は
最初は疑念の目を向けていて必要以上に関わりを持つことを想像できなかった。
社交的とはいえず人見知りが激しいし今でも僕の目をしっかり見て喋ろうとしない。
恥ずかしがり屋なのか、それとも僕の顔が生理的に嫌なのかはわからないけど
膝を交えて会話をしていても目が中々合わないのがデフォルト。
言葉が巧みというわけでもないし、これと言った職歴もない28歳の女の子。
しっかりとお洒落をしてしっかりと化粧をすれば
外見上Aが厭世的で死にたい願望があるだなんて考えられない。
Aは若い頃に結婚し子供を育てている。
ところがつい先日Aは離婚をすることを決意する。
プライバシーに関わることなのでAの離婚の理由は伏せさせてください。
Aは厭世的だけど信じられないぐらい物事を推し進める。
社交的ではないのはLINEでも同じで
何か物事が起こらないと僕には連絡してこない。
僕は心配症だから3日おきぐらいに
「どう?順調?」ぐらいはLINEするけどAからのレスポンスは毎回遅い。
既読はつかないし既読スルーも当たり前だし。
でも育児や家事などに追われていることを考慮してあげれば
LINEのレスポンスに対して特にどうこういうことはなかった。
だから僕の知らないところで物事が一気に進んでいくわけだから
AからLINEのメッセが久々にくるとついつい背筋が伸びてしまう。
以前のブログでも介しましたがAは兎にも角にも決断が早い。
悲観的で愚痴が多いAだけど一度決めたら当たって砕けるタイプなのかもしれない。
僕はAにこう言ってあげた。
「僕と知り合う人は幸運が訪れる。僕はAの福男かな。でも僕は逆に不幸になるけどね」
Aはあげまんみたいだなぁぐらいな感じで僕の話に耳を傾けていた。
僕は本当に福を呼ぶ男かもしれない。
すると
Aは離婚を決める、その一週間の間でかなり良い物件をみつけた。
もちろんシングルマザーとして新しい生活を始める新居だ。
新居が見つかると直ぐに就職先を決めてしまう。
仕事の内容を聞くと悪くはない職業だ。
あっという間の展開に脱帽するしか無い。
僕はまだ何もしてないのにAは重い決断を次から次へとクリアーしていく。
僕はそのことを毎回LINEで知らされるから彼女がどんな心境で物事を推し進めているか
メッセージは常に端的なので極めるのは困難。
ただ3ヶ月前よりもLINEの文章には活気を感じるし
僕の勝手な直感だけど充実感が漲っているようにもみえる。
実はAの新居が見つかった次の日僕はドライブデートに誘われた。
夕方、Aは自家用車に乗って僕を迎えに来る。
Aはイルミネーションがみたかったらしい。
何処にでもいる可愛らしい女の子の発想だ。
子供を主人?身内に?預けてきたらしいのでそれほど長居はしなかった。
みなとみらい方面をまわってファミレスで簡単な食事をして色々と話した。
話の中心はもちろん愚痴が多めだけど新しい居場所を見つけたのか
Aの表情はいつもよりずっと明るかった。
化粧は殆どしてなかったけど
この日だけは何故か目があうのが多くなったようなきがする。
僕が目が合うようになったね、と苦笑すると
再びAは僕と目を見て会話することを拒絶するようになった。
でもAが僕の顔を生理的に嫌いではないことは明らかになった。
「やっぱりAに幸福がやってきた。来年はもっと良くなる。でも僕は不幸になるのかな」
「最近、死にたい願望がましになってきた」
「Aがどんどん幸せをみつけていくと僕は近いうち即死するかもしれない」
「いまは死なれたら困るなぁ」
Aの「今は」に若干ひっかかるものがあったけど
生きる気力が沸いてきたことは良いことだ。
さあ僕はAに運を奪われて不幸になるわけにはいかない。
いまは仕事もしていないしもちろん収入もない。
これ以上Aに運を吸い取られるわけにはいかないよ。
僕の重い腰はようやく起き上がることが出来た。
ずっと最近アパレル関係の仕事をしていたからリクルートスーツの存在を忘れていた。
自宅のクローゼットを眺めるとリクルートスーツらしきものはない。
やれやれだ。
僕は何を思ったのかリクルートスーツを廃棄していたらしい。
そういうときこそ得意のメルカリで
何気なくみつけたユナイテッドアローズのビジネススーツを購入。
通年用のビジネススーツを購入したつもりであったけど
背抜きでこの時期に着用するにはきつい。
まあ安く購入したから致し方がないと思って
僕の就職活動の準備は整った。
伸ばしていた髭を剃り落とし証明写真をとる。
履歴書も文具店で購入し志望動機以外の部分をビッシリと埋めた。
数社気になっていた企業にエントリーしたら
ひとつの会社から面接の日時を決めるメールが届いた。
アパレル業界とはおさらばし全く経験がない職種にチャレンジ。
まだ採用されるかはわからないけど
僕の就活が始まった瞬間だった。
さあ、Aはどこまで物事を推し進めているのだろうか。
僕もこの二日間で色々と推し進めてきた。
たぶん、Aは僕よりももっともっと先に進んでいるかもしれない。
切磋琢磨??
そういうわけではないけど
僕はAに運を吸いとられて不幸になるつもりはない。
ー つづく ー

