映画 「かもめ食堂」。もう何十回と観ています。それほどに愛している映画です。それなのに、まだ感想を記していなかった。不覚です()



以下、ネタバレありの感想、つづってゆきます。



フィンランドのヘルシンキで「かもめ食堂」という名前の食堂を営んでいる、主人公、サチエ。面白いことに名字は不明。この作品にとって不必要な情報なんでしょう。どこぞの者とも知れない素性の曖昧さがかえって素朴でいい。



メニューにあるのは、日本の食堂によくあるような、家庭料理。



通りすがりの人々が窓ごしに彼女を見て「随分小さい、まるで子どもだわ」とコソコソ囁きます。でも、かもめ食堂に立ち寄る人はまだ誰もいません。それでも



爽やかな顔で客を待つサチエ、清々しいです。



そこへ、日本のアニメキャラクターのTシャツを身につけたフィンランド人の青年が初めて店にやってくるのです。日本かぶれのこの青年、日本語もとても上手。サチエは、彼から「ガッチャマンのうた」について尋ねられ、歌詞が思い出せず悶々とします。



「♪誰だ、誰だ、誰だ~‼️・・・」



で、その次は?(歌詞がでてこず)



ほんと、誰だ、それ()



なにげに立ち寄った本屋さんで、サチエは、ムーミンの本を読んでいる日本人らしい大柄な女性を見つけます。片桐はいりさん演じる「ミドリ」さん、初登場場面です。はいりさんの存在感が凄すぎる。どこにいても高い建物のようにすぐ目に付いてしまいます。



サチエは、ミドリにガッチャマンの歌を教えてくれと願い出ます。ミドリは、手持ちの紙にスラスラと歌詞を書きます。いつしか声を揃えて最後まで歌いあげる二人。周りの人々の訝しげな眼差しが笑えました()



サチエは、お礼にミドリを自宅に招き、食事をご馳走し一晩部屋を貸します。かもめ食堂の、「誰もがふらりと気楽に立ち寄れる食堂」というコンセプトと、メインメニューが日本のソウルフード、おにぎりであることを聞いたミドリは、のちに店を手伝いたいと申し出ます。ミドリさん、、ビザは大丈夫なんだろうか。滞在期間て、どうなってるんだろう。気になるところですが。



またしても、店にやってきた日本かぶれのフィンランド青年。ミドリに漢字で名前を書いて欲しいと頼みます。彼の名は、トンミ・ヒルトネン。ミドリは、「豚身昼斗念」と紙に書いて手渡します。なんだか食べ物の名前みたい()



ちっとも客が来ない店の状況に痺れをきらしたミドリは、サチエに店に出すおにぎりの改良を提案します。市場で購入したザリガニ、ニシンなどの具材で試しますが、味はいまいちで残念な結果に。サチエは、「やっぱり、おにぎりの具は、梅、鮭、おかかだと思います」と言いきります。夜、合気道の技でストレッチ中の二人。突然、サチエはミドリに「明日シナモンロールを作ろう」と呼びかけます。翌日、二人はせっせとシナモンロールを焼きます。その美味しそうな香りは店の外まで漂います。匂いに釣られた三人の婦人たちが遂に店を訪れました。シナモンロールとコーヒーを注文します。集客大成功!このくだり、まるで絵本のようにファンタスティックです。



しかし、ある時店のガラス越しにこちらを睨む中年女性が現れます。同時に現れたもうひとりの眼鏡姿の女性。彼女は店内に入ってきます。四人目の主要人物、マサコです。旅行鞄を紛失して困っていると、マサコはサチエたちに告げます。時間をもて余すマサコに、トンミが森へ行くことを薦めます。森でたっぷりキノコ狩りを楽しんだマサコは、気持ちを切り替え新しい服を買って再びかもめ食堂を訪れます。清々しい顔のマサコさん、初めのどんよりとした表情が嘘のよう。



フィンランドならではのカラフルな服装もよく似合っています。



一方、店の前に頻繁に訪れこちらを睨んでいた中年女性がヅカヅカと店内へ入って来ました。どうやらひどく酔っている様子。その女性は、サチエにコスケンコルヴァというアルコール度数の強い現地の酒を注文します。女性は、更にサチエに杯を勧めますが、サチエは断り、代わりにマサコが杯を受け取ります。マサコはお酒に強いようです。女性は二杯目を飲み干すと、途端に倒れてしまいます。トンミに助けてもらいながら、彼女を家まで運んだサチエらは、そこで彼女の旦那が家を出て行ってしまったことを聞かされます。フィンランド人はおおらかで明るいイメージがあったが、どこにいても寂しい人は寂しいんですね、と言うミドリの言葉が印象的です。



マサコの紛失していた旅行鞄が見つかりましたが、中は何故か森で狩った金色のキノコで溢れていました。これ、どういう意味なんだろう。大切なものが変わったということかな。



結局、マサコもかもめ食堂を手伝う流れに。理由は、港で通りすがりの男から猫を受け取り、帰れなくなったからと。(だから、ビザの関係は?)。酒にぶっ倒れた中年女性もいつの間にか知り合いとなり、休日には、4人仲良くリゾートカフェで寛いでお喋り()



その帰り、かもめ食堂に泥棒が入っいることに気付き、サチエは勇敢にも合気道の技で泥棒を取り押さえます。しかし、この泥棒、先日店に来て、サチエに美味しいコーヒーの淹れ方を教えた男だったのです。男は、以前はコーヒー店のオーナーで、かもめ食堂と同じ場所に店を構えていました。しかし、店が潰れたあと、愛用のコーヒーメーカーを置いたままにしていたことを悔いて、密かにそれを持ち帰ろうとしていたのでした。サチエは、泥棒を許し、皆におにぎりを振る舞います。優しい場面です。観ていて心が温かくなりました。



かもめ食堂は今や大繁盛、客がひっきりなしにやって来てもはや満席状態です。ラストはサチエの「いらっしゃい‼️」という爽やかな掛け声で終わります。演じる小林聡美さんの個性がキラリと光るとても明るい終わり方です。



かもめ食堂は全編通して、あまり起伏を感じない映画ではありますが、日常のちょっとした出来事にスポットが当てられ、主人公たちの丁寧かつシンプルな生き方が追体験できる面白い中身になっていると思います。馴染みの喫茶店に立ち寄るかのように、ふらりと観たくなる映画です。