バンド活動と並行してソロアルバムを出したり、マンネリ化したバンド活動に風穴をあけるためにソロ活動を行ったり、バンド解散後ソロへ転向したりとソロ作品を発表する理由はそれぞれの事情によるのだが、今回はバンドマンがリリースしたソロ作品の中からお薦めの10枚を紹介。
前回までとは違いベスト10シリーズではありませんのであしからず。
カクテル・トゥナイト/石橋凌
ARBの魂揺さぶるロックとは正反対、フランクシナトラあたりの正統派シンガーでも意識したのかと思わせるナンバー。
バンドネオンがフィーチャーされた演奏のバック
を務めるのはギター花田裕之、ウッドベース井上富雄、ドラム池畑潤二のルースターズトリオというのももう一つの聴きどころ。
でもこの曲を聞いたときは、この人(石橋凌)が見ようとしている光景は”ロックスターではなくただのスター”なのかな?と初めて思った瞬間でもあったな。
シングルリリース時に石橋凌が花田裕之と2人で札幌を訪れ、何曲か披露したこのシングルのプロモーションを観ることができたのは自分の中ではかなり貴重な出来事。
その夜ススキノ近くのロックバーに訪れる情報をキャッチし友人と2人でそのバーへ。
来ました、石橋凌と花田裕之。石橋凌は気さくに話してくれて一緒に写真も。花田は印象通りの寡黙さ、でも黙ってサインしてくれました。
夏のぬけがら/真島昌利
それが1曲目からいきなり「夏が来て僕等 アイスクリーム食べて笑った」とジャジーな、またフォーキーでもあるようなアレンジで歌われてびっくりさせられた。
アルバムは一貫してこのスタイルで貫かれる。でも逆にそれが胸に突き刺さってくるから音楽って不思議だ。
8曲目に収録された「アンダルシアに憧れて」は近藤真彦にも歌われヒット。
僕のお気に入りは10曲目の「カローラに乗って」。爆音響く外車とかじゃなく国産大衆車のカローラをもってくるセンスが泣けた。
このアルバムでベースを弾いているのは盟友篠原太郎と現コレクターズの山森正之。
東京モッズシーンの繋がりがこんなところでも垣間見れる。
ドラムは残念ながらつい先日亡くなってしまった元エコーズの今川勉。
翼あるもの/甲斐よしひろ
なぜこの時期に?というのはわからないが、このアルバムで注目すべきはなんといっても2曲目に収められた「えんじ」。
アルバムには作詞作曲者として「森山達夫」とクレジットされているが、実はTHEMODSの森山達也の手による曲である。
昔、博多のライブハウス照和のオーディションで森山の歌うこの曲を聞いた甲斐が店に森山を推薦したという逸話がある。
甲斐バンドがその照和で2010年に行ったライブを追ったドキュメンタリー映画「照和」の中でも森山達也が甲斐バンド、甲斐よしひろを語るなど、意外にも2人の関係は深いようだ。
JUST A PRETENDER/森山達也
ただ、森山自身も決してその活動に否定的ではなくいちボーカリストとしての自分の力量に対する欲目があったとのこと。
モッズの曲をモチーフにし彼らも出演した映画「夜のハイウェイ」の撮影、そのサントラとしての意味も持ったバンドのアルバム「BLUE」のレコーディング、そこにソロ活動が加わり、ソロアルバムのサウンド面はプロデューサーの土屋正巳に任せるしかなかったようだ。
バンドでの「激しい雨が」のシングルヒットに続き、ソロシングル「LOVEかくし色」のヒットでモッズは全国的にも名が知られるバンドとなったのだからこのソロ活動は間違いではなかったと思うが、やはりこのソロアルバムは何度も引っ張りだして聞こうとはならないのである。
そんな森山達也が今月、このソロ活動から実に35年振りのソロ名義作品「GETYOURSELF」を発売する。
先行して公開されたPVを観たが、今回はかなりイカシタ作品になっていそうだ。
聖家族/モモヨ
リザード活動停止後いくつかのプロジェクトを経てしばらく沈黙が続いたモモヨ。
そんな彼がソロ名義で作品を発表することを雑誌宝島の広告で知ったときは震えたなあ。
その広告では、彼に降りかかった出来事を想像させる「事件」というタイトルが告知されていた。楽しみで仕方なかった。
その後、タイトルは「聖家族」に改題されリリースされた。
A面のベースのみ元リザードのワカ、それ以外の演奏、作詞・作曲、ジャケットの絵はすべてモモヨ自身。レコーディングもすべて自宅で行われたとのこと。
この後にリリースされた2枚のシングルと合わせた3枚のソロEP作品は彼の思うところのモチーフを実現できず、そういう意味で彼の中では長い間失敗作と位置付けられていたらしい。
しかし、僕自身にとっては百夜独演音曲集と名付けられたソロ3部作、特に1枚目のこの「聖家族」はプライベート盤のような音の作りがどちらかというとリザードの前身「紅蜥蜴」に近く感じられ繰り返し何度も何度も聞くほどにこの作品の世界に引き込まれていた。
そう、ここに収められた聖家族1で謡われる「くりかえしまわるレコードの時の谷間にせせらぐはみたま」のように。
このソロの後に発表されたリザードとしての作品「変化の書」、「岩石庭園」は初期の3枚のアルバムとの違いは明らかで、きっとソロ作品での失敗を良しとせずにソロ作品で定めたモチーフを再度バンドに持ち込み制作されたのは間違いないところだと思うのは僕の勝手な想像。
最後にモモヨのソロ作品を聴いているとなぜだか堀辰雄の小説作品を読みたくなる、ということを記しておこう。
さてさて5枚の紹介だけでかなり長くなってしまったので残りの5枚は次回ということで。