外出もそうそうできない今年のGW。せっかくなので今回もいつもとは少し違ったところで小説を紹介することに。
初の小説紹介は、僕が長年愛読している北海道江別市在住作家小路幸也氏の代表作「東京バンドワゴン」シリーズ。
本シリーズは東京の下町の古本屋「東京バンドワゴン」を営む大家族の堀田家を舞台に、この店に持ち込まれる謎、舞い込む騒動を一家の出来事を織り交ぜながら解決していく物語。
シリーズ全作品の最後に「あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ」と記されているとおり、昭和の良き時代の大家族を舞台にした、笑いあり涙ありのホームドラマが通底していると言ってもいい、何度読んでも胸に染み入る何かを感じさせてくれる作品だ。
2006年の春に1作目が発売され、2作目以降はほぼビートルズの曲名がタイトルとして(ビートルズ以外はポピュラーソングのタイトルが)冠されるようになり、昨日発売された「イエロー・サブマリン」がシリーズ15作目ということだから、かれこれもう15年も続いていることになる。
毎年春が近くなると、そろそろ堀田家のみなさんに会える季節だな・・・と思い出してしまうくらい自分にとっては春の風物詩的意味を持つ作品にまで育ってくれたようだ。
物語の舞台となる堀田一家は、明治から続く古本屋の3代目店主勘一(79歳)、その息子である伝説のロッカー我南人(60歳)、我南人の長女藍子(35歳)とその娘、長男紺(34歳)夫婦とその息子、次男青(26歳)、の総勢8名として一作目が始まり、新作までの間にそれぞれが結婚したり、海外に引っ越したり等々しながら毎作10名前後がこの家での暮らしを続けている。
毎作、春夏秋冬の季節毎の4編のストーリーが収められており、新作は前作の最後の数日後から始まるのがお決まりとなっているらしい。
なお、3作続くと4作目はスピンオフ的な番外編となることもシリーズのルーチンとなっており、長年の愛読者としては楽しみのひとつになっているのだから、これもまた憎い演出ではある。
比較するのはどうかと思うのだが、同じように大家族を扱うあのサザエさんの登場人物が何年続いていても年齢を重ねていくことがないのとは違い、こちらは作品毎にしっかりみんなが年齢を重ねていくので、登場人物それぞれの成長が楽しめるのもこのシリーズ小説の大きな魅力だ。
ちなみ一作目で79歳であった勘一が最新作では87歳となっているので15年で8年の歳月が過ぎるまでに一家の物語は進んだことになる。
さてさて、ロック一辺倒の僕がなぜこの本を最初に手を取ったのかということだが、タイトル名が「東京バンドワゴン」ということもあり、何か面白そうな音楽小説が発売されたみたいだぞと勝手に勘違いしたことに加え、ロックバンドARBの当時のメンバーに内藤幸也というギタリストがおり、作者の下の名前が彼と一緒(読み方は違っていたのだが)だったことも大きなきっかけだったように記憶している。
ただ、先に書いたように老舗の古本屋を舞台にした下町大家族小説ということで音楽小説とはちょっと違った方向のものだったのは想定外ではあったのだが。
それでも主人公勘一の息子我南人が伝説のロッカーでLOVE TIMERというバンドのボーカリストだったり、その孫の研人も高校生にしてプロのロックバンドとししてデビューする等、物語のあちらこちらに音楽的要素も散りばめられているのだからある意味音楽小説とも言えないわけではないのでは?というのは言い訳か…。
そんなに小説をガシガシ読む方ではない僕が、期待していた内容とは違っていたにも関わらず今も読み続けているのは、子供の頃そんなに幸せだったとは言えない家庭環境に育ったことからの暖かい家族への強い憧れ(それでも父母の晩年に向けてはそれなりに楽しくもあり)だったり、一冊の中の4編それぞれが必ずハッピーエンドで締められるところが大きかったのではないかなぁ。
ロックだ、パンクだと言ってはいるものの結局のところハッピーエンドが一番、てなるのだから人間っていうのは甚だ身勝手な生き物だよなぁ。
話は変わるがこの東京バンドワゴン、15作も続くロングセラーな作品なだけあり連続テレビドラマ化もされている。
勘一役が平泉成、我南人役が玉置浩二(バンドLOVE TIMERは安全地帯が・・・)、青役が亀梨和也、青年実業家の藤島役が井ノ原快彦だったりと、ほとんどの配役が自分のイメージとは全く違っていて最初はうーん・・・て感じだったのだが、それはそれで大いに楽しめて皆さんにもお勧めのテレビドラマではある。
でも、多部未華子、ミムラを始めとする女性陣の配役はまあまあイメージに合ってたのはなんだったんだろうなぁ。
ちなみに自分がイメージしていた我南人役は豊川悦司だったということは初めての告白。(今は亡き内田裕也や桑名正博ってのもありかな)
最後にまたまた話はがらりと変わってしまうのだが、もう30年以上も前にザ・モッズのボーカリスト森山達也がある雑誌のインタビューで「俺が買ったレコードの売り上げで○○(確かここはジョンだったような)が儲けてくれるなら俺は喜んで○○のレコードを次々買うよ」みたいなことを語っているのを読んでえらく感銘を受け、それからは自分も応援するバンドのレコード・CDなんかはできる限り中古ではなく新品を買うようにと肝に銘じている。そういう意味で、小路幸也氏の作品は出来る限り古本ではなく普通の書店や電子書籍で購入しているのだが、これって我南人の口癖「LOVEだねぇ」に通じてるんじゃないかなー。
物語は古本屋が舞台ではあるのだが・・・。