映画 「90歳 何がめでたい」(感想)※ネタバレあります、今からご覧になる方は要注意。

 

作家、佐藤愛子氏の大人気エッセイの映画化。原作は未読だが、主演が草笛光子さんと知り、劇場へダッシュ()。以前「老後の資金がありません」を観て以来、草笛さんの大ファンになった。今回の映画も素晴らしくパワフルで、見応えがあった。

頑固で勝ち気な90歳を美しくまた、可愛らしく演じることが出来るのは草笛さん以外にいないんじゃないかな。

数々の自作小説で賞を受賞し、人生最後の小説を書き終え隠遁生活に入った作家の佐藤愛子(以降、愛子)は、体に不自由さを感じながら塞ぎがちな毎日を送る。そんな彼女に近づいたのは、会社の皆から「パワハラ男」と嫌われている中年編集者、吉川真也。唐沢寿明さんが演じられている。えっ👀⁉️この人本当にあの唐沢さん?あの、「白い巨塔」で主人公財前を演じきったクールな二枚目の、、、。びっくりするほど老けこんで、髪も白髪で冴えないオジサンになってる。役者ってやっぱり凄い‼️唐沢さん演じる吉川は、妻にも子にも逃げられ、会社にも居場所がない。起死回生とばかりに愛子の自宅へ赴き、エッセイ連載話を持ちかける。この二人のやりとりがまた絶妙。まるで能狂言の掛け台詞のようにテンポも良いし、何より話を断りながら手土産だけはいつもちゃっかり受け取る愛子のゲンキンさが可愛い()。この勝負、結局吉川の粘り勝ちとなるが、執筆活動を再開したことにより、愛子の生活は徐々に活気を取り戻してゆく。世相について一刀両断する辛口エッセイはたちまち人気を呼び、書籍化されて爆発的な売れ行きに。愛子は一躍時の人となる。吉川も自分の仕事の株が上がりすっかり上機嫌。だが、長年連れ添った妻は、離婚を要求し、自身の会社まで設立。中学生の娘もまた、今まで母を蔑ろにしてきた父を許さなかった。踏んだり蹴ったりの吉川。その背中が寂しげでさすがに可哀想に見えた。対照的なのが愛子とその家族、娘の響子と孫の美優。なんやかんやで愛子は二人から愛されている。孫の美優とは毎年の行事の際コスプレごっこをして写真を撮り年賀状のネタにするほど大の仲良し😃🍒😃90歳の絢爛豪華な中世のお姫様コスプレ、そして同じく中世貴族のコスプレ姿の吉川、妄想の中で手を取り合う二人はまるで恋人同士。一緒にコスプレしようと愛子に誘われ、結構ですと狼狽える吉川、面白過ぎ()

会社に来ても情報収集と言いながらスマホばかりいじっている若い社員に、いきなり仕事を出し抜かれた吉川。今の時代、スマホがあればなんでも出来ると若い方々は思ってないかな?昔は情報収集にかける情熱が半端なくすごかった。皆が生きるために必死になって仕事をした。今はボタン一つでなんでも叶う時代になった。生活は豊かになったけれど人々の心は一生懸命に生きることをしなくなった、と愛子は自らのエッセイに綴る。吉川が汗と努力で勝ち取った愛子との執筆契約を、簡単に横からかっさらっていく若手社員の図々しさは、愛子が嘆く現代社会の様相を反映しているかのよう。

そんな折、体の不調を訴える愛子。病院嫌いが祟り、あるとき倒れてしまう。90歳という年齢である。体は綱渡り状態なのではないかとハラハラしながら観ていた。慌てて駆けつける吉川。この地点で二人の絆の深さを感じてしまう。愛子のエッセイにいつも涙し、勇気づけられてきた吉川。一命を取り留めた愛子を見て子どものように大喜びする。本当はすごく良い人間なんだよね、吉川。ただ、暑苦しいくらい一生懸命というだけで。

娘のバレエの舞台をこっそり観に来た吉川の横に、愛子が座る。「ちょっとバレエが観たくなったのよ」。本当は吉川が心配だからよね、愛子さん()。娘のバレエシーン、ただもう美しく、天使が舞っているかのよう。曲も綺麗。自分の知らないところで、これほどまで成長していた娘の姿を見て、吉川の頬を涙がつたう。

ロビーで、妻の麻里子と顔を合わせ、吉川は「すまなかった。もう一度やり直そう」と告げる。そんな夫に吹っ切れたように笑うと麻里子は、「無理よ。あなたのことが嫌いなの」と即答。酷な場面だが、二人はなんだかこれからも良い友達としてやっていけそう。麻里子は、「あなたが担当している、佐藤愛子先生の本を読んだ。先生が背中を押してくれた。」と告げて去る。元夫の仕事をこれからも影ながら応援していくよという、彼女なりのエールなのかもしれない。ある意味これも、ハッピーエンドと言えるのかな?

著書ベストセラー記念記者会見で、愛子は、「彼に救われた」と初めて吉川の功績をたたえる。良かったー。吉川の苦労(差し入れの数々)もこれでようやく報われる()

エンドロールは、若かりしころの佐藤愛子氏の写真から、お孫さんとのコスプレツーショットなど思い出の写真が次々画面を飾り、最後まで楽しませてくれた。

2023年の時点で、佐藤愛子氏は御年100歳になられた。まだまだ大活躍中の売れっ子作家さんだ。46歳の私も負けていられない。