日比谷野外音楽堂、通称野音と呼ばれるこの場所が好きだ。
日比谷公園の中にあるこの野音には小音楽堂と大音楽堂があり、野音と言えば大音楽堂のことをいう。
小音楽堂は1905年(明治38年)に完成した日本最古の野外音楽堂らしいが、大音楽堂も1923年(大正12年)に開設された100年近い歴史があるコンサート会場である。
現在の大音楽堂は1983年に完成した3代目ということだから、あの有名なキャロルの解散コンサートやジョニールイス&チャーの無料コンサート(FREE SPIRIT)は2代目音楽堂で行われたことになる。
野音の何が好きかって、ビルと木々に囲まれた特異な空間にあるステージを見つめる中に訪れる昼と夜が交差する夕暮れの瞬間、これが堪らない。モッズの森山達也も「特に野音の夕暮れ時は最高に気持ちいいね」と語っている。
僕の中で野音の存在が大きくなったのは、コンサート直後からすでに伝説と言われていた、1982年6月20日に行われたモッズ雨の野音。
当時はいくつかのロック雑誌で紹介されたコンサートレビューからその伝説を想像するだけだったが、ようやく1983年に発売されたビデオTHIS IS THE GANGROCKER1981-1983で雨の野音の凄まじさを体験することになる。
このビデオはデビュー前のテレビ番組「ファイティング’80’S」、1982年10月の渋谷公会堂、そして1982年6月の雨の野音のライブを中心に据えたドキュメンタリーヒストリービデオ。まだまだビデオ作品がメジャーではなかった時代ということもあり、「モッズのコンサートにはいつもパナティックな雰囲気がつきまとっている。失神者の数限りなし」などと淡々と語るN●Kのアナウンサーのような生真面目なナレーションも今では貴重。
肝心の雨の野音からは、5曲だけセレクトされている。
「We are THE MODS!」のシュプレヒコールから始まるコンサートのオープニングは、コンサートの時点ではまだ発表されていない新曲LET’S GO GARAGE。この曲は30th ANNIVERSARYの野音ライブの1曲目でも演奏されている。
オープニング2曲目「が・ま・ん・す・る・んだ」の時点でオーデイェンスのボルテージはMAXとなりガードのパイプが曲がってしまいコンサートは一時中断。押し合いへし合いの中もめる観客席に向かって「喧嘩しに来たわけじゃないぜ」と一喝する森山達也の姿。
コンサート中盤に差し掛かると雨が降り出し、森山は「1周年おめでとう、うれし涙」と語り、ここでも未発表の新曲ONE BOYの演奏が始まる。
英詩で歌われるDO THE MONKEYの時には雨も激しさが増し、アンコールのTWO PUNKSでオーディエンスも、ステージ上のメンバーもびしょ濡れになりながらも大合唱するシーンは感動的ですらある。
楽器もスピーカーも用をなさず、最後はドラムの音と大合唱だけというアナログな世界となったライブの全貌は、2006年にリリースされたアルバムFIGHT OR FLIGHT-WASINGにカップリングされDVDで確認することができるが、インパクトはこちらのヒストリービデオの方が大きく感じるのはファーストコンタクトの作品ということで仕方なしというところだろう。
この雨の野音から9年後の1991年6月2日に行われた野音でのライブも「REVENGE」というタイトルでDVD化されているが、こちらもやはり雨。
モッズの野音と雨はもはや切っても切れない関係になってしまっている。
自分が初めて体験した2011年6月25日のモッズの野音30th ANNIVERSARY SPCIAL LIVE YA-YA-ROCK ON!!も開場前が晴れだったにも関わらず開場後にはカッパを出すまでの雨が降り出した。でも少しだけその雨が降り出したのが嬉しかったのは、やはりモッズファン特有の感情だろう。
その雨もライブが始まる頃には止んだのは幸いだったが。
10月30日に開催される40th ANNIVERSARY LIVE「約束の夜」はどんな瞬間を味わえるのか。開場17:00、開演18:00ということなので夕暮れの瞬間がライブ前になるのは少し残念だげど、きっと特別な夜になることだろう。
でも今回、57歳になってしまったガタだらけのくたびれた身体の男には、雨だけはちょっと勘弁なのである。