ドナルド・ダック・ダンという名のベーシストがいる。10年前に亡くなっているので、「いた」と書くほうが文法的には正しいのかもしれないけれど、彼の演奏は今でも多くのベース弾きがそのベースラインをコピーしたり、フレーズをいただいたりしているので音楽的には今でもいる(とぼくは考える)。

 金髪でサングラスをかけて、ネックをむんずと握って、跳ねるような指さばきで弾く演奏姿は、ドナルド・ダックに似ているとも、似ていないともいえるけれど、「ダック」というのはニックネームらしい。

 ドナルド・ダック・ダンの演奏が聴きたいばかりに、映画「ブルース・ブラザース」を観た。ぼくはソウルやファンクと呼ばれるジャンルの音楽はなんとなく苦手で、この歳までどちらかというと避けてきたきらいがある。しかし、オンラインではあるけれど、ベースという楽器をしっかりと教えてくれるレッスンに出会い、そこで「September」だとか、「isn't she lovely」のベースラインを教材として提供を受け、一曲をひと月かけて弾き続けていると、ソウルだとかファンクが、なんとも心地よい音楽に聴こえてきだしたのである。

 そんなわけで「ブルース・ブラザース」を観た。映画としてのストーリーは共感したり、笑えたり、感動したりするようなものではなかったけれど、ドナルド・ダック・ダンをはじめとして、アレサ・フランクリン、ジェームス・ブラウンと、ソウル、ファンクの大御所本人がバンドメンバーとして登場し演奏しているシーンは、圧巻としか言いようがなかった。ソウルってこんなに魂を揺さぶる音楽なのかと、還暦を過ぎたこの歳になって初めて知ったわけである。

 なんで今頃になってと思いながらも、なぜだろうと考えてみたところ、自分なりの結論をみつけた。それは、たぶん、どの楽器の音でその音楽を聴くかによって、魂の揺さぶられる部分が違っているんだろうということだ。ギターの音を追いかけるか、ドラムの音を追いかけるか、ピアノの音、シンセサイザーの音、サックスの音、ベースの音、なんとなくそんな気がする。