-2oから
クトゥナは異能を受け継ぐ〈古の民〉の一翼でありながら、差別を受け続けてきた部族だ。
数千年に及ぶ歴史の中で、
差別する側もされる側もお互いを忌み嫌い合い、振り返ることさえ無くなっていた。
そうして生まれた感情の歪みと存在の歪みを煽られ、利用された結果、
30年前の戦争が起きたのである。
クトゥナの民のほとんどは最期までこの世を憎み、
絶望を胸に呪いぬいて滅びることを覚悟し、あまつさえ、それを望んだのである。
戦争終盤に発生し、その戦役の名の由来となった〈黒竜〉の召喚に至っては、
クトゥナの暴走の産物だった。
終戦に至ってさえ、その心情は変わることがなかったという。
しかし、皇帝は戦争の原因を開示した。
従来のように、敵国の宣戦布告を否定し、
クトゥナの弾圧を黙認する態度を示さなかったのだ。
帝国で公然と行われてきた迫害が生み出した憎悪と絶望が引き金になったことを知らしめ、
帝国民全てが戦争に加担したのだと認めたのである。
勝者はなく、ただ傷痕(きずあと)だけを残した内戦を経て、
クトゥナはようやく陽の目を見ることが許される機会を手に入れた。
しかし、それを素直に認め、受け入れられる者は少なかった。
被害者感情の強い、戦役以前からの帝国民はもとより、
生き残ったクトゥナの民たちもまた葛藤し、戸惑ったのである。
戦争を知らずに生まれて、育った者たちにさえ漂う無言の負い目。
それは重くのしかかり、
新たな差別を産むこともなければ、和合の呼び水となることもなかった。
20年以上も経ってなお、半分とはいえクトゥナの血を引く人間が、
国家を担う人材の育成機関の扉を叩くことは想定外の事態だった。
グラルドの選択は非常に例外的で、かつ稀有であり、帝国民にも、クトゥナにも、
それが新たな希望なのか、痛みにあえぐ者への裏切りなのか判然としなかった。
玄関まで来ると、デイルニーは断りを入れた。
「ここまでで大丈夫だ」
「…。おやすみなさい、小父さん」
「ああ。おやすみ」
グラルドは小父の背中が見えなくなるまで、じっと見つめていた。
-章2 了 章3へ続く