自分が好きなミュージシャンが辿ってきた音楽作品との出会い、所謂彼らのルーツミュージックを知ることは殊の外楽しいものだ。


それらを知り、その作品を探し、そして手に取り聴いてみる。中には自分の好みじゃないものもあるが、気に入ったものに出会えたときは更に他の作品も聴いてみたり、楽しみは倍速以上のスピードで拡がっていく。

ただ、自分の好きなミュージシャンのルーツミュージックを知る機会は案外少ない。ひと昔前であれば雑誌のインタビューで語っているものを拾い上げたり、今であればインスタなんかのSNSで呟いてるものを見つけてみたり。

たまにロック雑誌でミュージシャンのフェイバリットソングなんてのを特集したりしていることがあるが、その中に自分の好きなミュージシャンが登場する確率はかなり低い。

だから、そんなものをひとまとめにした書籍なんかが発売されると当然ながら飛びつくことになる。最近だと、すでに鬼籍に入ってしまった鮎川誠氏の「’60sロック自伝」というところか。


この作品は自伝という形をとりながら60年代に彼が出会ったミュージシャンやロック作品をその出会いにまつわる出来事なんかと共に語った渾身の書籍。後半にフェイバリットシングルとフェイバリットアルバムがそれぞれ100作品紹介されているところがなんとも嬉しい限り。


で、この春、日本を代表するモッズバンド ザ・コレクターズのギタリスト古市コータロー氏のフェイバリットソング、フェイバリットアルバムを紹介するHeroes In My Lifeという書籍が刊行された。


書籍のサイズが通常の書籍サイズではなく、シングルレコード(EP盤)と同サイズってのがレコード好きの心をくすぐる。

構成は「ROOTS/ルーツを紐解く」、「OVERSEA/海外名盤」、「DOMESTIC/国内名盤」、「TREASURE/大切なもの」の4章立てで、海外名盤が占める割合が多い。


意外だったのはモッズ作品に割いてる頁が予想以上に少なかったことだが、これはモッズ作品についてはこれまでいろいろなところで多く語ってきたからなのか、彼のルーツミュージックの中におけるモッズ作品の占める割合がそう多くないからなのか。それはこの書籍を読んだ者それぞれがそれぞれの視点で解釈すればいいことだろう。


それにしてもこの本を読み進めていくと、彼の触れてきた音楽作品の幅の広さに感嘆するばかり。
コータロー氏は自分と同年代なので歌謡曲やキャロル、パンクロックが登場することを想像することは容易だが、ソウル・ディスコ、AOR、シティ・ポップ、ロックミュージシャンは敢えて紹介することを避けている感があるベイシティローラーズにバスターまで臆面もなく自分の通ってきた音楽作品として紹介するところ辺りは、彼の懐の深さというところか。


また、この本はそこら辺のロック評論家が出版するライナーノーツ本なんかと違って小難しい言葉や解釈なんてものは登場せず、平易な言葉で語られるところに好感が持てる。この辺りは、もう随分と遠い昔にパンクロック雑誌DOLLの編集長を勤めた森脇美貴夫氏が刊行した「レコードできくイギリスのパンク/ニューウェイヴ史」に近いものがあるかも。


いすれにしてもコータロー氏が紹介する音楽作品の数々は、自分が未聴のものはどれも聴いてみたくなるほどにロック好きには愉しめる書籍であることは間違いないし、今まで避けていたジャンルの音楽にも手を伸ばしてみようかなんて思える機会が訪れることだろう。事実、自分はAORコーナーで大きく紹介されていたエアプレイのロマンティック(原題Airplay)というアルバムをサブスクで聴いてみてすっかりお気に入りになってしまったし。(今度レコード見つけたら買っちゃうこと間違いなし)



最近の自分のブログが当初の思惑から外れてロック以外の話題に偏りがちになってきたこともあり、この本を読み進めていくうちにもう少し自分の出会ってきたロック作品を紹介していくことにしようかなんてことも思ってみたりと、久しぶりに愉しい気分になった音楽本との出会いでした。 


ちなみに自分は発売日から遅れて手元に届くこと覚悟で、ちゃっかりタワレコオンラインのサイン付きを注文しちゃったり。


今週も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。