-8e-1から
古い話題はもう終わりとばかりに、
ディクトールがグラルドの腕を引いた。
「ほらほら。壁の花なんて、男がやっていても
美しくないんだからさ」
気配りなのか気まぐれなのか判り兼ねて、
グラルドはため息をつく。
「…そんな事言ったって、
〈緑樹の宝飾〉を見に来ただけだろ?」
実際、グラルドとエメリアはそのつもりで美術館に
やって来たのである。
ディクトールは澄ました笑顔を見せた。
「それは注目の目玉!この特別展示会だって、
れっきとした青田刈りの場なんだから。
投資できるぐらい将来有望な若手に出会えたら、儲けもの。
違う?」
騎士団への入団を選ばなかったら当然のように
感じていただろう、幼馴染みの変わらなさに、
グラルドはどこか負けたような気分になった。
「違わない」
「それに、御婦人の着替えだからね。時間は必要だよ」
「ごもっとも」
先陣を切るようにディクトールが歩き始めていたので、
グラルドの返事は独り言のようになった。
上機嫌を絵に描いたような幼馴染みの後を追って、
グラルドも歩き出した。
「結構、色々出てるんだな」
「うん。思う以上にたくさんあって、楽しいね」
大粒の赤鋼玉に精緻な銀鎖をあしらったカフスや、
透明度の高い緑柱石から削り出したタイピン、の
ような小物から、水晶を基調にして、黄玉、翡翠、
かんらん石でグラデーションを表現したドレスのように
大型のものまで、凝りに凝った作品が所せましと
陳列されている中を無造作に歩き過ぎていく。
ふと、展示室の切り替わりに設けられた休憩所に
立ち寄り、グラルドはディクトールに椅子を勧めた。
展示場の賑(にぎ)わいに負けない質と数の人々が、
立ちながら、あるいは座りながら歓談に花を咲かせている。
「ちょっと待ってて。飲み物、取って来る」
ディクトールはそう言って、飲料が用意されている
休憩所の対面へ小走りに駆けて行った。
その方向を見つめて、グラルドはため息をつく。
(こんなにたくさんの人が集まる場所にくるのは、
本当に久しぶりだ)
目の前を行き交う、幾人、幾組もの紳士淑女たち。
笑いさざめく者あり、感嘆しきりな者あり、こちらに
好奇の目線を投げてくる者あり、だった。
-8f-1へ続く