部屋にある窓から見える景色は、今朝から振っていた雪で色が白しかなくなっていた。
デジタル時計を見てみたら13:10。昼だというのに、雪が溶けているような感じはしない。部屋の中から分かるか、と言われたら分からないと答えるしかないのだけど。
ここは田舎で暖房がついていない。今まで布団を足にかけてパソコンをいじっていた沙羅は、ついに根をあげてパソコンの電源を切った。
手の指先全体が凍ったように冷たい。むしろ痛い。これだから冬は、暖房のない家は辛いんだ。
プチンッ
パソコンの切れた音が、静かな部屋では大きく響いた気がする。
ヘッドホンを取り、手に息を当てる。
暖かいココアでも入れよう。
普段なら、ここに住んでいる子達が入れたりするのだが、今年の初雪に感動した双子は朝から元気よく飛び出し、残りの女の子2人と男の子1人も付き添うように出て行ってしまった。そういえば、あの子達にしてみれば、雪は初めて見るのではないだろうか。私と出会ったあの子達は、早い子でも今年の春だったから。これじゃあ、5人共(表情に出しているかは問わず)興奮しているだろう。きっと、手や鼻先やらを赤くして帰ってくるに違いない。
全員分のココアを用意してお迎えしますか。
そう思って立ちあがった時、後ろで「マスター」と私を呼ぶ小さな声が聞こえた。
驚いて後ろを振り返ろうとしたら、頬を触られた。
急にきた冷たさに、体全身が反応した。「ひゃっ」なんて情けない声をあげるはめになり、椅子へと逆戻りしてしまった。
後ろで微かに笑っている声が聞こえる。
この野郎、なんて思っていたら、今度はにゅっと腕が伸びてきた。私の前でクロスして、左肩に頭が乗せられた。金髪が視界の隅に入る。
後ろから抱きしめられた、と数十秒してから気付く。
先程まで外にいたであろうに、体はすごく暖かかった。子供体温って羨ましいかもしれない。
それより、彼の様子がおかしい。
私は、弱弱しく彼――VOCALOIDの鏡音レン――の名前を呼んだ。
「………レン?」
レンからの返事はない。
一瞬リンと間違えたのかと思ったが、声は確かにレンだった。
防音設備のあるこの部屋は静かで、外の音など全く聞こえない。部屋が相変わらず静かだ。リン達はまだ外にいるのだろう。
「レン?リン達はどうしたの?」
返事をくれるか分からなかったが、沈黙は私が耐えられなかった。しばらくしてから、ぼそぼそと話す声が聞こえて安堵する。
「……外で雪合戦してる」
レンの息が肩に当たってくすぐったいが、それ以上に暖かい。
くすくすと笑う。カイトやメイコまで参加しているならさぞ賑やかだろう。
「メイコも?お酒飲むんじゃなかった?」
「…あー、リンがメイコ姉の顔に雪玉当てたら、怒って雪合戦になった」
「あはは、カイトやミクまで巻き込んで?」
「………ん」
肩越しに、レンも少し笑ったのが分かった。
「それで、レンはどうしたの?」
本題に入ると、レンの腕に少し力が入ったように感じる。
安心させてあげたくて、手をあげてどうにかレンの頭に乗せた。ゆっくりと撫でる。
体温は暖かくても、やはり髪はしっとりぬれていた。
これはココアだけじゃないないな、と頭の隅で考える。
「……マスター、外雪振ってる」
「うん」
「……リンもミク姉も大はしゃぎで」
「うん」
「……初めて見て、雪ってこんなに綺麗なんだってビックリした」
「うん」
「……でも、マスターいなくてなんかヤダった」
「うん。………うん?」
あれ、この子はなんて言った?
なんかすごく嬉しい言葉が聞こえたような。
そういえば、レンと片割れのリンは私にベッタリだったな。
買い物に行くのだって一緒で、仕事があり私1人で出かける時は最後までふくれっ面で、家を追い出すような双子だ。それで、私が家に帰ると最高な笑顔で迎えてくれる。まったく可愛い奴らだ。
そうして、春に桜を見て夏は海に行って、秋には紅葉狩りに行ったっけ。どこへ行くのも一緒だった。勿論、双子の姉・兄代わりになっている3人も一緒に。
この子達に“初めて”をたくさん体験させたくて。初めてみる時の笑顔が大好きだったから。
あぁ、初めてだったんだ。
レン達が雪を見るのも、いつもならそんな様子を見守っている私がいなかったのも。
もしかして、さみしいって思ってくれたのかな?
そう思うと、頬は自然と緩んでいった。
今度から仕事を溜めこまない様にしないと、と頭で固く誓って、私は立ちあがった。
首に抱きついていたレンをそのままおんぶして。
「わっ、マスター!?」
「ふふ、レン。かまくらの作り方知ってる?かまくらの中って暖かいんだよー」
「…え、知らないけど…。?」
戸惑っているレンを無視して、私は窓を開けた。
一気に冷気が入ってくる。十分厚着していた筈なのに、やはり外は寒い。
「今からかまくら作るぞー!!」
外にいる4人にも聞こえるように、大きな声で叫ぶ。
軽く頭を突かれて、転ぶところだったのは見過ごして欲しい。
「マスター、うるさい!」
「ええっ!?ひどいよレン」
「いいから降ろして!」
「はいはーい……」
どうやら、レンはいつも通りに戻ったみたいだ。
屈んだら、暖かかった背中の温もりはすぐに離れていった。と思ったのに、今度は手を握られた。
驚いてレンの横顔を見たけど、そっぽを向かれてしまった。
耳がすごく赤いのは寒さだけじゃないよね、と勝手に思うことにする。
そこからは、私の大声を聞きつけたリン達が集まって、私の周りはまた賑やかになった。
こうして私達は“初めて”を重ねていく
(あー!レンったらマスターと手繋いでズルーイ!!私も!)
(リンにはカイト兄がいるだろ!)
(カイト兄よりマスター!!)
(ダメ!)
(……片手開いてるのに)
すいません。再UPしました。