デビュー後順調に売り出されメディアの露出も多かったARBが方向性の違いから大手事務所を飛び出したのはデビューから僅か1年足らずの出来事。
メンバーも2人抜け、石橋凌、田中一郎、キースの3名となりベース不在のままレコーディングされたシングル魂こがしては、そんな状況が歌詞にも色濃く表れている。

スポットライトは孤独を映し
色褪せた場面にピリオドを打つ
片道切符を二枚手に入れ
喜びと悲しみの停車場に立つ

家も町も遠く離れて
一人道を走る
ボクサーのように闇切り開け
魂こがして

この名曲リリース後にベーシストのサンジを迎え入れリリースしたのがセカンドアルバムのBAD NEWSだ。

ファーストアルバムでも垣間見えていたロックバンドとしての襟懐が一気に開花したと言っていい名盤。


キーボードが抜け楽器陣がギター、ベース、ドラムの3ピースとなったにも関わらずよりパワフルに感じるのは、それぞれのパートがソリッドさを増したからによるものなのか、鬼気迫るメンバーの気迫からくるものなのか、アルバム帯に書かれているとおりの贅肉を削ぎ落した強力なノリのサウンドとなっている。

ファーストアルバムとこのセカンドアルバムの決定的な違い何なのか?

作家でありパンク歌手(?)の町田康が「私の文学史」で語る小説と随筆の違いがこれに当てはまる気がしてならない。

町田は小説と随筆の違いを歌謡曲とロックの違いに照らし合わせて語っている。歌謡曲(小説)は役を演じることであり、ロック(随筆)は素であると。

これを読んだ時すぐに頭を過ぎったのがARBのファーストとセカンドのことであったのだ。
ARBのファーストは歌謡曲とまでは言わないが、売れ線を狙う事務所側の意向が働いたことでメンバーはその役を演じざるを得なくなったことでどこか中途半端な仕上がりなったのに比べ、そんな事務所と対立、独立して自分たちの思い描くロックを創り出そうとの思いで制作されたセカンドは彼らの素の部分がそのままストレートに反映されたアルバムとなったのではないだろうか。

そんな中途半端なファーストアルバム(特にデビューシングルの野良犬)も案外気に入ってはいるのだが。

高校に進学し、遅すぎるくらいの反抗的な思いが芽生え始めパンクロックに傾倒しかかっていた当時の自分に、彼らの素が目一杯詰まったセカンドアルバムBAD NEWSがうまくハマったのは必然であろう。
出会うべき時期に出会うべくして出会ったアルバムは、40年以上経った現在も自分の中では全く色褪せないリアルな一枚のままだ。

男女のストーリーが歌われる曲が多いのは、所謂パンクロックバンドと一線を画すところだろうが、アルバムタイトル曲のBAD NEWSは迫りくるXデイを歌ったモノとも言われたりもして、この辺りにはその後社会派バンドと呼ばれる萌芽がすでに伺えるところだ。

コアなファンには敬遠されているアルバムラストナンバーで曲中にちょっとクサイ台詞が挟まれる「鏡の中のナイフ」も結構気に入ってたり

アルバム3曲目のTokyo Cityは風だらけはライブバージョンとなっているが、シングル魂こがしてのB面に収録されている曲の途中でスパッと終わってしまうスタジオバージョンだったら更にアルバムに統一感があったのではと思ってしまったり

この時期の4人でバンドが続いていたらどんなバンドになっていたのだろうかと想像するのは一ファンの戯言というこで許してください。


いずれにしてもARBの一枚は?と聞かれたら迷うことなくこのBAD NEWSを選ぶのは、サウンドの完成度以上に当時のメンバーの熱が直情的に伝わるアルバムだったからなのだろう。
大手事務所を飛び出したにも関わらずロッキンfのアルバムレビューでは堂々巻頭の1ページが割かれたのも彼らの熱が雑誌の編集部を突き動かしたからに違いない。


11月にはバンド休止後も一人ARBを背負い続けるキースが佐々木モトアキとのライブで札幌に訪れるとのことなので、恵比寿リッキドルームでのARB最終ライブ以来のキースのプレイを楽しんでこよう。当日はケンヂのツアーもカップリングされているので楽しみは倍ってところだ。


さて、先日知人から病気に関するBAD NEWSが舞い込んできた。ほぼ歳が違わない彼の病を聞かされた衝撃。彼の心中を察しつつも、ついつい自分に置き換えて考えてしまう。

一日も早い彼の回復をを願いつつ、改めてやりたいことは全部やれと自分に言い聞かせ、雨の中ライダースを買いにいそいそと出かける休日であった。

おしまい。