-19d-2から



〈貨幣と泥棒の神〉様は真っ向から立ち向かった。


「たとえ、永遠を生きる御身から見て、如何(いか)に


愚かに思われようとも、我が愛(いと)し子は命。


降り掛かる苦難に耐え、両の足で道を歩こうとする者。


そのような侮蔑は向けて頂きたくない」


〈御蔵の主(みくらノぬし)〉は呆れた。


「…それほどまでに、大事か?


時を同じくするなど、叶うまいに…」


揶揄(やゆ)の気配を含んだ言葉に、激しく反発した。


「―、共にする時の長さに拘泥(こうでい)するなど瑣末


(さまつ)!もし、その程度が〈神〉の矜持(きょうじ)ならば、


そのようなもの―、塵芥(ちりあくた)以下よ!!」


「――」


交錯する視線。


不意に、〈御蔵の主〉は心からの微笑を見せた。


「―見事。


〈契約〉に囚われたといえど、在りし日と変わらぬ矜持、


真実、見事よ。実に良き子と巡り逢(お)うたな。為さぬ子とは


言え、育てることで汝(なんじ)自身をも長(ちょう)じさせたか。


真(まこと)、見事―」


「……」


真摯(しんし)な賛美に、ノルドは戸惑う。


魔盗賊さえも、何時しか、暴れを止めて、


心を奪うほど美しい微笑に見入っていた。


しかし。


その笑顔は露と儚(はかな)く散り失せたのである。


「けれど、私はその子を殺そう。嬲(なぶ)って辱(はずかし)


め、責め苛(さいな)んで許しを請わせ、挙句(あげく)に引き


千切り、その御魂(みたま)もろとも塵にして打ち棄ててやる。


―我が名、我が力、我が矜持に賭けて―!!」


ノルドが胸中で畏れ続けていた最悪の可能性は、


呆気ないくらい簡単に浴びせられてしまった。




ノルドは真っ白な顔で最高神である少年を凝視する。


「……馬鹿、な……、馬鹿な!馬鹿な!!!〈御蔵の主〉よ!


貴方は、一体、何を口にしたのか判っているのか!!?」


激昂する〈商売と泥棒の神〉と〈御蔵の主〉の視線が


火花を散らした。


〈神〉々を統括する至高の存在の声は


何処までも凍りついていた。


「初めに言ったはずだ。


貴様の都合など、知ったことではない、と」


ノルドは戦慄(わなな)いて、上位神を弾劾(だんがい)する。


「…許されるはずが無い―!世界の極点に立とうという者が、


たった一つの命を、渾身の力で以て殺(あや)める?


―許されるはずが無い!!!」


「――ほう!?…私の面子(めんつ)を潰しておいて…、


よくも抜け抜けと言えた…!!」


〈御蔵の主〉の底深い怒りは、


〈貨幣と泥棒の神〉様の激情に冷や水を浴びせる。


冷たく、鋭い侮蔑に戸惑いながらも、


不可解な単語を反芻(はんすう)した。


「…?…面子…?…私が、何時…?」


「皇家の守護を担(にな)い、


ひいては帝国全土を神域とする私が、


貴様の〈借換(しゃっかん)術〉を見落としているとでも―?」



-19e-2へ続く