元女胴師が尼として寺を救おうとする「尼寺博徒」を観て | パンクフロイドのブログ

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東京国立近代美術館フィルムセンター

逝ける映画人を偲んで 2015-2016 より

 

 

製作:東映

監督:村山新治

脚本:大和久守正

撮影:中島芳男

美術:江野慎一

音楽:津島利章

出演:野川由美子 加藤治子 伊吹吾郎 橘ますみ 後藤ルミ 渡辺やよい

        應蘭芳 安部徹 渡辺文雄 曽我廼家明蝶 伴淳三郎

1971年9月7日公開

 

赤字が2015-2016に亡くなられた故人です

 

幼い頃から父親の徳次郎(伴淳三郎)に、賭博のいろはを仕込まれた春子(野川由美子)は、一人前の女胴師に成長しました。ところが、徳次郎は浜松の中尾組の賭場で、賭場荒しを三人斬ったことにより刑務所入り。春子は中尾組代貸で恋人でもある吾郎(伊吹吾郎)と別れて尼寺に入る決心をします。吾郎も事件の責任をとり三年の所払いとなりました。

 

それから三年後。春子は春愁と名を変え、郊外の由緒ある信修庵で尼として暮していました。春愁は、庵主(加藤治子)の覚えもめでたく、彼女から絶大の信頼を受けます。一方、本山大覚寺の実務を司る事務総長の覚英(渡辺文雄)は、壇家総代の土建屋の水野(曽我廼家明蝶)に手引きされ、西条組の賭場にたびたび出入りし、信修庵の修復費を使い込んでいました。西条(安部徹)は、かねてから信修庵の士地に目をつけ、密かに水野と組んで寺を乗っ取る機会を伺っていたのです。

 

春愁は改修の認可がのびのびになっている事情を確かめに、大覚寺に出かけます。しかし、覚英は事務総長である自分に話を通さずに、僧正に直接掛け合いに行った春愁を、一方的に非難し彼女を追い返します。覚英は次第に追いつめられ、西条の言われるままに僧正と庵主の実印を無断で持ちだし、信修庵を担保に借用書を偽造し、西条から金を借り受けます。ところが、その金もすぐ博奕で失った上に、西条の情婦と寝たこともバレ、にっちもさっちも行かなくなります。

 

こうして、西条は大覚寺僧正に3000万円の借用書をつきつけます。返済できない場合は、尼寺に関する権限をいっさい放棄せねばなりません。その頃覚英は、僧正と庵主に遺書をしたため自死します。庵主が尼寺を手放そうと決心した日、吾郎から徳次郎の危篤の知らせがもたらされます。春愁は今日限りで寺を出たいと庵主に申し出ます。そして、最後の頼みとして、西条組に托す権利書を自分にまかせてくれと願い出ます。春愁はドスを墨染めの衣の下に隠し、西条の事務所に向かいます。

 

尼寺が舞台なだけに女優が尼僧を演じると、正直誰が誰やら判別しにくいのは確かです。さすがに主役の野川由美子、庵主の加藤治子、剃髪得度式前に髪のある渡辺やよいは分かるものの、曽我廼家明蝶に一服盛られた上に体まで奪われる橘ますみは、年増の尼僧と共に明蝶宅に赴くところでようやく分かり、應蘭芳も橘を折檻する場面で初めてレズ相手だったと理解できる始末。こんなことなら、二人のカラミのシーンを真剣に観ておけば良かった(笑)。

 

その一方で、尼寺の修繕費を着服して博奕にうつつを抜かす渡辺文雄の小悪党ぶりが珍しかったです。本来ならば渡辺は安部徹の演じた西条のほうが適役と思いますが、インテリヤクザを得意とする渡辺にしては意外な役回り。博奕づけにされた上、博奕の借金を埋めるため、僧正と庵主の実印を持ち出して、更に泥沼に嵌った挙句、責任も取らずに自ら死の道を選ぶ身勝手な処し方。渡辺が演じた悪党の中でも、一、二を争うほどの小物感に溢れ、惨めな死にざまと言えます。

 

珍しい役柄の渡辺文雄に対して、安部徹の悪役はいつも通りの安定感。安部と組む曽我廼家明蝶も、一見人当たりが良く物腰も柔らかいですが、女をモノにする手口や、渡辺を悪の道に引きずり込みながら彼が泣きついてくると知らん顔する薄情さなど、やることはエゲつありません。尤も、安部と明蝶が組めば、渡辺が小物に見えてしまうのも無理はない?

 

当初、ヒロインが女胴師からいきなり尼僧になることに違和感を抱きましたが、尼として仏に仕えることによって、父親が殺した相手の魂を供養する理由を聞いて、至極もっともと納得。その野川をサポートする伊吹吾郎も、いつもながら好漢なやくざが良く似合います。野川が窮地に陥ると、颯爽と現れ騎士道精神を大いに発揮します。

 

やくざ映画が完全に行き詰まりを見せ、袋小路に迷い込んだ時期だっただけに、考えつくものは何でも試みようとした意図は窺えます。尼とやくざの組合せは、あまり食い合わせが良いとは思えなかったですが、正統なスタイルで撮っているため、然程違和感はありません。また、尼になった若い女性も禁欲的な面ばかりではなく、托鉢の合間にちゃっかり鬘と洋服を身に着けてゴーゴークラブで踊るなど、現代っ子らしい面も見せたのは面白かったです。