ブルーハーツを起点とするとヒロトとマーシーの活動は35年を迎える。
ということを書店で見かけたミュージックマガジンで知った。

自分にとってのブルーハーツはファーストアルバムまで、というようなことは以前のブログでも触れたのだが、この書店で見かけたミュージックマガジンが殊更気になり、翌日買いに行ったら売り切れ。ミュージックマガジンが売り切れとは珍しいなと思いつつ、別な書店に行っても売り切れ。こうなったらとレコードショップに行ってみたらそこも売り切れ。ヒロトとマーシーってこんなに人気があったのかと思いつつ、結局最初に見つけた普段は立ち寄らない書店に行きやっとで購入できた。


ヒロトとマーシーの特集を読みたかったのはもちろんなのだが、本当のところは本屋でペラペラめくったときに目についた、UKロックバンドのトラヴィスと大御所ブルース・スプリングスティーンそれぞれの新譜記事と広告の写真に妙に心惹かれたという方が大きかったのかも。

ヒロトとマーシーの方は「甲本ヒロトと真島昌利の35年」のタイトルでの約30ページにわたる特集。

3人のライターがブルーハーツ、ハイロウズ、クロマニヨンズについて1人1バンドを解説しているのだが、各ライターの思入れの強さなのか、ミュージックマガジンの特徴なのかは不明だが、僕には読み手より書き手に寄った文面に感じたところだが、まぁ興味深く読めたのでよし。


ミュージシャン、俳優の方々が選ぶ私の3曲は鉄板の3曲あり、ここを攻めるかの3曲ありと楽しめたのだが、俳優甲本雅裕が選んだ3曲はどれもブルーハーツの未発表曲というのはヒロトの実弟だからこその特権としてありの選曲か。
また、3バンドがリリースした全アルバムのレビューもあり、ちょっと敬遠していたハイロウズ、クロマニヨンズも機会があれば聞いてみるのもいいかもなと思った次第。

書店で雑誌のページをめくって最初に目に留まったトラヴィスの新作記事ページの1枚の写真。

4人のメンバーの中心に写る男からは後期のデヴィッド・ボウイにも似たダンディズムのようなものが感じられ、その姿に一気に引き込まれた。それほどいい面構えをしている一枚だった。


購入後早速記事の方を読むとボーカルのフラン・ヒーリーはここ最近は父親業に専念していたらしく、その暮らしぶりが一時のジョー・ストラマーと重なった。
90年代以降の洋楽はほとんど聞かない自分であったが、すぐさま新作「10Songs」を購入。

それまでバンド名は知っていたものの曲は一度も聞いたことがなく、バンド名などからの勝手なイメージで90年代に生まれたパンクバンドだと思っていたのが大間違い。
タイトル通りに収められた10曲はどれも激しさはなく、丁寧に仕上げられた謙虚さが伝わってくるようなサウンド。だがそれは間違いなく極上、かつ良質なロックミュージック。アメリカのバンドとはまた違った、一聴してUKバンドとわかる繊細さも兼ね備えていた。

フランの語るところによると、このアルバムでは「自分は、今(人生の)どこにいるんだ?僕は幸せ?これが本当にやりたいこと?」ということに触れているらしい。アルバムを聞きながら僕も「今、幸せか」、「自分の人生を生きているか」と考えてしまうのは、そんなフランの語りはもちろんだが、10songsが静かに流れていく穏やかな時間の所為でもあるのだろう。

直観、面構えで選んだ1枚に間違いはなかったと満足しながら、昨日になってYouTubeでトラヴィスのPVを観てみた。大きな勘違いだった。
ダンディズムの感じるいい面構えをした男はボーカルのフランだと信じきっていたら、ベーシストのダギー・ペインじゃないか・・・。
オイラの人生、いつもこんな感じだ。
それでもイカシタベーシストのいるバンドにハズレはない。と改めて言い聞かす自分ではあるのだが。



そして、雑誌裏表紙の前ページ全面には全米ロック界のボス”ブルース・スプリングスティーン”の新作「LETTER TO YOU」の広告。それにこの新譜を紹介する記事も。
そこには降りしきる雪の中に70を過ぎた1人の男の姿。一目見ただけで何かが伝わってくるんだ。

ブルース・スプリングスティーンのような誰もが認める「これこそロック」的なものはあまり聞かないし、ブルース・スプリングスティーンのアルバムもほんの数枚しか聞いたことがない。
ただ、13年前にもCDショップで目にしたジャケットに写された顔に惹かれ、それまで一度も手にしたことがなかったボスのアルバムをその場で買った経験があった。
その時買ったのがその年にリリースされたアルバム"MAGIC"。
帯に書かれた”永遠の人生は約束できないけど、今、この「一瞬」だけは約束できる”の言葉通り、1曲目のRADIO NOWHEREで一瞬のロックマジックにかけられた。
「聞きたいのは激しいリズム、欲しいのは千のギター、欲しいのは轟くドラム、欲しいのは熱狂的な百万の声」歌詞に呼応するかのような激しいロック。この曲のためだけにアルバムを買ったとしてもまったく損はない。
いや、他にも素晴らしい曲が揃っていますよ、もちろん。


このアルバムが制作されていたときアメリカはイラク戦争のさなか。それに対するボスの憂い、久しぶりに一緒にアルバム制作をしたEストリートバンドへの想い、そんなのものがアルバムはもちろん、ジャケットの写真にも表れたのだろう。
ジャケットを見ただけでアルバム購入を決めたのは正解だった。その後のアルバムは買ってもいないし、聞いてもいないのだが・・・。

あれから13年、またしてもボスの姿に心惹かれた2020年。イラク戦争はとうに終焉を迎えたが、新型コロナウィルスという新たな危機に、今回も久しぶりの共演のEストリートバンドとともに時代に立ち向かう、という様々な想いがまたしてもボスの顔に表れたというのか。
APPLE MUSICで少し聞いただけだが、MAGICとはうって変わってオープニングの「ワン・ミニット・ユア・ヒア」はアコースティックギターの弾き語りから始まる静かなナンバー。
配信で聴き倒すことはやめ、しっかり購入してボスからの手紙を味わうことにしよう。




トラヴィスの新作には"A GHOST"、ブルース・スプリングスティーンの新作には"GHOSTS"というナンバーがそれぞれ収録されている。
未来の自分(ゴースト)から、今は亡き仲間を偲んで、という違いがあるものの気になった2作共通でゴーストのナンバーがあるのもただの偶然なのか、お前もそろそろゴーストになる年齢に近づいてきたことに気付けよ、ということなのか。

アルバムMAGICリリース時のブルース・スプリングスティーンの年齢が58。あと2年で僕もその歳になる。その時の自分はあの時のブルース・スプリングスティーンのように真摯な生き方が顔に表れているのだろうか。
ゴーストになってしまった時、精一杯生きた人生だったと納得できているだろうか。
50歳をとうに過ぎてしまったが、そう思える生き方をしなければと深く考えさせられた、素晴らしい男の面構えとの出会いであった。