中学2年の夏。
自転車にまたがって信号待ちをしていると突然の大雨が降ってきた。


折りたたみ傘を持っていたので、すぐに対応はできた。

となりには女の子がびしょぬれになっていて。

なぜそんなことしたかは分からないんだけども、
すぐにその娘に傘を手渡した。半ば強引に。

僕は急に恥ずかしくなって、そのまますごい勢いで帰宅した。


次の日。

その娘は傘を返そうと、同じ場所で待っててくれた。


それが彼女との出会いだった。


僕らはそれ以来、帰りに会うようになって様々なことを話した。

1歳年上のその彼女は、家庭環境が良好ではないが故に自立心が強かった。


あの頃の僕からすると、遥か年上のお姉さんに感じた。

仲が深まるにつれて僕はこう思った。


"この人の家族になろう"


僕らは恋仲にはならなかったが、その絆は相当強くなっていった。
唯一自分の素を見せることが出来たのは彼女だったし、彼女もそうだった。



そんな彼女が22歳になった頃に出来た彼氏がいた。


不倫だった。


もちろんそこで引き止めることもできたのかもしれないが、
僕は彼女を信用していたから、否定的なことは言わなかったんだ。

辛いことがあれば励まし、不安なことがあったら気を紛らわすくらいのことは出来ていたと思う。


その相手との関係は5年間続いた。


その日、彼女はうやむやになっている相手との関係に白黒つけようとしていた。


別れる or 一緒になる


「頑張ってね!はっきりさせてすっきりしよう!」


僕が彼女にかけた最後の言葉だった。


その日以来、連絡が取れなくなった。

毎日のように携帯に電話をするが留守電になる、そんな日々。
僕が感じていた不安や後悔は文字では書き表わせないほど深く致命的だった。


1か月ほどして、いつものように携帯に連絡したところ、
お母さんが受話口に出た。


「あの子は精神診療所に入所している、誰とも会いたくないと言っている」


あれから僕は彼女と会うことも話すことさえ出来ていない。


僕が今後悔しているのは、あの時止められなかったこと、
彼女に対して何のツグナイも出来ていないこと。


人間は少なからず偏見を持って生きていると思う。


好き勝手な人生を歩んできたせいもあって、
自分には常識とか道徳やらに欠けている面が多くある。



けれど不倫に対しては無条件の憎しみだけが残っている。


「君は拾われ子なんだよ」



思えばこの一言に今までの自分の人生が集約されているように感じる。


"迷惑をかけないように生きよう"


"心配をかけないように笑っていよう"


拾われ子なんていう一見嘘めいた話が、本当に嘘だと分かった今でも、
自分の在り方として深層心理にしっかりと根付いているのは、幼心に感じた感覚だろう。


道化を演じきることが自分を含めた周りの幸せだと感じてきたし、今もそう思っている。
自分を殺さないよう、他人に悟られないように全力で踊ってこれている。



"ダンス ダンス ダンス"


とても好きな言葉だ。


でも踊りが巧くなるにつれ、軽快にステップが踏めるようになるにつれて
そこに付き纏う負のイメージは歳を重ねる度に大きくなってきた。


踊り続ける為の靴にボロが来ている。
いっそのこと素足になってしまえばもっと楽だろうに。



「人はそれぞれ辛さを抱えて生きているの。
 自分だけが悲しいと思わないでね。」


大丈夫、分かってるよ。でも響かないんだ。
参ったね、自分が思うよりも井戸は暗くて深そうだ。


一体自分はどこに向かっているんだろう。


いや、どこに向うことができるのだろう。




「♪It's time~」


事ある毎に頭の中で繰り返し鳴っていた携帯のアラーム音。
少し疲れた。ケリをつける時かもしれない。


死を選ぶつもりは全くない。
迷惑をかけるからだ。


今日も月が綺麗かな。


手は届かないけど。