ARBのベストソングを聞かれたら、多くの人は「魂こがして」と答えるのではないだろうか。ライブのたびに「一生歌っていきます。魂こがして」と石橋凌が語り歌い始めるたびにどれだけの人が魂を震わせたことか。僕ももちろんその一人だし、この歌で歌われるように魂をこがすような思いで生きていきたいと思いながら日々を過ごしてきた。
しかし、僕にとってARBのベストソングと問われ時に答えるのは魂こがしてではなく、彼らのデビュー曲「野良犬」だ。
ARBは1977年に結成され1978年にこの「野良犬」という曲でデビューした。
僕が彼らを知ったのは当時愛読していた「ROCK SHOW」というシンコーミュージックが発行していたどちらかというとアイドル寄りのロック雑誌でだったと記憶している。
Bay City Rollersで音楽に目覚めた当時の僕はそのBay City Rollersがほぼ毎号表紙のこの雑誌を毎月かかさず購読していた。
その雑誌にデビューしたばかりのARBがカラー写真付きで大きく紹介されていた。バンド名はAlexander Ragtime Band(アレキサンダー・ラグタイム・バンド)、略してARBとくれば和製BCRの登場かとちょっとだけ胸躍らせたのも無理はないだろう。
雑誌で紹介されていた彼らは、その後の彼らからは想像もつかないほどアイドル然とした扱われ方だった。(デビュー当時のARBはこのシンコーミュージック所属でBCRやチューリップみたいな甘いラブソングを歌うグループとして売り出されようとしていたからね)
なお、アレキサンダー・ラグタイム・バンドを正式名にしていたのは3rdアルバムの「BOYS & GIRLS」までで、4thアルバムの「指を鳴らせ!」以降はARBを正式なバンド名としたようだ。
雑誌で目にしてからほどなくして、冬休みか何かで登別市から遊びに来ていた同じ年のいとこと一緒に日曜夕方に放映されていた「ヤングおー!おー!」という番組でデビュー曲の「野良犬」を演奏する彼らの姿を初めて目にしたのだが、ボーカルの石橋綾の自分の腕にかけた手錠を短いマイクスタンドに繋ぎ歌う姿に、BCRのようなポップな曲を笑顔で演奏する姿を予想していた僕は大きく裏切られることになるのだが、2nd以降の声とは明らかに違う声で石橋凌が歌うこの曲のサビの部分がどうにも頭から離れないくらい一瞬で好きになってしまったようだ。一緒に見ていた僕ほど音楽好きではないいとこも同じだったらしく、翌日すぐに函館駅前の北斗電器というレコード屋までこのデビューシングルを買いに行くのに付き合わされることになった。
田中一郎の小気味いいギターのリフがコードカッティングへと続くイントロも、石橋凌の野良犬をはじめ1stアルバムでしか聞くことのできないどこか甘さが残ったような声も、それ以降のARBとはまた違った趣があり、僕は大のお気に入りだ。
ただ、当時お小遣いが多くなかった僕は、他にもほしいレコードが多くあり、このシングルも1stアルバムにも手を出すことはなく、彼らのアルバムを初めて買うのはアイドルロック?好きからパンクロックフリークへ移行していく最中の高1の時に発表されたセカンドアルバム「BAD NEWS」まで待つことになる。このBAD NEWSは僕の生涯ベストアルバムのうちの一枚だ。
BAD NEWS以降も彼らの代名詞となるワークソングの中から様々な名曲たちが発表されていくことになりそれらの曲に涙することも多かったのだが、出会った時の衝撃があまりにも大きかったのかその後も「野良犬」がベストワンの座を譲ることはなかったのだ。(野良犬で涙することはなかったのだけど)
思い返せば、僕が幾度となく通ったARBのライブでこの大好きな「野良犬」が演奏されたことはなく、結成25年のツアーZEPP SAPPOROでの公演で念願叶ってようやく初めて生で聞くことができたのだ。この時は一人心の中で狂喜したなぁ。
そういえば、あの頃Tom Robinson Band(略してTRB)の1stアルバムを買ったのもバンド名の略し方がBCRと似通っているという理由だったのかも。
僕がパンクロック系と呼ばれる音楽へ傾倒していく流れは、このBCRというバンド名の略し方から繋がっていくARB,TRBとの出会いが根底にあるのかも、という思いがこのブログを書きながら頭をよぎったよ。