○2/26「スウェーデンの社会保障に学ぶ」講演会
2月26日「スウェーデンの社会保障に学ぶ」講演会
参加レポート
福祉国家実現へ向けての戦略セミナー
スウェーデンは社会保障と経済を両立できた国として知られています。
日本とスウェーデンとの対比の中から、日本の今後を考えます。
講師は、藤井威さん 元スウェーデン大使
1940年生まれ。東大法学部卒。大蔵省主計局次長、理財局長、内閣官房内政審議室長を経て、
退官後、1997年から2000年まで駐スウェーデン特命全権大使
その後、地域振興整備公団総裁、みずほコーポレート銀行顧問
■ スウェーデンの福祉国家としての成立ち
・スウェーデンは国が若い時に増税、福祉国家を確立した
・税を納めることで、自分たちの生活が良くなると実感している
~税金あげたら住民に利益が帰ってきた ⇒だから賛成している「受益感覚」
・福祉国家でなければ存続できないとすら思っている
■ 日本の状況
・正規雇用と非正規雇用にこんなに差がある先進国は日本しかない
・福祉国家からも背を向けて来たことで今危機的状況
・アメリカ式の経済、儲けたら勝ち、貧しいと負けという考えはアメリカと日本だけ
これはグローバルスタンダードではない。日本は勘違いしている。
■ 国民負担率
・GDP比でいうと
◇ 日本 26.4%
潜在的負担率 33.0% (財政収支 ▲ 6.6%を含む)
◇ スウェーデン 50.4%
◇ EU15ヶ国の国民負担率平均は 39.7% …こちらがスタンダード
ただしGDPは減価償却分(減耗分)を含むので、
・ 国民所得ベースでいうと
◇ 日本 35% ※赤字(前借)を含めれば 44%
◇ スウェーデン 75%
⇒ 25%しか国民に自由度がないことを意味する
■ 日本の制度の課題
【医療保険】
・日本は病気になりやすい高齢者だけで医療保険を作るなど、おかしい
・本来は一本化して皆で負担すべきである
【年金】
・日本の年金はパッチワークで、いろんな制度が混在している
・年金総額のGDP比率は 9.2%で水準としては まあまあ世界並
・しかし国民基礎年金(年間88万円)だけで、所得比例年金のない人がたくさんいる
・企業年金をもらっている人の年間240~250万円はスウェーデンより多い
・年金の格差が大きいことも問題である (企業が年金を払いたくないから)
【不平等な税制】
・9、6、4の不平等を止めるべき
~税の捕捉率: 給与所得者9割、自営業 6割、農林水産業 4割
・国民背番号制を導入すれば捕捉が平等になる
~ところがこれで得をする人(給与所得者)が、それを分からずに反対している。
■スウェーデンの家族政策と日本
・GDP比率の比較
【スウェーデン】 【日本】
家族政策総額 3.54% 0.75% (4.5倍)
子育て公費負担 0.85% 0.19% (4.5倍)
出産育児休業給付 0.66% 0.12% (5.5倍)
保育就学前教育 1.74% 0.33% (5.3倍)
・日本は圧倒的に低い ⇒ どうして反乱を起こさないのか不思議
・日本の無認可保育所は 負担金が10万円
~保育士の給料が低いから成り立つ構図
■ スウェーデンでなぜ福祉国家が形成できたか
・戦後のエランデル首相の23年間の長期政権(1946~1969)
・まずビジョンが明確に示された
・漸進的増収措置により、時間をかけてビジョンの実現に向かった
・1960年初頭という国民経済全体が若く、活力ある状況の下で戦略を開始
・常に財政規律の堅持に意を用い、公債や借入金依存を徹底して排除した
・歳出政策で、政策目的実現に向けて最適な支出の合理的な組合わせを徹底した。
・段階的な社会福祉水準向上措置
以下に図を示しますが、大切なことは
① ビジョンの明示
② 税負担と連動した目に見える便益
③ 平均的所得の人は給付が上回る (過半数に納得感がある)

■『増税賛成の革新政党』が欧州では当たり前
・資源の再配分ができる
・国を通して、福祉や保育が準公共財化される
・中間所得者階層が豊かになる (年収800万でも得をする)
★福祉普遍主義 …ミーンズテスト(給付要件テスト)はしない
■ 出生率は経済と家族政策によって決まる
・出生率は遅行指標であり、政策実施からタイムラグが出るもの
・出生率を上げるには家族政策による女性の家庭からの解放と
雇用の拡大、世帯所得増加が不可欠
■ 福祉国家の効用
=福祉国家戦略は経済、社会にプラスのサイクルが生まれる=
(藤井さんの資料をもとに作成しました)

■日本へのヒント
1.スウェーデンの福祉体系は参考にはなるが、全体としてその導入を
図ることはもちろんできないし、適当でもない。
負担増 →福祉サービス向上 →受益感覚という過程を踏まえつつ、
国民との対話、与野党の対話を通じて、適切なビジョンの形成に努めるべき
2.膨大な財政赤字と、累積債務を抱える公共部門の危機的状況にかんがみ、
できる限り早期に、ビジョン付き増収措置を開始しなければならない。
その際、スウェーデンの例をさらに超えて
① 財政赤字の縮小と、福祉制度の機能不全の是正と福祉水準の段階的向上を
両にらみで実施するという困難きわまる過程を選択せざるをえないだろう。
② 我が国に許される期間的余裕は、20年余りというような長期には期待
できない。より短い期間内でより急速な漸進措置が避けられない。
3.常にワイズスペンディング(賢い歳出)をめざし、また、公債や借入金への
依存を徹底して排除しなければならない。
4.このような困難極まる戦略を成功させるためのもう一つの条件として、
政府の持つ「新成長戦略」の確実な実施の確保が必須であろう。
福祉国家戦略と新成長戦略の同時遂行が求められる。
■ その他のコメント
○ 福祉の実践は地方に委ねることが大切
・地域により解決すべき課題もニーズも異なる
・霞ヶ関の官僚に、現場に即した補助基準はつくれない
・地方公共団体に予算と権限を与えないとダメ
※スウェーデンでは複雑怪奇なシステムを一般化した
社会民主党は中堅取得層にはたらきかけて地方に巻き込んだから成功した
○ サービスその他福祉のための高度化が必要
・構成する市民と対話できるサイズ
・自らが受益感覚を感じられること
※スウェーデンは2500あったコミューンを270に合併した。
平均2万人…これがちょうど良いサイズ (小さいのは3000~8000人)
※スウェーデンは小国だからできたという意見があるが、
日本でも小さい単位を組み合わせれば同様にできる
○ 民主化、オンブズマンによる情報公開が大切
・皆が自分の事として考えて行動すること
※今はせっかくの制度が役人タタキにしか使われていない
○ 税に関しては外形標準課税を拡大するという考え方もある
・コミューンに住んでいる以上はいろんな利益を得ている。
分に見合って、そのコストを払うという発想があってもよい
○ ミーンズテストはなるべく避けたほうが良い
⇒普遍的な税金を課税してカバーする
○ 年金は一本化すべき
○ 実質成長率2%、名目成長率3%の実現はできるのか?
成長すれば金利も上がる。 利子負担も増える
○ スウェーデンにはコミューンという地域の共同体があるが、
日本も以前はこの意識があった。田舎にはまだ残っている。
この感覚を呼び戻すとよい。
というようなお話でした。
これからの日本の社会保障と経済のあり方を考える上でとても参考になりました。
今後に活かしていきたいと思います。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
参加レポート
福祉国家実現へ向けての戦略セミナー
スウェーデンは社会保障と経済を両立できた国として知られています。
日本とスウェーデンとの対比の中から、日本の今後を考えます。
講師は、藤井威さん 元スウェーデン大使
1940年生まれ。東大法学部卒。大蔵省主計局次長、理財局長、内閣官房内政審議室長を経て、
退官後、1997年から2000年まで駐スウェーデン特命全権大使
その後、地域振興整備公団総裁、みずほコーポレート銀行顧問
■ スウェーデンの福祉国家としての成立ち
・スウェーデンは国が若い時に増税、福祉国家を確立した
・税を納めることで、自分たちの生活が良くなると実感している
~税金あげたら住民に利益が帰ってきた ⇒だから賛成している「受益感覚」
・福祉国家でなければ存続できないとすら思っている
■ 日本の状況
・正規雇用と非正規雇用にこんなに差がある先進国は日本しかない
・福祉国家からも背を向けて来たことで今危機的状況
・アメリカ式の経済、儲けたら勝ち、貧しいと負けという考えはアメリカと日本だけ
これはグローバルスタンダードではない。日本は勘違いしている。
■ 国民負担率
・GDP比でいうと
◇ 日本 26.4%
潜在的負担率 33.0% (財政収支 ▲ 6.6%を含む)
◇ スウェーデン 50.4%
◇ EU15ヶ国の国民負担率平均は 39.7% …こちらがスタンダード
ただしGDPは減価償却分(減耗分)を含むので、
・ 国民所得ベースでいうと
◇ 日本 35% ※赤字(前借)を含めれば 44%
◇ スウェーデン 75%
⇒ 25%しか国民に自由度がないことを意味する
■ 日本の制度の課題
【医療保険】
・日本は病気になりやすい高齢者だけで医療保険を作るなど、おかしい
・本来は一本化して皆で負担すべきである
【年金】
・日本の年金はパッチワークで、いろんな制度が混在している
・年金総額のGDP比率は 9.2%で水準としては まあまあ世界並
・しかし国民基礎年金(年間88万円)だけで、所得比例年金のない人がたくさんいる
・企業年金をもらっている人の年間240~250万円はスウェーデンより多い
・年金の格差が大きいことも問題である (企業が年金を払いたくないから)
【不平等な税制】
・9、6、4の不平等を止めるべき
~税の捕捉率: 給与所得者9割、自営業 6割、農林水産業 4割
・国民背番号制を導入すれば捕捉が平等になる
~ところがこれで得をする人(給与所得者)が、それを分からずに反対している。
■スウェーデンの家族政策と日本
・GDP比率の比較
【スウェーデン】 【日本】
家族政策総額 3.54% 0.75% (4.5倍)
子育て公費負担 0.85% 0.19% (4.5倍)
出産育児休業給付 0.66% 0.12% (5.5倍)
保育就学前教育 1.74% 0.33% (5.3倍)
・日本は圧倒的に低い ⇒ どうして反乱を起こさないのか不思議
・日本の無認可保育所は 負担金が10万円
~保育士の給料が低いから成り立つ構図
■ スウェーデンでなぜ福祉国家が形成できたか
・戦後のエランデル首相の23年間の長期政権(1946~1969)
・まずビジョンが明確に示された
・漸進的増収措置により、時間をかけてビジョンの実現に向かった
・1960年初頭という国民経済全体が若く、活力ある状況の下で戦略を開始
・常に財政規律の堅持に意を用い、公債や借入金依存を徹底して排除した
・歳出政策で、政策目的実現に向けて最適な支出の合理的な組合わせを徹底した。
・段階的な社会福祉水準向上措置
以下に図を示しますが、大切なことは
① ビジョンの明示
② 税負担と連動した目に見える便益
③ 平均的所得の人は給付が上回る (過半数に納得感がある)

■『増税賛成の革新政党』が欧州では当たり前
・資源の再配分ができる
・国を通して、福祉や保育が準公共財化される
・中間所得者階層が豊かになる (年収800万でも得をする)
★福祉普遍主義 …ミーンズテスト(給付要件テスト)はしない
■ 出生率は経済と家族政策によって決まる
・出生率は遅行指標であり、政策実施からタイムラグが出るもの
・出生率を上げるには家族政策による女性の家庭からの解放と
雇用の拡大、世帯所得増加が不可欠
■ 福祉国家の効用
=福祉国家戦略は経済、社会にプラスのサイクルが生まれる=
(藤井さんの資料をもとに作成しました)

■日本へのヒント
1.スウェーデンの福祉体系は参考にはなるが、全体としてその導入を
図ることはもちろんできないし、適当でもない。
負担増 →福祉サービス向上 →受益感覚という過程を踏まえつつ、
国民との対話、与野党の対話を通じて、適切なビジョンの形成に努めるべき
2.膨大な財政赤字と、累積債務を抱える公共部門の危機的状況にかんがみ、
できる限り早期に、ビジョン付き増収措置を開始しなければならない。
その際、スウェーデンの例をさらに超えて
① 財政赤字の縮小と、福祉制度の機能不全の是正と福祉水準の段階的向上を
両にらみで実施するという困難きわまる過程を選択せざるをえないだろう。
② 我が国に許される期間的余裕は、20年余りというような長期には期待
できない。より短い期間内でより急速な漸進措置が避けられない。
3.常にワイズスペンディング(賢い歳出)をめざし、また、公債や借入金への
依存を徹底して排除しなければならない。
4.このような困難極まる戦略を成功させるためのもう一つの条件として、
政府の持つ「新成長戦略」の確実な実施の確保が必須であろう。
福祉国家戦略と新成長戦略の同時遂行が求められる。
■ その他のコメント
○ 福祉の実践は地方に委ねることが大切
・地域により解決すべき課題もニーズも異なる
・霞ヶ関の官僚に、現場に即した補助基準はつくれない
・地方公共団体に予算と権限を与えないとダメ
※スウェーデンでは複雑怪奇なシステムを一般化した
社会民主党は中堅取得層にはたらきかけて地方に巻き込んだから成功した
○ サービスその他福祉のための高度化が必要
・構成する市民と対話できるサイズ
・自らが受益感覚を感じられること
※スウェーデンは2500あったコミューンを270に合併した。
平均2万人…これがちょうど良いサイズ (小さいのは3000~8000人)
※スウェーデンは小国だからできたという意見があるが、
日本でも小さい単位を組み合わせれば同様にできる
○ 民主化、オンブズマンによる情報公開が大切
・皆が自分の事として考えて行動すること
※今はせっかくの制度が役人タタキにしか使われていない
○ 税に関しては外形標準課税を拡大するという考え方もある
・コミューンに住んでいる以上はいろんな利益を得ている。
分に見合って、そのコストを払うという発想があってもよい
○ ミーンズテストはなるべく避けたほうが良い
⇒普遍的な税金を課税してカバーする
○ 年金は一本化すべき
○ 実質成長率2%、名目成長率3%の実現はできるのか?
成長すれば金利も上がる。 利子負担も増える
○ スウェーデンにはコミューンという地域の共同体があるが、
日本も以前はこの意識があった。田舎にはまだ残っている。
この感覚を呼び戻すとよい。
というようなお話でした。
これからの日本の社会保障と経済のあり方を考える上でとても参考になりました。
今後に活かしていきたいと思います。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□