「Vermillion」の続き・・・薄暗い話がお嫌いな方は注意!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




今朝早く、カカシさんが、十班の子供たちと共に、暁討伐に出立した。

俺は、それを報告がてら、葬儀に顔を出せなかったアスマさんのお墓参りに木の葉の墓地に足を向けた。花を何か・・・と思ったが、まだ店も開いていない時間だった。代わりにといっては何だが、自販機でアスマさんの吸っていた銘柄のタバコを1つ、買った。花は後でまた、改めて供えるとしよう。

墓地に行くと、朝も早いのに人影が見えた。近づくと、それが紅さんだと分かった。紅さんも、俺の気配に気が付いたようだったが、あえて、振り向きはしなかった。

「おはようございます、紅さん」

何と話しかけたらよいか、一瞬躊躇したが、何も言わないのも気詰まりだろうと、挨拶だけをする。もう、散々周りから色々言われた事だろう。弔いの言葉も、慰めの言葉も。そして、今、何を言われてもきっと、紅さんの心を晴らすことはないだろう・・・。

「おはよう、イルカ先生、早いのね」

それでも、振り向いた紅さんは挨拶を返してくれて少しほっとした。葬儀の際は婚約者として気丈に振舞っていたと聞いたが、報せを聞いた時は、泣き崩れたとも聞いた。それからも、体調があまり優れないようで、5代目によく看て貰っているようだった。

「ええ、早いので、こんなお供えしかないのが申し訳ないのですが」
「ふふ、下手な花より、アイツはきっと喜ぶわ」

タバコを示すと、紅さんは少し、笑みを零す。紅さんの隣に立つと、俺はお墓にタバコをお供えして、手を合わせた。


そうして暫く瞑目していると、紅さんが言った。

「あの子達、行ったのね」
「・・・はい」
「カカシがついて行ってくれたのね」
「はい」
「・・・そう、それなら安心だわ」
「・・・そうですね」
「大丈夫よ、カカシなら。それに、シカマルが付いてる。あの子はアスマが一番目をかけてたのよ。あの子が同じ轍を踏むような真似、する訳ないわ」
「そうですね、シカマルは同期の中では、分析と戦術にかけてピカイチでした」
「・・・そうよね、シカマルはイルカ先生の教え子でもあったわね」
「はい。俺も大丈夫、だと思いますよ」

そう言うと、紅さんは少し俯いて言った。

「ホントはね、アタシが行きたかった。あの子達と。アイツの仇、とってやりたかった」
「紅さん・・・」
「こんな時、女って損ね」
「・・・」
「でもね、今、アタシが行っても、きっと玉砕覚悟しちゃうから、ダメね。アイツの事、追っかけちゃいそうで」
「!紅さん!」
「だからね、お前は来るなって、アイツがこの子をアタシに残してくれたのかなぁ・・・って」
「・・・!」
「そう・・・ね、そう、思うの・・・そう思う事にしたの・・・」
「紅さん・・・」

紅さんのお腹に、アスマさんとの子供が宿っている事は知っていた。最近それで里外任務には出ていなかったし、そろそろ本格的産休に入る事になると、受付でも任務調整をしていた。くのいちの妊娠には、報告義務がある。

紅さんに宿る愛しい男の残した命。

それが今、彼女をこの世に引き止めているのだろう。

もし。

もし、カカシさんが、帰ってこなかったら。

俺を引き止めるものは、あるのだろうか。

カカシさんを倒すほどの相手に、俺が討伐に向かう事なんてありえない。

俺は。


「カカシは大丈夫よ」
「!」

俺の考えを見透かしたような言葉をかけられ、目を見開く。

「ごめんなさい、アタシが変な事、言ったから」
「いえ、そんな事は・・・ありません。すみません。今、一番お辛いのは紅さんでしょうに・・・」

自分の狭量さに嫌悪すら感じる。

「辛いのは、皆、同じよ」
「・・・」
「シカマルがね、謝るのよ」
「・・・」
「あの子が悪い訳じゃない。あの子がダメだったのなら、木の葉の忍びで、誰が向かってもダメだったわ」

そう言える、紅さんは本当に強さを秘めた女性だと思う。

「でもね、あんまり謝られると、責めてしまいそうになるの・・・それがちょっと辛いわ」
「紅さん・・・」
「ホントはね、一番文句言ってやりたい奴がいるの」
「・・・?」

そういうと、紅さんは俺が供えたタバコを手に取った。

「イルカ先生、タバコ吸える?」
「え?・・・ええ、嗜む程度には・・・あまり吸いませんが」
「じゃ、ちょっとだけ、これ吸ってくれる?」
「え?俺が・・・ですか?」
「ちょっと・・・匂いを嗅ぎたいのよ。お願い」
「・・・お体に触りますよ?」
「大丈夫、煙は吸わないようにするから。ね、お願い。だって、自分で吸う訳にはいかないでしょ?」

そう、お願いされて、仕方なく。俺はタバコのパッケージを破ると一本取り出して、軽く吹かした。

「・・・そう、この匂い。アイツの、匂い」
「紅さん・・・」
「ホントにね、文句の1つも言いたいわ。こんなにいい女残して、こんなに早く、逝っちゃうなんて」
「・・・」
「オマケに、生まれてくる子供の顔も見ないでなんてね!ふざけるんじゃないわよ。1人でどうやって育ててけって言うのよ!」

俯いた紅さんの声が、どんどん荒く、嗚咽が交じっていく。

「子供には父親だって必要なんだから!這ってだって帰って来なさいよ!・・・根性ないんだから・・!」

とうとう、涙声になってしまった紅さんの顔は見えないが、地面にはポタポタと涙が滴り落ちていた。俺はタバコの火を消すと、ハンカチを取り出し紅さんに差し出した。「ありがと・・・」と受け取ると紅さんは暫く押し黙って、俯いた顔を上げなかった。

「全くね、涙なんて枯れ果てたと思ってたのに」

そういって、ようやく顔を上げた紅先生の目は赤くなってしまっていた。向こうに水道があったので、顔を洗う為に2人でそちらに向かう。

「生きてる限り、涙が枯れる事はありませんよ」

何となく、そう呟くと紅さんも「そうね・・・枯れないわね・・・」と頷いて、後は無言で歩いた。



水道で紅さんが顔を洗っている間、何となく空を見上げたら、キレイな朝日が地上を照らしていた。手をかざすと光が赤く透けて見えた。

赤。カカシさんの写輪眼の色のよう。

これはいのちのいろ。

「すっかり、日が昇ったのね」

いつの間にか傍に来ていた、紅さんも同じように眩しそうに太陽に手をかざす。

そういえば、この人の名も、いのちのいろ。

「イルカ先生」
「はい」
「今日は、ありがと」
「・・・いえ、俺は何も・・・」

そういうと、紅さんは何も言わず、笑って首を振った。俺もあえて、何も言わず、頷いた。

「そろそろ、いきましょうか」

「ええ」

すっかり明るくなった墓地を後にする。


あの太陽の下、カカシさんは戦いに身を投じているのだろうか。


もし、カカシさんが俺の元に、帰ってこなかったら。


俺の涙はきっと、枯れ尽くしてしまう事だろう。


カカシさん。


祈りを込めて、俺はまた、赤い光越しに太陽を眺めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
えーと・・・カカシさんが出てきませんでした。こんなんでもカカイル?
タイトルは「Vermillion」の歌詞から
Vermillion 僕らの中に静かに流れてるものは
Vermillion あの空より朱くはげしいものだよ