(実況⑥よりつづき)
2月4日 朝
東京入試開始から4日目。
昨晩もあまり眠れなかった猫魔は、連日の睡眠不足と一秒も気の抜けない緊張の連続で、疲労が色濃くなり、立っていてもフラ~ッとしてくる状態。頭もガンガンして、気持ちが悪い
でも、ここで倒れこむわけにはいかない。
今日は、第二志望のB中学の最後の入試なのだ。
今日の試験が終わるまでは、なんとか気力を持たせて、乗り切らなければいけない
6時 椿と楓を起こす。
まずは、昨晩のF中学の合格を伝えてあげたい。
猫魔:おはよう! つばき! かえで! 昨日のF中学、二人とも合格だったよ!!おめでとう!!
:へ~。(テンションフツー)
猫魔:S先生も、F中学はE中学よりも難しいのによくやった!って言ってたよ!(必死で盛り上げ発言)
楓:だって、簡単だったもん。
猫魔:そんなことないよ!倍率6倍だったんだよ!ほとんど落ちているんだよ!300人以上受けて、上位50人以内に入ったってことだよ!
楓:この学校、そんなに偏差値高くないんでしょ。たぶん、楓と同じくらいの人も半分は受けているかもしれないけど、半分は下の人が受けているんじゃないかと思うよ。F中学に向かっているとき、「絶対負けるわけない!」って思ってたもん。
猫魔:へ~、そんな気持ちで歩いてたんだ ノーテンキな楓にもそんなプライドがあったんだね 全くないと思っていたよ。。。椿もよく頑張ったね!
椿:F中学の試験のとき、たまたま、楓と別の教室だったから、集中できたんだよ~。
猫魔:え、どういうこと
椿:二人で教室に行ったら、ちょうど、楓が入ったところで席がいっぱいになってしまったから、楓と別の教室になったの。楓が近くにいると、気がゆるんじゃうんだけど、楓がいなかったから、試験に集中できた!
猫魔:なんだと?マジか?
椿は何気なく言ったつもりだったらしいが、それを聞いた猫魔は激怒
楓と同じ部屋だったら、集中できていなかったってことなのか??
これまで受験してきた学校は、先着順の席だった。椿と楓は、いつも二人一緒に入っていったから、前と後ろの席に座っていたことが多かったはずだ。
仮に、そんなことが試験ができなかった一因になっていたんだとしたら、許せない話である
たった一度の試験機会をなんだと思ってるんだ!と怒りが収まらない。
これまでの心労も相まって、猫魔の怒りは沸点に
猫魔:もし、それが本当なら、今日のB中学の試験、別々に行け!! 10分以上、差をあけて入れ!! 今日、集中しなかったら、許さないぞ!!
:や、今日のB中学は、もちろんちゃんと頑張るよ
猫魔の頭はしばらく沸騰していたが、だんだん落ち着いてきたので、「まったく、あ~あ」と思いながらも、平静に戻り、話を変えた。
猫魔:とにかく、F中学が合格できたのはよかった。E中学とF中学、どっちが気に入っているとかある?
:特にないよ。どっちも別に。違いが分からない。どっちでもいいよ。
楓:あ、でも、楓は、F中学、なんかヤダな~。。。
猫魔:え、どんなとこが?
楓:昨日、校舎内を歩いてたら、廊下せまいし、地味っていうか、暗いっていうか、古いかんじで、なんかイヤだった。E中学も狭いんだけど、E中学のほうがキレイだったよ。
猫魔:え、そうなの?
猫魔の中では、もし、今日受けるB中学がダメだったら、F中学>E中学だったため、それなのに、楓がF中学の校舎が嫌だと感じていると知って、必死でF中学のフォローをした。
猫魔:地味とか暗いっていうけど、F中学は午後受験だったし、もう外は薄暗くなっていたから、暗く見えただけじゃないの!? ママは、中をあまり見てないから分からないけど、、、F中学のほうがいいと思ってる。F中学は都心で近いから、E中学に行くよりも、朝、遅くまで寝ていられるよ! 偏差値だってF中学>E中学だし、伝統校としての格も上だし、人気あるし、指定校推薦で早慶にも行けるんだよ!(←必死でフォロー)
パパ:ママの言うとおりだ。F中学のほうがいい。(←自分の職場に近いF中学にしたいだけ)
楓:え~、F中学なら、KOに行けるの~?
猫魔&パパ:そうだよ!(←声を合わせて、F中学アゲを力説)
猫魔:まあ、それは置いといて、今日の午前のB中学の試験は4教科だよ。B中学の過去問はやったことあるから、かんじはわかるだろうけど、しばらく離れていたし、もう一度ざっと見ていこう!
猫魔は、B中学の赤本を広げて、「こんなかんじだよ」と、各科目の問題数、配点、時間を説明して、思い出させるようにした。
やっぱり、E中学やF中学のように問題が少な目だったのとは違って、やっといつもの試験問題数に戻るかんじだ。
猫魔は、B中学の後の受験継続をどうするかについて、椿と楓の意向を聞くことにした。4日午後は、入試がある学校はほとんどない。椿や楓が受けようかな、と思うような学校は皆無だった。
考えるなら、5日についてだ。
5日は、再び、それなりの学校の入試機会がいくつかは出てくるが、狙ってた学校でもないし、猫魔としても、あまり積極的に食指は動かなかった。でも、B中学がとれなかった場合は、もう1回だけ、上を狙って受けてみてほしいな~、という気持ちがないでもなかった。
猫魔:B中学の試験のあとは、まだ、別の学校を受けてくれたりする?
楓:午後は絶対ヤダ!もう疲れたよ~。
猫魔:午後はなしでいいよ。5日はどうする?(偏差値表を見せて)こういう学校が残っているよ。
楓:もう、そんなとこ受けたくない。早く遊びたいよ~!
猫魔:つばきは?
椿:・・・(黙秘)
椿と楓も、4日目に入ってクタクタになり、もう終わりにしたいようだった。
猫魔自身も疲労困憊だったので、目指してた学校でもないのに、明日も受験を続ける気力はほとんど残っていなかった。
猫魔:分かったよ!じゃあ、今日の午前のB中学で終わりにしよう。その代わり、これが最後と思って全力を尽くすんだ!絶対だぞ!!
:今日のB中学は、もちろん、がんばるよ!!
椿と楓に力強く誓わせてから、B中学に向けて出発した。
向かう途中、楓は、電車の中で、ずっと、付箋だらけの「ザ・楓作・黒いノート」を見続けていた。
楓は、12月以降、4教科問わず、問題集やテストでできなかったところに出くわすたびに、ポケットサイズの黒いノートに書きためていた。できなかった国語の漢字や算数の解法も書いてあるが、社会と理科が圧倒的に多く書かれている。
12月にもなって、楓がそのノートを作り出したときは、いったん、猫魔は「やめろ」と注意喚起した。
猫魔:もう12月なのに、そんなノート作りに時間をかけている場合か!そういうものに力をかけて時間切れになる失敗例を知っているよ。失敗する典型パターンだ。きれいにノートを作ったってしょうがないんだよ!
楓:楓は、これに書かないと覚えられないの!
猫魔:それ、科目別でもないし、なんでもかんでもランダムに書いているじゃん。そんなんで、どこに何が書いてあるか分かるの?
楓:楓は分かるよ。付箋だって貼っているし。
猫魔:やめたほうがいいと思うけどな~。。。
楓:楓はこれでないと覚えられないんだから、好きなようにさせてよ!
猫魔:わかったよ。でも、時間かけすぎないでよ!
楓が、どうしてもこのやり方でやりたいと言うので、任せることにした。
確かに、楓は物覚えがよくないので、本人が覚えやすいようにさせよう、と思ったためだ。
椿なら、漢字でも社会の年号や用語でも、1回覚えたらほとんど忘れないが、楓は覚えさせても忘れるし、とんでもない漢字を書いたりするので大変なのだ。
でも、このポケットサイズの黒いノートは、楓の努力の結晶らしく、どこに行くにもオーバーコートのポケットに入れて、バスの移動時間など、スキマ時間があれば見て覚えるようにしていたらしい。この黒いノートはポータブル用として、それなりに活用できたようだった。
椿も楓も、B中学への車中、思い思いに、自分の弱点箇所について最後の復習を続けていた。
目がマジだった。
E中学とF中学の受験のときには見られなかった態度である。
B中学の試験には全力で臨むらしいな、という気持ちが感じられた。
今日の試験は、猛烈、倍率が高い回である。
受かってほしいと痛切に願うものの、倍率が非常に高く狭き門であることから、ダメかもしれない、特に楓には厳しいかもしれない、という気持ちも大きかった。
期待半分、恐れ半分。
そんな気持ちに揺れつつ、歩いていたら、B中学が見えてきた。
B中学を見上げる。
ここまでやってきた。本当にこれが最後だ。
B中学との縁ができるか、縁がこれきりでなくなるか。
今日の戦いで決まる。
猫魔は、校門の前で、二人に最後の激励をした。
猫魔:さあ、じゃあ、頑張っておいで!!
:わかった
そう言って、椿と楓は、背中を見せて、堂々と試験会場に入っていった
これから、長い一日が始まる。
(実況⑧ 2月4日(B中学試験開始~) につづく)