前回の続きだ。


搭乗時間が近づいて来たので、私達はレストランを後にした。



セキュリティゲートに入るにはまだ少し時間があったので、少し近くで時間を潰す事にした。




もう少しでお別れの時間だ。



早かったなぁ。



まぁ色々内容が詰まったお見送りにはなったけど……。




私とDは抱擁しながら会話する。


私「気を付けて帰ってね」


D「うん、あなたもありがとうね」


私「元気でね」


D「また来るから、メッセージ送るから」


D「あなたも元気でね」




Dは私の手を強引に腰の辺りに持っていく。


私がDを後ろから抱きしめる様な形だ。




もはや周りの人間は全く視界に入らない。


人目をはばからずとは正にこの事だ。


こんなん高校生の時以来だ……。。。




私はDとずっとイチャイチャしている。


お互い抱きしめ合う。


D「あなた1番大好き」


と言いながらキスをしてくるD。


私はニコニコだ笑




そして




セキュリティゲート前に移動する。


また同じ内容の繰り返しだ笑


また抱き合い別れの言葉をお互い伝え合う。


D「また来るから」


D「今度はデートしよ」


私「わかった笑」


周りにたくさんの人が居ても全く気にせず続く。


私はあまり気持ちを伝えるのは苦手だが、伝えたかった言葉があった。


しかし、言えなかった。


いや、言わなかった。


臆病なのだろう。


私は昔からそうだ。




本当にいざという時には言えるが、少なくとも私の今置かれている立場を考えたら1歩下がるのは当然だ。


と自分に言い聞かせる。


しかし本当にこれで良いのか?


と自問自答もしながら。



そして


彼女達は順番待ちに並ぶ。




私達見送り隊は少し離れた場所で笑顔で手を振る。


彼女達がこちらを振り返る度に手を振る。




彼女達が少し見えなくなって


私「もう逆方向に行っちゃいましたかね?」


L客「かもしれないね」


そんな会話をしながらまだ仕切りのガラスの前で彼女達がまた通るのを待ってみる。


私「あ、いましたよ」


彼女達は私達の見える通路を通り、乗り場に向かう。


彼女達もずっと手を振る。


私達も両手で最後見えなくなるまで手を振った。




行ってしまった。




私「行っちゃいましたね」


L客「うん、そうだね」







……。









さよなら







と心で呟いた。







この瞬間






私の心は揺れ動いた。


まるで心の臓をハンマーで殴られた様に……。




今までDと居た時には全く感じなかった感情が芽生えた。


なんとも言えない喪失感……。


とても悲しい。


泣きたくなるようなこの気持ち。

 



何故だ?




私は今ここで自分の感情にやっと気が付いたのだ。










私は恋をしていた。








Dの笑顔やイタズラ好きな所や、時折見せる素顔に惹き込まれていた。


勿論、好きだと言う感情はあったが、明確に恋をしていたと気が付いたのは今だ。


Dにしばらく会えない、もしくはもうずっと会えない可能性もあるとわかった今だから気付いたのだろう。


なんとも馬鹿な男だとつくづく思う。


今日からはDに会いたくても会いに行けない。


彼女はもう居ない。




そう……それは今だから言えるのだが、もっと隣で話したかった。


色々勘繰ったりして1歩下がったり、諦めようとしてLINEスルーしたり、気分転換にスナック行って悲しい思いしたり、今更後悔だ。




それがあっての今日ではあるのもわかってはいるが……。




しばらく無言が続く。




そして


私はL客と少し話をし別れを告げた。


彼とも、もしかしたらまた会うかもしれない。


彼女達が帰ってきたら。


その時はよろしくです。


お元気で。





私は駐車場に戻る事にした。




今は、悲しみしかない。


今は、喪失感しかない。


こんな気持ちになるなら来なければ良かったとも思える気持ちだ。


だけど、そんな遥か昔に失ってしまった気持ちを取り戻せたのはDとの出会いがあったからだ。




もう感じることは無かったであろう


あのトキメキと


この切なさを。




私は空港を後にした。


外は雨が降っている。


来た時よりも激しく降っていた。


まるで今の私の心の中の様だ……。







帰ろう。










Dには感謝している。




彼女は仕事で日本に来ている。


母国の大切な家族の為だ。


私に限らず客には連絡をするだろう。


彼女も必死だ、一生懸命にお金を稼がなければならない。




私も例外はなく客であろう。


特別とか、大切とか、大好きとか


どんな言葉を言われてのぼせてしまっても


今はあくまで客だ。


それ位はわかっている。


次、来日した時に客を繋いでおく為とか色々あるのだろう。


私が1番害のない客だから荷物を持ったり、LとL客とDという3名の構図を嫌がり2対2の数合わせて空港に呼んだのもあながち間違いでもないのかもしれない。


とてもひねくれているが、ハッキリ言ってそう考えた方が気持ちが楽だ。


割り切れる。


この短い期間でフィリピンパブについてたくさん知ってしまった事が私を更に臆病にさせる。


実際本当に彼女は私に好意があったのかもしれない。


私に対して嘘偽りの無い気持ちも少なからずあったのかもしれない。


しかし、そう思える程今の私はポジティブではない。


だが彼女の本心はわからない。


それは彼女にしかわからない。




でも私は彼女にありがとうと言いたい。


私の失ってしまった気持ちを再び呼び覚ましてくれた事を。







本当にありがとう。










ふと










そういえば初めてあの店飲みに行ったのいつ頃だったかなぁと振り返ると


私と彼女が出会ってたった1ヶ月と少し。




数えてみたら今日で39日目だった。




そして




このぷぅぷぅのDとの物語は、ひとまずその39で終了となる。




とても短かい時間だった。


しかしその短さが今はとても長くも感じる。


本当に。



















私は車に乗り、出発前にDにLINEをした。


もしかしたらこのLINEが最後になるかもしれない。


母国に帰れば連絡なんて来ないかもしれない。




だけど伝えたい。


だから伝えたい。


別れ際、本当は直接伝えたかった言葉だ。






私はスマホを取り出しメッセージを入れた。









私「Ottyokotyoi😆 気をつけて帰ってね。
居なくなると寂しいね」


私「I was too embarrassed to say it, but」


私「I love 〇〇〇 sweet smile」













と。





















第一章おしまい。