本田小説|研修医の影と逮捕の真相と中道優人の推理

中道優人が大学病院で研修医として働き始めて半年が過ぎた頃、病院内に重い空気が漂い始めた。 原因は一つ──同じ研修医の一人、三谷亮介が突然「患者への傷害容疑」で逮捕されたのだ。

三谷は優人と同期で、真面目で温厚な性格だった。 患者への対応も丁寧で、看護師からの信頼も厚い。 そんな彼が、担当患者に「意図的に過量投与を行った」という容疑で逮捕された。 病院内は騒然となり、優人も信じられない思いでニュースを見つめていた。

「三谷が……そんなことをするはずがない」

優人は胸の奥に強い違和感を覚えた。 三谷が担当していた患者・田所は、心臓疾患で入院していた男性だ。 容体は安定していたはずなのに、ある夜突然急変し、翌朝には亡くなっていた。 その直後、投与された薬の量に不自然な点が見つかり、三谷が容疑者として浮上した。

しかし、優人は知っていた。 三谷はその夜、別の緊急患者の対応でナースステーションから離れられなかった。 田所の病室に行く時間など、なかったはずだ。

「何かがおかしい……」

優人は静かに調査を始めた。

■カルテの“書き換え”

田所のカルテを確認すると、投与量の記録にわずかな“揺らぎ”があった。 数字の筆跡が途中で変わっている。 三谷の字ではない。

優人はカルテ管理室の担当者に尋ねた。 「このカルテ、誰が最後に触りましたか」 担当者は少し戸惑いながら答えた。 「……指導医の白石先生です。急変後の確認で」

白石──優人の指導医であり、病院内でも権威のある医師だ。 冷静沈着で、優秀だが、どこか近寄りがたい雰囲気を持つ。

「白石先生が……?」

優人の胸に冷たいものが走った。

■薬剤の“入れ替え”

次に薬剤部を訪れた。 田所に投与された薬のロット番号を確認すると、急変した日の分だけ番号が違っていた。

薬剤師は首をかしげた。 「このロット、通常は循環器内科では使いません。誰が持ち出したのか……記録が抜けています」

記録が抜けている──それは、意図的に消された可能性を示していた。

優人はさらに調べた。 薬剤庫の監視カメラ映像を確認しようとしたが、担当部署は「閲覧には上層部の許可が必要」と言って拒んだ。 その態度は妙に硬く、優人は胸の奥に不穏な影を感じた。

■三谷の“証言”

拘留中の三谷に面会することはできなかったが、彼が残したメモを看護師から受け取った。 そこには震える文字でこう書かれていた。

「田所さんの薬、誰かが触った。俺じゃない。信じてくれ、中道」

優人は拳を握りしめた。 三谷は嘘をつく人間ではない。 彼の言葉は、優人の中で確信へと変わった。

■白石の“秘密”

優人は白石に直接問いかけることを決めた。 夜、白石が一人でカルテを見ているところを訪れた。

「先生、田所さんの薬に違うロットが混ざっていました。何かご存じですか」

白石は一瞬だけ目を伏せた。 その沈黙は、優人の不安を確信へと変えた。

「優人、深入りするな。これは……君が扱うべき問題ではない」

「どういう意味ですか」

白石は静かに言った。 「田所さんは、医学部時代から続いている“研究”の対象だった。三谷君は……その邪魔になった」

優人は言葉を失った。 研究──それは、患者の同意が必要なはずだ。 しかし田所はそんな話を一度もしていない。

「まさか……無断で?」

白石は答えなかった。 ただ、優人の肩に手を置き、低く囁いた。

「この病院には、触れてはいけない領域がある。君はまだ研修医だ。守れるものを守れ」

その言葉は、忠告であり、同時に“警告”でもあった。

■真相への一歩

翌朝、田所のカルテは突然「閲覧不可」に変更されていた。 理由は「個人情報保護のため」。 しかし優人は知っていた。 これは、何かを隠すためだ。

三谷の逮捕は、病院が“誰か”を守るための犠牲。 そしてその“誰か”は──白石を含む上層部だ。

優人は静かに決意した。

「三谷の無実を証明する。田所さんの死の理由を、必ず突き止める」

白衣の袖を整え、病院の廊下を歩き出した。 その背中には、研修医としての迷いではなく、真実を追う者の覚悟が宿っていた。

 

本田先生