ロックバンドがオリジナルの他に、影響を受けたバンドやアーティストのカバーをアルバムに収めたりシングルとしてリリースするのは、バンドを始めて好きなバンドの曲をコピーした、あのワクワクが忘れられないからなのか。

僕はそのカバーの中でも日本のロックバンドが洋楽を日本語の歌詞で歌っているものが好み。

日本語で歌われる場合、歌詞は意訳されたものやすっかり解釈を変えたものまでいろいろあるが、英語だからこそうまくメロディー乗っかっていたものが、日本語に変わったときにオリジナルとは違った感じでうまくメロディーに乗っかっている心地良さみたいなものに案外惹かれているかも。

今回はそんな日本語でカバーされた洋楽のナンバー、アルバムの中から。

生まれて初めて知った洋楽の日本語カバーが、可愛いベイビーだったのか、ダイアナだったのかは全く思い出せないが、1957年、アメリカのポールアンカが作詞作曲し自ら歌って大ヒットしたダイアナは、ここ日本では1958年に山下敬二郎がデビューシングル「バルコニーに坐って」のB面曲としてリリースされたのが有名。



日本のパンクバンドではケンジ&トリップスがメジャーでのデビューシングルとしてこのダイアナを1987年にリリース。

その詞はダイアナという女性への溢れる想いという点では原曲のままであるが、「鉛の愛でぶち抜くお前の胸を」、「いつかどこかで誰かが爆弾抱えて待ち伏せ」とパンク版ラブソングに大きく変容されている。

発表された当時は大きな話題となったのだが、僕はB面の「BALLADに捧ぐ」のダークさが好きでそちらばかりよく聴いていた。


ケントリは再結成後のアルバム「覚醒」の1曲目でも「戦争を知らない子供たち」をカバーしてたけど、これはダイアナのインパクトを意識してたんだろうなぁ。



アナーキーのデビューアルバムは半分近くがカバー曲だった。
本人たちが聴いてきた曲だったからなのか、レコード会社の思惑だったのかは不明だが、クラッシュの曲に加え、スティッフ・リトル・フィンガーズやイーターの曲なんかまでカバーしてたのはパンクファンとしてはニヤッとさせられるところ。

ここでのカバー曲は原詩とはまったくもって違った歌詞になっていたどころか、タイトルまでスッカリ違うものに。

スティッフの「SUSPECT DEVICE」は「3・3・3」に、イーターの「LOOK IT UP」は「缶詰」、しまいにクラッシュの「SAFE EUROPIAN HOME」は「アナーキー」だもんなぁ。

クラッシュの「LONDON’S BURNING」は「東京・イズ・バーニング」というタイトルで収録されたのだが、日本の皇室を批判する歌詞の内容に抗議が殺到し、市場からは回収されて廃盤にまでなったはず。そもそもレコ倫の規制で「ピー音」が入ってそこの部分は言葉が消されていたし再発されたものでは曲自体削除されているが、今でもそのメロディと歌詞は頭から離れずしっかり覚えている。

もう1曲チャックベリーの「ジョニー・B・グッド」のカバーに関するちょっとした思い出は以前のブログ「爆裂都市/バーストシティ」に記したとおり。

このファーストアルバムは日本のパンクパンドとしては異例の10万枚を超すヒットとなったというのだから驚き。



陣内孝則率いるロッカーズの38年ぶりの新作「Rock’n Roll」にもカバーが2曲収録されている。
昔「HANKY PANKY」という50’Sの日本語カバーアルバムもリリースしたことがある彼らだからエルヴィス・プレスリーのSUSPICIOUS MINDSをカバーってのはわかるのだが、我々世代にはジャムがカバーしたことで知られているマーサ&ザ・ヴァンデラスによる1963年のヒット曲「HEAT WAVE」が選ばれていたのは僕としては意外だった。しかし、オフィシャルHPにある曲の紹介によると、この曲は他にもストーンズを始めザ・フーなどのバンドがカバーしていて、めんたいロックの教科書的なナンバーなんだそうだ。

ここで聞かれるカバーはオリジナルよりジャムのカバーにかなり近いアレンジで、陣内の声が妙にこの曲にマッチしていて気に入っている。


その昔リリースされた「HANKY PANKY」の方は2016年のアルバムリイシューの際に再発されなかったのは陣内もこのアルバムを作ったことに後悔しているからだとの話も。

先日、中古ショップで偶然見つけ、ようやく耳にすることができたのだが、選曲含めなかなかどうしていい出来に仕上がってると思うのは僕くらいのもんなのかなぁ。それにしてもタイトルHANKY PANKYはそうとうイカシテル。


そして日本語カバーのアルバムで外しちゃいけないのがRCサクセションの「カバーズ」。
アルバムはバリー・マクガイが1965年にリリースした核戦争の恐怖を歌った「明日なき世界」で始まる。原曲同様に清志郎は「でもよ、何度でも何度でもおいらに言ってくれよ、世界が破滅するなんて嘘だろ?」「ボタンが押されりゃそれで終わりさ」とチェルノブイリ以降叫ばれた核、原発による恐怖を歌う。

この曲にはあのジョニー・サンダース!もゲスト参加している。

他もエルヴィス・プレスリーのラブ・ミー・テンダーでは「何言ってんだー、ふざけんじゃねー、核などいらねー」、「放射能はいらねー、牛乳を飲みて―」と、サマータイム・ブルースでは「原子力発電所が建っていく、さっぱりわかんねー、誰のため」と、次から次に核問題、原発の問題が直接的に歌われる。

これらが起因となってアルバムは当時所属していた東芝EMIからの発売が中止される騒ぎに。

結局古巣のキティから発売されたのだが、これがRCにとって初のオリコンチャート1位を獲得。日本のロックファンもまんざらじゃないなと少しだけ嬉しく思ったものだ。

そしてアルバムラスト、ジョンレノンのイマジンで「夢かも知れない、でもその夢を見てるのは君一人じゃない、仲間がいるのさ」と歌われることで救われ僕らの思いは帰結する。

こんな素敵なロックアルバムはそうそうない。

奇しくも東芝EMIが発売中止に際して行った新聞広告に記された「素晴らしすぎて発売できません」はある意味的を射たものだった。



最後は僕が一番好きなカバー。

THE STRUMMERSのアルバムALL WE CAN OFFERに収録さているTHE CLASHの「DEATH OR GLORY/死か栄光か」

このアルバムがリリースされた前年に亡くなったジョー・ストラマーの残したメッセージ「当事者であれ!」をストレートに伝える内容となっていて、アレンジは原曲に近いが、イワタから放たれる言葉が日本語だからこそのメロディとの絶妙な相性からか、耳にすんなり受け入れらて心に響いてくる。



今回は日本語でカバーされた洋楽を紹介したのだが、英詩でそのまま歌われるカバーの中にも素晴らしいものが多くあるので、それらはまた。