(実況⑧よりつづき)
2月4日
14時~
猫魔はしばらくぐったりと休憩した後、椿と楓を呼び、昨日もらってきたF中学のパンフレットを取り出して見せた。
猫魔:F中学はこんな学校だよ、見てみてごらん。クラブ活動は何があるかなあ~。
今日、受けたB中学が合格しているかは分からない。猫魔は不合格だったときのことを想定し、椿と楓にF中学に興味を持ってもらうべく、いろいろと話しかけた。
B中学が届かないレベルだとは全然思わない。
ただ、2日の午後に、B中学よりも安全校だと思っていたD中学に落ちたことが、猫魔に自信を失わせていた。
今日のB中学のほうが、D中学よりも偏差値的にも倍率的にも厳しいのだ。倍率なんて比べ物にならないくらい高い。
たとえ、椿と楓が健闘して良い点をとったとしても、受験生の中に上位層が流れ込んできて、もっと上の点数を取る人が多くいれば、椿と楓ははじき出されてしまうのだ。
今日のB中学の試験は、ほとんどが落ちる。受かるのは限られた人数だけだ。
椿と楓が、他の受験生を上回る高得点をとり、そのような少数の合格者の中に入れるのか。
考えれば考えるほど、心臓が痛くなった。今度こそ、猫魔の心臓はぶっ壊れてしまうのではないか
あの、グレー画面を見るたびにダメージを受けて、猫魔のライフゲージが減ってきているかんじがして、次が致命的な一撃になる気がする。
椿は、猫魔が渡したパンフレットを広げて、じ~っと見ていた。
その様子を見ていると、猫魔は「もしかして、F中学に行くことも考えているのかな」と思った。
椿は、日能研で、ギリギリとはいえ、Mクラス(応用クラス)で頑張ってきており、本来、F中学レベルの学校に行くような成績ではなかったことを思うと、猫魔は素直にパンフレットを見ている椿がいじらしかった。
他方、パンフレットをちらっと見ただけで、興味なさそうに遊び始めた楓
猫魔は、楓だけを「こっちに来なさい」と呼んだ。
これまでの成績から見て、B中学に落ちるなら、楓のほうだ。先に、楓に言っておきたいことがあった。
猫魔:かえで。今日のB中学の入試、もし、不合格なら、F中学に行くことになるんだよ。もし、椿が合格していて、楓が不合格だった場合は、椿はB中学に行かせて、楓はF中学になるから、バラバラになるからね。
楓は、少し眉間にしわを寄せた顔で、黙って猫魔の顔を見ていた。
パパが、「なにも、今、そんなことを言わなくても。。。」と猫魔をたしなめてきたが、猫魔としては、事前に地ならし的に言っておく必要があると思った。
猫魔は、「もちろん、逆になった場合でもそうだよ。」と言って、楓を解放した。
夜に合格発表を見て、楓がダメだった場合に、その衝撃の直後に本人に結果を通告するのは辛すぎると思った。それくらいならば、先に言っておいて覚悟しておいたほうが、精神的にマシだった。
B中学の合格発表は18時だ。
実は、猫魔は18~19時まで外せない用事があり、17時15分くらいには外出しなければいけなかった。また、その用事の最中は、一切スマホを触ることはできない。
つまり、結果は19時以降でないと見ることができないのだ。
猫魔:今日、用事あるから、18時ちょうどには見れないからね。
パパ:え~・・・!? そんな、、、すぐに見てくれないの? 見てよ!
猫魔:別に、いーじゃん。1時間くらい見るの遅れたって。帰る途中に結果を確認して、パパにはメールするから。
猫魔はそう言って、パパのほうを見ないようにした。
用事があるのは本当だった。その間、スマホを見れないのも本当だ。
これまでの試験だったら、結果を一刻も早く見たかった。1時間も遅れて見るなんて、耐えられないはずだった。
でも、、、今回は。。。。
早く見たくなかった。
結果を見るまでは、希望を持っていられる。でも、見てしまったら、夢が終わってしまうのだ。
永遠に、18時が来なくてもいい。
そんな気持ちだった。
だから、用事があっても、それを邪魔に思うことなく、パパに「すぐに見れないのは仕方がないでしょ」と言い張ったのだ。
・・・・・・・・
17時
猫魔は外出の準備をし始めた。
そのとき、スマホで、B中学の合格発表サイトの場所だけ確認した。
すると、、、「17時02分」の表示とともに結果が出ているのが見えた。
合格発表の押しボタンが現れている。
えっ!!
結果、もう出ているの??
猫魔の心臓が急に早鐘を打ち始めた。
カーン!カーン!カーン!カーン!
合格発表予定は18時だったのに、採点が早く終わったのか、1時間も早く結果がアップされたようだ。
もう家を出ようと思っていたのに、なんでその前に結果が出ちゃってるかな!?
見るの間に合ってしまったじゃん!!!
油断していたから、心の準備ができていない。
でも、結果が出ているのに見ないわけにはいかない。
外出の時間もある。
猫魔は覚悟を決めて、結果を確認することにした。
パパは結果が出ていることを知らない。
猫魔は、すでに結果がアップされている事実をパパに言うのはやめた。
不合格だったとしても、それは、猫魔が最初に一人で確認したかった。
椿と楓の受験は、受ける入試の選定・順番も何から何まで猫魔の責任で決めたのだ。
辛い事実だったとしても、気が狂いそうになったとしても、心臓がぶっ壊れてしまっても、猫魔が一人でぐっと受け止めたい。
人に伝えるのは、その後だ。衝撃が少ないように、猫魔がうまくコントロールするのだ。
猫魔は、スーッ ハーッッッと、2、3度、大きく深呼吸した。
よし! 見るぞ!!
合格発表サイトの「結果」ボタンを押し、ログイン画面を呼び出す。
まずは、椿だ。
椿の受験番号を入力。
そして、パスワードを入力。
ハーッ、ハーッ、ハーッ
猫魔は、心臓のバクバク度合いに、過呼吸状態になりながら、結果を見るのを遠ざけるように目を細めて、
そして、、、思い切って押した・・・!
思わずつぶってしまった目を開けると、、、
パッと、ピンクの画面が広がった。。。
「あなたは、2023年度本校入学試験に合格されました」
猫魔:お・・・
猫魔は、叫びそうになるのを手で押さえた。
目が熱くなって、涙がこみあげてくる。
椿! 椿! 椿!!!
おまえ、やったぞ!! やったんだぞ!!!
猫魔は、まだ、信じられなくて、天を仰いだ。神様!!
これで、首の皮が一枚つながった! 夢はまだ続いているのだ!
次は、楓の番だ。
これで、楓がダメだったらどうしよう。。。
椿の合格で喜んだものの、また、猫魔はすぐに沈痛な面持ちに戻った。
これで、もし、楓がダメだったら。。。
これまでの不合格は、全部、二人とも一緒だった。片方だけ割れたことはなかった。
二人ともだったから、どちらか一方を気遣うことなく受け止めることができた。
でも、この最後の最後の、大事な志望校で、楓だけが不合格だったら・・・!
神様、お願いです!! そんな非情なことはやめてください!!
楓をそんな目に合わせないでください。お願いだ!!! お願い!!
猫魔は、心の中で叫んでいた。
ハーッ、ハーッ、ハーッ
さっき以上に、心臓のバクバク度合いが激しくなる。手の震えもひどい。
よし! 見るぞ!!
楓の受験番号を入力。
そして、パスワードを入力しようとする。
手が震えすぎて、なかなかうまく打てない。
この学校のパスワードは生年月日ではなく、長いアルファベットなのだ。
震える手で、なんとかパスワードを入力する。
目をつぶって、、、そして、押せ!!!
「パスワードが違います」
猫魔:えっっ
手が震えて、パスワードを打ち間違えたようだ。
猫魔は、結果が見れなかったことに、心の中では一瞬安堵しつつも、もう一度、パスワードを打ち直した。
今度こそ、行くぞ!! 押せ!!
「パスワードが違います」
猫魔:あれっ? また、間違えちゃったな。。。は~っっっ。。。
猫魔は、心臓が口から出そうな気分になりながら、また、震える手でパスワードを入力し直した。
今度こそ!! 押すぞ!!
「パスワードが違います」
猫魔:・・・
結果を見たくないと思っていた猫魔も、さすがに、3回もパスワード間違いで、ログインできないことにイライラし始めた。
何やってんだ!! 3回も間違えてしまったじゃないか!
次こそ、きちんと入力するぞ。
もう逃げない。
猫魔は、今度は絶対に間違えないように、1文字1文字、慎重に入力した。
今度は間違えていないはずだ。
大きく深呼吸した。これが本当に最後だ。
神様!! お願いします!! どうかお願いします!!
どうか二人をそろえてください!! お願いします!!!
楓!!!
押した・・・!!
パッと切り替わる画面。。。
思わず、目をつぶった。
そして、、、
国境の長いトンネルを抜けると、、、、、(そこは)
ゆ・・・・・
一面のピンクだった。。。
「あなたは、2023年度本校入学試験に合格されました」
猫魔:ああ・・・!
本当なのか・・・かえでっっ あの楓が!!! 楓も・・・!!!
今度こそ、涙があふれた。
(実況⑩ 2月4日夜 日能研への電話 につづく)