パンプキン第七工業試作室 -5ページ目

パンプキン第七工業試作室

パンプキンヘッドによる試作と実験による可能性を模索するブログ

 

 注:この記事は2018年10月14日に掲載された自分のgooブログの記事を再掲しております。

 

「あ、当たらない……!」

 武骨な合成樹脂製の操縦桿を握りながら、少女は苦しげなつぶやきを漏らす。

 彼女のいる空間は狭く、暗かった。

 簡易ながらも少女の身長や体型に調整されている座席は、座り心地は悪いものではないが、長時間座っているにはあまりにも無理があるものだ。

 そして彼女が一心にその視線を注いでいる先には、様々な計器類の他に、モニター越しに見える平原の風景。

 その抜けるような青空を背景にして広がる緑の平原には、一つの、不格好な何者かの姿が映し出されていた。

 それはまるで二本足で立った足の長い鳥のような、黒く、また金属的な輝きを持つ姿をしていた。

 いや、鳥というよりは、もっと不恰好で、まるでオモチャとも呼べるような滑稽さがあった。

 それを少女は知っていた。

 “オストリッチ”。

 それがその奇妙な形をしたものの名前だった。

 その全高は5m程度で、その体を構成しているのは軽合金製の装甲と、そして様々な合成樹脂だ。

 それは“アクト・モビル”と呼ばれる機械の一つだった。

 アクト・モビル。

 全高5mから大きなものでは20mを超える作業用の機動作業機械。

 その用途は様々だが、多くは貨物運搬や建設土木作業などに従事している。

 しかし容易に武装を施すことも可能なことから、中にはビーム兵器やアクト・モビル用の作業用手斧などを装備し、簡易兵器として使用しているものも少なくない。

 もちろんそれは治安の悪化を招く原因ともなりえるもので、対抗措置として、同様に武装したアクト・モビルで警備する組織も存在する。

 そんな中で起こりうる散発的な戦闘。

 それは今まさに、ここで起こっていることに他ならなかった。

 戦って勝つ。ただ、それだけだ。

『お嬢、もっと足を使え!』

 少女の耳元にセットしてあるマイク兼スピーカーを兼ねたヘッドセットより、男性の力強い声が響く。

 しかし少女は、

「そんなことわかっています! それにお嬢というのは! キャッ!」

 少女の抗議にも似た声は軽い衝撃音と甲高い悲鳴とともに途絶える。

 彼女のいる空間のすぐ外で何かが命中したのだ。

「お嬢様、敵至近弾命中です! 外部損傷軽微。戦闘継続可能です!」

 彼女のすぐ前の方より声が響く。

 よく見ると、そこにも小さい座席が用意されており、少女のいる空間同様、座席と操縦桿、各種計器類とモニターが用意され、そこに丸メガネをかけた1mたらずの子猫にも似た生物が座っている。

 この子猫にも似た生物はヴァルナ―と呼ばれる人種だ。

 元々は行商などを生業とする人懐こい人種で、そのためこの世界各地で多く見受けることができる。

 ヴァルナ―の声を受け、

「わかったわ、ピチュア。姿勢制御できて?」

 少女は口早に指示を出す。その言葉にピチュアと呼ばれたヴァルナ―は、

「はい、もうやっています。反重力装置動作確認。正常に作動できます」

 その声とともに、少女たちのいる空間がやや平衡を取り戻す。

 そしてさらに軽い振動。

 今まさに、少女たちのいる空間が、どこかに向け疾走しているのだ!

『お嬢、大丈夫か?』

 ヘッドセットより再び先ほどの男性の声が響く。少し心配そうな声だ。

「大丈夫よ。それより敵は?」

 少女は気丈に答える。その声に男性は、

『すでに逃げの算段に入っているのかもしれんが、逃がしはしないよ。俺がしとめる! お嬢は援護してくれ!』

 男性の手短な声と指示。

 お嬢と呼ばれた少女も手短に答える。

「わかったわ。でも、そのお嬢と言うのはやめて!」

 口をとがらせての抗議。

 だが、ヘッドセット越しに聞えた男性の声には笑いが滲んでいた。

『冗談が言えるんなら大丈夫そうだな。じゃぁ、行くぜ!』

 男性の力強い声。

 しかし少女は心の中で、

『冗談なんかじゃないわよ……本気で言ってるんだから……』

 そう毒づきながらも操縦桿を握る手に力を込める。

 彼女のいる空間にはその動きに合わせ、急激なGが発生する。

 先ほどまでの振動はさらに激しくなり、そして飛び跳ね、それは少女たちの体を激しく揺さぶる。

 座席に備え付けてあるシートベルトで体を抑えているとはいえ、その衝撃は少女の体を激しく揺さぶり、長くカールした髪やまだそれほど豊かとはいえない胸を激しく揺さぶる。

 だが少女の視線は、モニターに映し出されているオストリッチの後姿を捉えて離さない。

 それは、今まさに彼女の前を疾駆している。

 少女は操縦桿を握る手にさらに力を込め、そしてそれを右に倒す。

 すると彼女のいる空間は右に激しく揺れ、まるで、なにか飛び跳ねたような感覚すら覚える。

 少女の髪がふっと浮き上がり、そして次の瞬間、激しい振動と共にまた下りる。

 彼女のいる空間がジャンプしたのだ。

 そして、モニター越しに移っていたオストリッチの姿は、後姿ではなく、正面から捉えたものになっていた。

「もう逃がさないわ!」

 少女は叫ぶ!

 その声に応えるように、

『よし、そのまま奴の動きを邪魔してくれ。俺もすぐに追いつく!』

 ヘッドセットから先ほどの男性の声が響く。

 モニター越しのオストリッチは、少女がいるであろう何者かの姿を目の前にして、その動きを止める。

 そこには躊躇や戸惑いが感じられた。

 オストリッチの機体前部に設置されているビームバルカンが少女のいる何者かに向け、狙いを定める。

 だが、その銃口からビームが発せられる前に、オストリッチの横腹を、何者かの巨大な拳が殴りつけた。

 激しく横転するオストリッチ!

 そして、少女が注視するモニターには、もう一機のアクト・モビルの姿が現れた。

 それは全高10mに達しようかという威容を誇っている、赤褐色の機体だった。

 人を模した姿をしているが、どうにも無骨な外観は、人というよりも機械やロボットのそれだ。

 両肩は大きく突出し、その間に小さな頭部がある。

 腕部は先端が大きくなった形で、まるで野獣のような感慨さえ抱かせる。

 足はやや長く、その姿は俊敏さを感じさせる。

 そのアクト・モビルは、高速移動で定評がある機体だった。

 “ブールタック”。

 最新式の高速移動型アクト・モビル。

 この世界、オルタナス銀河の半分を版図に治める星間国家、ダルシア銀河帝国にある有数の総合企業、オルバン・ダイン社が開発したアクト・モビルだ。

 この機体の前身には“コーカサック”と呼ばれる機体が存在するが、コーカサックが作業用だとすれば、ブールタックはやや戦闘用ともいえる性能を誇っている。

 高い走破性に加え、優秀な格闘戦能力と射撃戦能力は一般的な兵器としてみても見劣りするものではなく、前線の兵士にも歓迎されている。

 だが、最新式ゆえに値段も高く、必ずしもポピュラーな機体とは呼べない機種でもあった。

 それが今ここで、戦いを演じている。

 横倒しにされたオストリッチは、二本の足を器用に動かし、懸命に姿勢を立て直そうと務めていた。

 しかし、そこにさらに蹴りを加えるブールタック。

 その一撃はオストリッチの右足をへし折り、その戦闘能力を確実に奪う。

 さらに胴に一撃。

 オストリッチは激しく地面を転がり、そして、その動きを永遠に停止させた。

「おい、まだ生きてるんだろ? 生きてるんならハッチを開けて出てこい。 もちろん両手は頭の上にやってだ」

 ブールタックから、外部スピーカーを通じて男性の声が響く。

 その声に応じて、オストリッチにも動きがあった。

 機体上部にある小さな手動ハッチが開けられ、そこから一人のパイロットスーツを着た人影が現れた。

 両手を頭の上にやり、抵抗するそぶりは見せない。

「ピーノ、お前が奴を捕縛しろ」

 男性の声に応えて、ブールタックの後ろに控えていたもう一機のアクト・モビルから一人の男性が降り立ち、オストリッチのパイロットの身柄を拘束する。

「オッケーっすよ! ディーノの兄貴!」

 ピーノと呼ばれた青年は、パイロットの拘束をすますと、大声でブールタックに声をかける。

 するとブールタックにも動きがあり、

「よしわかった。今からそこに降りる」

 外部スピーカーから声が聞こえてからしばらくたつと、ブールタック胴体のハッチが開き、一人の直立した獣のような人物が姿を現す。

 それは獣人族ガンバント人だった。

 ガンバント人は、男性であれば直立した大柄な獣、女性であれば尻尾や獣耳が生えた肉感的な美女で、このオルタナス銀河各地で見受けられる人種だ。

 また肉体的にも頑強かつ優れているので、スポーツ選手や肉体労働者、テストパイロットなどの体を使った仕事に従事していることが多い。

 そのディーノと呼ばれたガンバント人の男性は、ブールタックから降りると、捕虜となったオストリッチのパイロットのもとに歩みを進めた。

 それを見ていた少女は、ふとピチュアに声をかける。

「私たちも出ていって大丈夫かしら?」

 その問いにピチュアは、

「はい。ディーノさんもああやってブールタックから出ているし、周囲に敵影もないようですし、大丈夫じゃないんでしょうか?」

 そう言うと、ちょっとずり落ちたメガネをちょこんと直すピチュアと呼ばれるヴァルナ―。

 少女はその声に、

「じゃあ、ピチュア。周囲の警戒よろしくね☆」

 そう言って、彼女の頭上にあるハッチを開け、今までいた暗く狭い空間より外に出る。

 彼女のいた空間。

 それもまたオストリッチの中だったのだ。

 彼女もまた、敵同様オストリッチに乗り、戦っていたのだ。青空に青く映える機体にだ。

 全高5mのオストリッチは、今足を曲げ降着姿勢をとり、2mの高さにまでその全高を下げている。

 ハッチから出た少女は機体装甲に設置されている手すりを伝い地面に降りる。

 そして、ディーノ達のところに歩みを寄せた。

 少女の姿を見て、ピーノと呼ばれた青年は、

「お嬢様、さっき攻撃が当たったようですが、大丈夫でしたか?」

 やや心配そうに、だが、決して重くない口調で言葉をかける。

「ただの至近弾よ。それより、これはどういうこと?」

 少女は捕虜となったパイロットに視線を移す。

 だが、パイロットはすでにディーノと話をしており、あらましはディーノに聞けばわかることだった。

「……というわけで、俺は斥候として派遣されたんだ……」

「で、俺たちに見つかったんで、やむなく戦闘に突入、か」

「まぁ、そういうことだ」

 言葉少なめに応えるパイロットに、ディーノはやれやれという表情を浮かべると、質問を変えた。

「で、誰の差し金だ? まさかお前たちのような野盗まがいの連中が、さしたる情報もなしにブールタックに襲い掛かるような真似はしないだろ? 裏にいる奴の名前を言え」

 ディーノは詰問口調で問いただす。

 その言葉にパイロットは一瞬息を飲み、頭を垂れ、そして観念したような沈んだ顔で、

「……ヴァルダークだよ……あの旦那が今回の元締めだ」

 そう言うと力なくうなだれる。

 だが、ディーノはその名前を聞くと、

「ヴァルダークか……厄介な奴が後ろについてるな……」

 そう独りごちる。

 その顔は、心底嫌そうな表情だった。

「ヴァルダークって誰?」

 少女はディーノの顔を見上げながら問いかける。

 身長150cm半ばの少女と、190cmを超えるディーノでは、まるで大人と子供ほどの身長差がある。

 まるで細面のオオカミを思わせるディーノの横顔は、獣面とはいえ、決して粗野な野蛮さは感じられず、むしろシャープな精悍さすら感じさせる趣がある。

 体も引き締まり、その表情からすでに中年を迎えているであろうディーノだが、決して中年特有の格好の悪さを感じさせない若々しさがあった。

 一方少女は、ブランドものだろうが、ちょっとだぶついたパイロットスーツに身を包み、その外観は十代後半の年相応の可愛らしさを感じさせた。

 顔も小ぶりで瞳が大きく、そして整えられた前髪とカールした長いもみあげ、そしてセミロングの髪は濃い藍色の輝きを放ち、白と緑を基調としたパイロットスーツにも映えるものだ。

 一見あどけなさが残る少女だが、だがディーノを見る眼差しには、別の何かがあった。

 

 しかしそんなことにも気づかずにディーノは、

「前から俺たち運び屋の間では有名な奴さ。依頼を達成するため、勝つためになら手段を選ばない、そんな下種な奴だよ」

 ディーノは唾を吐き捨てるようにその言葉を吐き捨てる。

 余程嫌な奴なのだろうというのはわかったが、少女はそんなことよりももう一つ気になることがあった。

「このパイロットさん、どうするの?」

 少女は小首を傾げて問う。

 それもそうだ。このままここに縛って置いておけば、遅かれ早かれ餓死か獣のエサだ。

「そうだな……とりあえずどうしたいか本人に聞いておくか」

 そう言うとディーノはパイロットに向き直り、

「これからどうしたい?」

 パイロットは小さな声で応える。

「……俺は、生かしてくれるんなら……一味から抜けたい……」

「ほう? それはどうしてだ?」

 ディーノが問いただすと、パイロットは答えた。

 このままもし帰ったとしても、任務を達成できなかったこと、そして貴重な機体を失ったことによって、ヴァルダークの叱責は免れない。

 そして、元々仲間を大事にしないヴァルダークのことだ。よくても満足な機体も与えられずに最前線に立たされるか、最悪その場で射殺もありうる。

 それならこの場から、一か八かでもいいから逃げ出して、彼らの手の及ばない場所で暮らしたい。

「確かにな……奴ならやりそうなことだ……」

 ディーノはそう言うと、しばし考えを巡らせる。

 そしてパイロットを拘束しているロープにナイフで傷をつけ、発煙筒と幾日分の携帯食を足元に置くと、

「俺たちは先を急ぐんで、お前のことは自分でやってくれ。とりあえず通信機やその他の連絡手段は取り上げさせてもらうが、発煙筒は置いておいた。なに、お前を縛っているロープは小一時間抜け出す努力をすれば切れるだろうよ。運が良ければ、発煙筒に気付いた誰かに拾われるだろう。その後は自分で考えな」

 そう言うと、パイロットに背を向ける。

 少女もピーノもそれに続き、彼らはその場を後にした。

 その後、そのパイロットがどうなったのかはわからない。

 だが、上手く助かってくれれば。

 そんなことを少女は思っていた。

 平原を行く彼らの頭上を、太陽が徐々に過ぎていく。

 風はそよぎ、先ほどの戦闘のことなどまるで感じさせない穏やかさが感じられた。

 しばし静かな時間が、彼らを包んだ。

 それから数時間後、すでに日も西に沈みかけた暮れゆく平原の中、彼らは今夜の野営をすべく、各機体を車座にして待機させ、そして食事の準備に入っていた。

 食事の準備は、ピーノと呼ばれた青年とピチュアの役割らしく、せわしなく動いている。

 その間、少女は自分のオストリッチの中で周囲の警戒に当たっていた。

 今日は幸いダメージを受けなかったが、万が一あれが直撃弾だったらと思うと、背筋が寒くなる思いがした。

 そんな彼女の様子を察したようにヘッドセットから声が聞こえた。

『お嬢、そんなに気にするな。生きてるんだ』

 ディーノの物静かな声。

 でも……

 少女は少し思う。

 しかしディーノの言葉は終わらなかった。

『もうすぐで飯の支度もできる。ここはピチュアと交代して飯を食いにこい。俺も話があるしな』

 不意の言葉に少女は少し思いを巡らせるが、

「うん。わかった……」

 それだけ言うと、ハッチから出てピチュアと交代に下に降りていった。

 そして、ブールタックからもディーノが出てきた。

「でも、こう何日も携帯食だと味気ないわね」

 少女が温めた携帯食を口に運んだときに独りごちた言葉を聞いたディーノは、思わず笑い声を上げ、

「やっぱりお嬢にはこういう生活は無理か? まぁ、お嬢様だからしょうがないけどな!」

 その言葉を聞くと少女はむっとし、

「そのお嬢、と言うの、やめてくれない?私にはシャールっていう名前があるんだから!」

 口をとがらせて抗議する。だが、ディーノは、

「ああ、わかったわかった。だが今日の戦いはよくなかったな」

 ディーノの一言にシャールの心に少し棘が刺さる。

「オストリッチは素早さが特徴の機体だ。真正面から挑んでも勝ち目はない。可能な限り後ろにつき、そして後ろから敵の排熱ダクトを破壊する、それが基本だ」

 その言葉に、シャールは沈痛な思いをする。

 そんなことは滅多にないが、でも今日は、少しは褒められるかも、と思っていた。

『いい援護だったよ、助かった』

 ただその一言だけでもいいから、聞きたかった。

 なのに……

 そんなシャールの沈んだ姿を見て、ディーノは心配げに声をかける。

「ん? 疲れてるのか。そりゃぁ野営はきついだろうからなぁ。今夜は俺のブールタックのラウンジで寝るか?」

 その言葉に、さらにシャールの視線が険しくなる。

『あなたと一緒の機体でなんて寝れるわけないじゃない』

 そう心の中で噛みつくと、黙々と携帯食を食べ続けた。

<第二章:指輪へ>

 

 注:この記事は2018年10月14日に掲載された自分のgooブログの記事を再掲しております。

 

 

 それは小さな恋の物語

 少女の心に芽生えた感情は、やがて形を変え、

 一つの想いへと成長した。

 しかしどんなに想っても、

 振り向かない彼。

 募る想いとやるせない気持ちの中で、

 やがて少女の心は屈折していく……

 果たして、この恋の行方は?
  
 ケモナーロボバトルダイナミックラブロマンス

 ”METAL・Rhapsody”

 開幕です。

 ※この物語は2013年10月に同人用の小説本として印刷されました。

 

 ○第一章:視線

 ○第二章:指輪

 ○第三章:涙へ

 ○第四章:激戦

 ○第五章:決意

 ○第六章:シャール

 ○第七章:微笑

 ○オマケ

 

 注:この記事は2016年10月23日に掲載された自分のgooブログの記事を再掲しております。

 

 ”ダンジョン・ヒルズ・ストーリー”に登場したキャラクターや場所のデーターです。

 

 

 

 

 ”ダンジョン・ヒルズ・ストーリー”を読んでいただき、ありがとうございました~☆

 

 注:この記事は2016年10月23日に掲載された自分のgooブログの記事を再掲しております。

 

 その一ヵ月後、ダンジョン・ヒルズの一画、外民区では一騒動が起こっていた。

 今まで歴史の影に埋もれていた謎の人物、ギブリゥが残したとされる禁断の書物“ギブリゥの遺言”が発見された、というニュースは、最初どういったことかわからないという風情だったが、見識者たちの口伝えで次第に大きくなり、それは一大ニュースとしてディバリア王国を席巻した。
 それはこのダンジョン・ヒルズばかりか、王都であるディバルドまで届き、その書物の獲得を巡り王都の魔術大学をはじめ、好事家の貴族や高名な魔術師たちまでをも巻き込んだ一大争奪合戦が演じられることになった。

 外民区にある高級な魔導書や書籍などを扱う書店「リーボック古書店」には連日着飾った貴族や魔術師、またその従者たちが訪れ、巷では到底お目にかかれない金額が入った袋やケースを持ち込んでは、店主のリーボック相手に激しい売買ゲームが演じられた。

 リーボックも強かなもので、より高い値がつくかもしれないと見るや押し、また、逃げるかもしれないと見るや引き、という駆け引きを楽しみ、その値段を法外なものへと吊り上げていった。

 それを聞き、リーボックに“ギブリゥの遺言”を売却したローレンは半ば呆れ顔で、

「あの古狸のオヤジのことだ。きっと上手くやるだろう」

 そう言うと、次の冒険に備えて図書館での資料集めに奔走していた。

 一方、「ガーウィッシュ・パイ」のカウンターで店番をしながら、一連の騒動を耳にしたエリナは、少し微笑みを浮かべていた。
 あの“ギブリゥの遺言”を見つけたのは自分たちであることを、そして、それを持ち帰ったのも。

 彼女たちのことを、一般の人たちは知らないかもしれない。
 だが、確かに自分たちはその冒険に携わっていたのだ。

 ふと、カウンターの端に置かれた小さな天使の人形に目をやる。
 それはローレンが別れ際にくれたものだった。

『たぶん、お嬢さんなら気に入るんじゃないかな?』

 ローレンの温かい言葉と、その可愛いらしい表情の天使の姿をした人形。
 今まで自分たちを冒険者としてみてくれないものたちは多くいたが、あのときのローレンだけは違っていた。
 ローレンは別れ際にエリナの手を握り、

『あのときの戦いぶりはよかったよ。あそこで逃げられていたら、俺もただではすまなかった。感謝している』

 そういうと、にこやかな笑顔をくれた。
 その顔にはいつもの皮肉な色は浮かんでおらず、真摯な、彼女が知る限りでは一番真摯な表情のローレンが笑顔があった。

『また、一緒に冒険できるかな……』

 ふと、右手で天使の人形の羽をいじる。

 すると天使の人形は軽く回転し、その穏やかな微笑みをエリナに向けた。
 エリナもつられて、また微笑を浮かべる。

 

 またあのときのように、心躍るような冒険がしたいな……

 そんなことを思っていたとき、店の扉が威勢よく開いた。

「エリナ~! またいい話があるんだけど!」

 その背は子供にしては大きく、若者にしては小さい。
 少し縮れた鮮やかな金髪に、その両脇にちょこんと立った猫を思わせる耳。褐色の肌に愛くるしい顔の少女は、満面の笑みを浮かべながらエリナに話しかける。

 その少女のいつもの声に、エリナも満面の笑みを浮かべながら応えた。

「アラ、リリット! また冒険のお誘い?」

 こうして、今日もまたダンジョン・ヒルズの日々は過ぎていくのだ。

 ダンジョン・ヒルズ・ストーリー(END)

 『キャラクターデーター』へ

 

 注:この記事は2016年10月23日に掲載された自分のgooブログの記事を再掲しております。

 

 通路の行き止まりは、大きな鉄扉で塞がれていた。

 その鉄扉は両開きではあったが、鍵のようなものはかけられておらず、また罠もないようだった。
 リリットは用心しながらも、片側の扉に手をかけると力をこめて引いてみた。扉は、耳障りな軋み音を上げながらも、大した障害もなく開くことができた。

 扉から注意深く中を見てみたリリットは、思わず息を呑んだ。

 内部は今までのどの部屋よりも大きな空間となっており、天井は温かい光を発し、両側の壁には幾つかの窪みがあるが整然と作られた本棚や宝物などを入れる上等で頑丈な箱が並び、さらに部屋の奥には、誰かの棺と思われるような、大きく長い箱が安置されていた。

 この部屋は、恐らくだがギブリゥ本人の墓所となっているのだ、とリリットは冒険者の勘で感じとった。

 そして二人はその内部へと歩みを進めた。
 部屋を少し歩いてみると、エリナが声を上げた。

「なに? この変なの?」

 その声にリリットはエリナのほうを見た。
 エリナは壁にある窪みの一つの前に立って、その中を覗いていた。リリットも誘われて覗いてみた。
 そこにはまるで動物かは虫類の骨を継ぎ足して作ったような、2mほどの不気味な人形のようなものが納められていた。
 リリットはその存在を以前見たような気もしたが思い出せず、携帯型コンピューターを持ち出して照合してみた。そして、それは驚くべき結果を弾き出した。

『照合確認……対象名“ブレーダー”』

 エリナには何のことかわからなかったが、リリットはこの事実に衝撃を覚えた。

 ブレーダー!

 それは、以前より太古文明の遺跡などで多数確認された怪生物の名前だ。非常に強力な攻撃力を持ち、また不死性があることから遺跡の番人として使われていた。
 そしてそれがこの部屋にいる!

 リリットは慌てて後ずさり、他の窪みも覗いてみた。
 果たして、その窪み全てにブレーダーがいることを確認した。

「ま、まずいよ!今すぐ逃げよう!」

 そう叫んでエリナの手を引いたそのとき、不気味な咆哮と共に、窪みに納められていたブレーダーたちが一斉に目を覚まし、動き出した!
 その外見は、まるで骨を継ぎ合わせたような不気味なもので、両腕はその名の由来にもなっているように、巨大な鎌とも刃ともつかないものだ。
 それは骨と骨とをこすり合わせるような軋み音を上げながら、急速にリリットたちに迫ってくる。

 リリットは慌ててエリナの手を引いて逃げ出そうとしたが、エリナはこの事態に動転して足がもつれて転んでしまった。
 それを見て、無表情に片腕の刃を高々と上げ、今にもエリナに振り下ろさんとするブレーダー。リリットは覚悟を決め、その間に割って入る。そして刃が振り下ろされた!

 重い何かが衝突しあい、周囲の空気を振動させる
 甲高い金属音と共に、リリットは体に衝撃を覚えた。地面に突き飛ばされたのだ。

『もう……ダメ……』

 リリットは大地に伏せながら思った。もうすぐアタシは死ぬ……お父ちゃん、アタシももうすぐ逝くよ……

「馬鹿! なにやってんだ!」

 突然の罵声にリリットの消えつつあった意識が現実に引き戻された。いや、アタシまだ死んでいない!

 そして後ろを振り返る。

 そこには、全身を特殊装甲で覆った白いアーマースーツを着込んだ人影があった。先ほど攻撃を仕掛けてきたブレーダーの刃を、巨大な剣で防いでいる。

「えっ! あっ? えっ~!」

 リリットは混乱した。こんなところにアーマースーツを着込んだ人がいるわけがない。でも、確かにいる!

「リリット!」

 部屋の出入り口から声がし、リリットは見た。
 そこには先ほどまで倒れていたエリナがいた。すでに避難していたのだ。

「エリナ!」

 リリットが声を上げる。しかし、その間にもアーマースーツの人影はブレーダーの群れとの戦いを演じていた。
 ブレーダーは単体では強いが、まるで連係がとれていない。だからアーマースーツの人影は一体を攻撃しては巧みに攻撃をかわし、また別の一体に攻撃を加える、というフェイントをかけつつ攻撃を繰り出していた。
 その姿を見てエリナは、

「リ、リリット! 逃げましょう! あんなの相手じゃ私たちでは無理!」

 必死に叫ぶ。リリットも、

「う、うん! に、逃げよう……」

 すでに意気消沈したのか逃げ腰になって撤退を開始する。しかし、その間にもアーマースーツの人影はブレーダー相手に戦いを演じ、そして傷ついていく。
 そのことにリリットは一抹の罪悪感を抱かないではなかったそのとき、

「逃げるな! お前たち、それでも冒険者か!」

 アーマースーツの人影がそのことを察したのか叫ぶ。

「お前たちのその武器は張りぼてか!」

 一体のブレーダーを袈裟懸けに切り伏せるものの、もう一体からの攻撃を受け、その刃はアーマースーツの人影の右肩に激しく叩きつけられた。傾ぐ人影。

「だからお前たちは、いつまでたっても馬鹿にされるんだ!」

 その攻撃にもめげず、アーマースーツの人影は攻撃してきたブレーダーの顔面に深々と剣をつきたて、その機能を停止させる。血は出ることなく、奇怪な絶叫と共に息絶えるブレーダー。

「悔しくないのか! リリット!」

 自分の名を叫ぶその声に、リリットはハッとなった。

 この声はどこかで聞いたことがある。心の奥底に刻まれた声。決して、忘れてはいけない声。

 リリットは背中のグレートソードを引き抜いて構えた。その動作にエリナが息を呑み、

「リ、リリット……?」

 そう呟くもリリットは、

「エリナ、ゴメン! 悪いけど、アタシ逃げられない!だから……巻き込んじゃうけど、アタシを援護して!」

 
 

 そう叫び、突撃の姿勢をとる。それを聞きエリナは、

「……リリット……」

 呟き、一歩後ずさる。だが、リリットはすでに戦いの渦中にある。

『私だけ……逃げるなんて……』

 エリナは逡巡するが、その最中でもリリットはブレーダーの攻撃を受け、壁際に弾き飛ばされる。それを追うように追撃するブレーダーを後ろから切り伏せるアーマースーツの人影。
 リリットはすぐに立ち上がり、再び剣を構えなおし突撃する。その右腕からは赤いものが流れ落ちる。

『……!』

 エリナは弓を構え、矢をつがえた。
 その目標を、リリットに今にも襲いかからんとするブレーダーに定め、放つ!
 矢は一直線でブレーダーに飛び、そして……その硬い外皮に弾かれた!

『!?』

 エリナは衝撃を覚える。私の弓の腕ではダメージを与えることができない!
 しかしそこにリリットの声がかかる!

「直接倒そうとしちゃダメだ! アタシを援護して!」

 するとリリットは腰を低くし、グレートソードを後ろに引く。力を溜める体勢に入ったのだ。

 エリナは悟った。これはリリットが以前話していた必殺の一撃を発する姿勢だと。これさえ出せば、大概の敵は一撃で沈むことを。
 だが、その技は発動するには隙も多く、敵の攻撃も受けやすいし、また攻撃が必ずしも当たるとは限らない。

『だからリリットは援護してって……!』

 エリナは再び弓を構えなおし、矢をつがえる。
 先ほどのリリットを切り伏せんとしているブレーダーに狙いを定める。
 だが、次の攻撃は違う。
 ダメージを与えるのではない。一瞬でも注意をそらし、ブレーダーに隙を作ることさえできればいいのだ!
 そして、満身の力を込め矢を放つ!
 放たれた矢はブレーダーの後頭部に直撃した。しかし、また外皮を貫通した感覚はない。

 だがその一撃はブレーダーをエリナに振り向かせるには十分だった。ブレーダーは殺意をこめてエリナを見る。

 その隙をリリットは見逃さなかった。一歩右足を前に出し、後ろに引いていたグレートソードを、体重移動と力任せで大きく振り回す!

「いっけ~! 渾・身・撃!!」

 その一撃は、エリナに振り向いたブレーダーの腰に直撃し、ブレーダーの上半身と下半身を両断した!
 振り回された剣の重量に負け、一緒に転がるリリット。
その脇に、今しがた両断されたブレーダーの上半身が、重い音を立てて地面に叩きつけられた。
 ブレーダーの瞳は、自分に何が起きたのかわからないといった色を浮かべていたが、それもすぐに消え、白く濁った球体へと変化した。

 ふと、エリナが周りを見ると、他に動いているブレーダーはすでにいなくなっていた。他は、アーマースーツの人影が倒してくれたのだ。
 こうして、一つの戦いは終わった。

 転がっていたリリットがやっとの思いで起き上がると、アーマースーツの人影が近寄り手を差し伸べた。

「よくやったな」

 リリットは最初は手を出そうかどうか迷った。

 警戒したからではない。

 その瞳は最初差し伸べられた手を見つめ、微かに伏せ、そしてアーマースーツのヘルメットの面貌へと注がれた。リリットはその顔ににこやかな笑みを浮かべ、頬が、少しだが上気しているようにも見える。
 そして、手を握ろうとしたそのとき、

「大丈夫か? 子猫ちゃん?」

 その言葉にリリットは愕然とし、笑顔が凍りついた。

 確かにこの声は以前聞いたことがある。決して忘れてはいけない、いや、忘れてやるもんか、という!

「あれ、なに変な顔してんの? 俺だよ、俺!」

 そう言うとアーマースーツの人影はヘルメットを外す。
 そこにはリリットがよく見知った、そしてできればこんな状況では出会いたくない顔があった。
 エリナが驚愕と興奮で声を上げる。

「ローレンさん!」

 そう。それはリリットが最も嫌う男、ローレンその人であった。

 それからというもの、ギブリゥの残した遺産を回収するための作業に移った。
 最初はその活躍具合から、多くをローレンが持っていくものと決めつけていたリリットだったが、意外にもローレンは無欲で、幾つかの装飾品と、また部屋の奥にあった、やはりギブリゥの棺だった箱の中に納められていた一冊の本を回収すると、あとはリリットたちに譲る、と宣言した。
 そのことをいぶかしんだリリットは、

「さては……その本が非常に貴重なものなのね!」

 そう言うとローレンに凄い勢いで詰め寄った。
 その剣幕に困ったローレンは頭に手をやり、

「いやぁ、確かにそうなんだけどさぁ……子猫ちゃんたち、知らなかったの?」

「なにがよ?」

 リリットが居丈高に言い放つ。しかしローレンは意外と冷静に、口元に微かな皮肉の色を浮かべ、

「このダンジョンの主、ギブリゥは、確かに在野の魔術師で名は知られていないが、その実、複数の高名な魔術師や妖術師と緊密な連絡を持っていてね」

 エリナはその話に耳を欹てる。その話はリリットからは聞いていない。

「確かに歴史書の多くには存在すら記載されていない人物ではあるが、複数の高名な魔術師の日記や書簡にはその名が書かれていて、その才能の高さや知識に深遠さを謳っているんだよ」

 リリットはその話を聞きながら、自分の知っている情報との齟齬に頭が混乱していた。

「そしてそれらの書簡では、ギブリゥが晩年、最近話題にもなっている王宮から盗まれた禁断の魔導書“グェルドムの言葉”にも匹敵する、禁忌の呪文や知識を多数記した書物を製作しており、それはギブリゥの死後、一緒に埋葬された、という記述がしばしばあってね」

 そこまで聞き、リリットの顔色が変わってくる。

「だから今回の情報で、ギブリゥという人物の名前が出たときに、もしかしたら! と思ったわけよ」

 ローレンはさらっと事件のあらましを話す。しかし納まりがつかないのはリリットだった。

「アタシ、そんなこと聞いてない! あの情報屋、アタシに嘘を言ったのね!」

 それを聞くとローレンは大げさに手を振り、

「いやいやいやぁ、これは俺の長年の経験と知識からのもので、あの情報屋は本当に知らないと思うよ。と言うか、あのにーちゃん、俺と子猫ちゃんに二股で情報売りつけるなんて冒険稼業の風上にも置けないなぁ……あとでとっちめてやらんとな」

 そう言うとカラカラと笑ってリリットの頭を手荒く撫ぜた。
 リリットは悔しさと恥ずかしさのあまり、その手を払うことができず、屈辱に目に涙を浮かべながら黙って頭を撫ぜられていた。

 それから回収できるものを回収すると、三人はダンジョンの外に出た。
 外はすでに日も沈みはじめており、西の空は藍色の色彩を帯びはじめていた。

「子猫ちゃんたち、乗ってかない?」

 ローレンが声をかける。そこには、このショールーンでは滅多にお目にかかれない、反重力で飛行する車両、スピナーが止められていた。

 リリットは最初断ろうとしたが、エリナがいることもあり、その申し出に渋々従った。このスピナーに乗りさえすれば、野宿して明日の朝帰ることもなく、数十分でダンジョン・ヒルズに帰ることができる。
 そして三人は、ギブリゥのダンジョンを後にした。

 帰りの車中、エリナは興奮の中にあった。

 あの冒険のこと、思いもかけず得られた幾つもの宝物のこと、そして、意外な一面を見せたローレンのこと。
 その口は軽く弾み、屈辱で沈むリリットとは対照的に、いつもの彼女よりも魅力的に見せた。
 ローレンも、この冒険初心者との会話を楽しみ、車中には和やかな空気が流れていた。

 そして三人は街につき、ガス灯の灯る中、エリナはリリットに別れ際言葉をかけた。

「あのね、リリット……今後の冒険のことだけど……」

 エリナのおずおずとした声に、リリットに不安が走る。もう冒険に誘っても断られるかも……

「私ね……もうちょっと危険な冒険でも……いいわよ」

 そういうと、エリナはニコッと笑った。

 『第5章:ダンジョン・ヒルズの日々』へ