チリ、チリ、チリ


レコードに針を落とすと耳に入るこのいかにもアナログな感じが殊の外心地いい。


いや、その昔CDもストリーミングもなくレコードとカセットテープが音楽を聴くためのツールだった頃にこの感じがよいと感じたていたわけではない。なんなら、このチリ、チリと傷や擦れが付いた箇所を針が通過する時に入るブチっとう雑音を忌み嫌う感じだった。

なんの雑音も入らず高音質と言われたCDが出現した時は、これで純粋にミュージシャンが奏でる音そのものを感じることができる時がきたとさえ思っていた。加えてレコードと比べるとその名のとおりコンパクトなCDは、レコードと同じ枚数をコレクションしたとしてもその収納に係るスペースはレコードの半分以下なのだからいいことずくめとしか言いようがなかった。


いつしか、レコードはもちろんそれを聞く手段のプレーヤーや針も入手するのが難しくなり、古い音源もCDで再発されるようになった頃には手元にあったレコードはほんの数枚を残し処分していた。

そんないいことずくめと思っていたCDも気がついたらストリーミングにその座を奪われ、サブスクなんてものまで出現して1,000円にも満たない料金を毎月支払ってBluetoothスピーカを置くわずかなスペースを確保したら全世界のほとんどのリリース曲が聴けてしまうというのだから時代の進歩というのは計り知れないものである。


当然自分もサブスクをいくつか契約してBluetoothスピーカーもセットしてCDなんかを買わなくていい環境は整っている。

にもかかわらず相変わらずCDのコレクションは増えていく。というか、ここにきてCDを上回るペースでアナログレコードのコレクションが増えている。



きっかけはCD化されていない音源で聴きたいものがいくつかあったのと、CD化されたものの時を経ていつの間にかプレミアが付いてしまい後から買おうにもどうにも手が出せないものがチラチラと増えてきたこと。丁度世間ではちょっとしたアナログブームが起きて、スピーカー内蔵の格安レコードプレーヤーを扱うCDショップも出てきて再びレコードを聴ける環境も整ってきていた。

ということで、何年か前に手頃なレコードプレーヤーを手に入れCDラジカセのAUX端子に繋ぐことで再びレコードを聴ける環境を整えた。


早速聴きたかったレコードを手に入れ針を落とす日々が続いた。




当然手に入れるものは中古、しかもなるべく安い価格のものを見つけ、場合によってはオークションなんかで買うので当然状態のいいものばかりではない。


ということで、冒頭の「チリ、チリ、チリ」や、キズや擦れができてて所謂音飛びというものに出会う確率が多くなる。

なのになぜか昔と違ってそんなところに心地よさや愛おしさが湧いてくるのだから、人間というものは勝手というか不思議な生き物だ。ただ、ハードなロックなものよりどちらかというと少し落ち着いたタイプのものにそれを感じることが多い。
アナログな温かみがそんな少し落ち着いた音楽にフィットしているのだろうか。

必然的に普段よく聴くタイプのモノではなく今まで聞いたことがない、どちらかという避けていたタイプのミュージシャンのレコードに手を出す割合が多くなってきた。


それだけ歳を重ねてきたということもあるかもしれないが、今まで聞いてこなかったタイプの音に出会える喜びを感じるようになったのだから、これはこれで歳を重ねてきたのも悪くはなかったということだろう。


ただこのまま枯れて老いぼれていくつもりは全くなく、これからも今まで以上にハードなやつも貪欲に探すクソったれなオヤジであり続けたい。

まぁ、なんだかんだと、自分の思うままに聴きたいものを聴きたいツールを使って聴けばいいというだけで、アナログ、デジタル、それぞれの特性に合わせていろんな音楽を愉しめばいいだけのこと。

と言ってる割にこの一週間は中学生の頃に大きなステレオで聴いていた懐かしのやつばかりに手が伸びているのは、懐かしい日々に思いを馳せる老いぼれに近づいてきているってことだったりして・・・


では、また。